2019/5/13

時間外労働上限規制は守られるか

 
 先日、厚生労働省から、2018年11月に実施した「過重労働解消キャンペーン」における重点監督の実施結果が公表された。監督指導対象は8,494事業場で、このうち全体の67.3%に当たる5,714事業場で労働基準関係の法令違反が見つかったとのことだ。

 主な違反内容として、挙げられたのは次の3つだ
 
①違法な時間外労働 2,802事業場(33.0%)
②賃金不払残業 463事業場(5.5%)
③過重労働による健康障害防止措置の未実施 948事業場(11.2%)

 ①のうち、月の時間外・休日労働時間が最長の労働者を調べると、

・80時間超 1,427事業場(50.9%)
・うち100時間超 868事業所(31.0%)
・うち150時間超 176事業所(6.3%)
・うち200時間超 34事業所(1.2%)

 とのことである。2019年4月(中小企業は2020年4月)施行の労働時間規制の新ルールでは、単月の時間外・休日労働時間の上限は100時間未満で、これを当てはめると868事業所がアウトということになる。監督指導対象企業全体でいえば1割強だ。

 これ以外に複数月平均80時間以下という規制もあるので、「80時間超100時間以内」の559事業場の何割かはこれに引っかかると思われる。さらに言えば、上記は法違反をした企業であり、法違反はなくても80時間超の労働をさせた企業もあるはずなので、新ルールに抵触する企業の割合はさらに高まると考えられる。

 もちろん、監督が行われたのは施行前のことなので、今年4月から施行となった大企業は上限に収まるように努力しているだろう(企業規模別に見た監督実施事業場数で300人以上は3,073(36.2%)となっている)。

 では、2020年4月から規制対象となる中小企業は大丈夫かといえば、少々、いやかなり心もとないと言わざるを得ない。中小企業の対応が困難な理由を挙げれば、

・人手不足のうえ、人材も集まらない
・対応のための人事等の人材が不足している
・元々の人員が少ないため、大企業のように配置や異動などの融通が利かない
・時短のための情報化投資をしようにもカネがない
・大企業の時短のしわ寄せがある
・コンプライアンス意識が希薄で、特に労働法関係は順法意識が低い‥‥
 
 など、きりがない。零細企業の中には、上限規制自体を知らない企業もあるだろう。

 このように危なっかしい状況にあるのは確実で、おそらく2020年4月以降、新ルールを守れない企業は少なからず出てくると思われる。

 労基署もその辺はわかっているはずで、多少の違反をしたからといっていきなり是正勧告をせず、指導票の交付で収めるのではないかと思う。ただ、それは程度の問題であり、大幅な限度時間超過は厳しい処分を受けるだろう。

 中小企業の対応としては、限度時間に収めることがもちろんベストであるが、少なくともその努力の姿勢を示すことが大切だと思う。たとえば、具体的な時短の取り組み策を考え実施するとともに、2018年度に比べて2019年度、2020年度はこのように減少させているという実績を示すことである。絶対に無理だからと開き直って何もしないのは、リスクが高いと心得るべきである。

 最後に、実際は上限をオーバーしているのに、それを隠して表面上は上限に収まっているよう見せかけるといった“残業隠し”は絶対にやめたほうがよい。労基署を欺くような行為は、是正勧告では済まず、送検扱いになりかねない。そうなると、企業名が公表され、ブラック企業の認定を受ける可能性があることを認識しておきたい。
 

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