2019/7/21

労使協定方式による派遣労働者の賃金

 
 2020年4月施行の改正労働者派遣法により、派遣元事業主は、

1.「派遣先均等・均衡方式」(派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇の確保)
2.「労使協定方式」(一定の要件を満たす労使協定による待遇の確保)

 のいずれかによって派遣労働者の待遇を確保することが義務づけられた。同一労働同一賃金を目指す働き方改革の一環である。

 1の方式は、派遣先の賃金等の情報入手が必要となることや、派遣先によって賃金が変わってしまうことなどから、採用は難しいと思われ、2の「労使協定方式」が主流を占めることが予想される。

 2のポイントは、「同種の業務に従事する一般労働者の賃金(一般賃金)」と同等以上とすることである。これについて、今月の8日、厚生労働省から一般賃金の水準(「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」等)が公表された。

 その中で注目されるのは、賃金が「能力・経験調整指数」により、経験年数に応じて昇給する仕組みが設けられていることである。たとえば、3年目の派遣労働者は初年度の約1.3倍、10年目は約1.6倍となり、現状の派遣労働者に比べて大幅なアップが見込まれる。この点を詳しく解説したいところだが、まずは制度の概要を整理しておきたい。

 「一般賃金」と同等以上かどうかの比較は、次の3つの観点から行う(3つを合算して比較することもできる)。
 
A.基本給・賞与等
B.通勤手当
C.退職金

 Aには、家族手当や役職手当などの諸手当も含むが、時間外・休日勤務手当や深夜勤務手当は含まない。

 まず、Aの比較は、毎年公表される通達を用いて、「職種別の賃金×能力・経験調整指数×地域指数」という算式により一般賃金を算出する。職種別の賃金は諸手当や賞与込の時給となっている点がポイントだ。これと実際に派遣労働者に支給する基本給・諸手当・賞与を時給換算したものとを比べ、後者が上回ればOKということになる。

 B(通勤手当)については、次の①または②のいずれかを労使の話合いで選択する。

①実費支給により「同等以上」を確保する
②一般の労働者の通勤手当に相当する額と「同等以上」を確保する

 ここでの「同等以上」の算定に使うのは一般通勤手当(72円/時)である。

 Cの退職金は、次の①~③のいずれかを労使の話合いで選択する。

①国が示した各種調査結果の中のいずれかを選択し、それと退職手当制度を比較
②同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準に退職費用分(6%)を上乗せし、その上で両者を比較
③中小企業退職金共済制度に一定の掛金以上(給与の6%以上)で加入

 このように何ともややこしい仕組みが設けられた上、派遣料金の引き上げも必至で、その交渉も含めて、派遣会社の苦労は大変なものになりそうだ。ただ、制度面については、追ってQ&Aが公表されるとのことなので、よりわかりやすくなると思われる。

 一方、派遣先企業も負担の増加は間違いなく、派遣労働者の削減や廃止も視野に入ってくるだろう。こうして制度の具体的内容が明らかになると、今回の改正が、派遣元・派遣先双方に重大なインパクトを与えるのをあらためて感じる。
 

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