2020/6/22

パワハラ裁判では何が考慮されるか

 本年6月から職場におけるパワーハラスメント対策が大企業に義務付けられた。経営者や社員にとって一番の関心事は、どのような行為がパワハラに該当するかだ。

 判断にあたって、裁判でどういったことが考慮されているかを考えるのは有効だろう。労働政策研究・研修機構(JIL)の「パワーハラスメントに関連する主な裁判例の分析」という資料でその整理がなされている。

 資料で示されているのは次の3つである。それぞれ見ていこう。

(1)言動の内容・態様 
(2)被行為者(※被害者)の属性・心身の状況 
(3)被行為者の問題行動の有無とその内容・程度
 
(1)言動の内容・態様
 当該言動の内容や態様は、分析対象となったすべての事案で考慮要素になっているとのことだ。当然といえば当然のことだろう。

・「てめえ、何やってんだ」と怒鳴る。
・「死ねよ」「殺すぞ」との言動。
・「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います」とのメールを被行為者(被害者のこと)やその職場の同僚に送信する。

 などの例が紹介されている。

 言動の内容だけでなく、継続性や時期、あるいはその言動がなされた時間帯も考慮されるケースがあるという。

 継続性というのは実行期間の長さや執拗さの程度で、時期とは、たとえば、「配転されてから1か月しか経過せず、仕事にも慣れていない時期」が評価されるということだ。時間帯というのは、叱責のメールを深夜に送るというようなケースである。

 もちろん、「言動の内容・態様」だけで決まるわけではない。強い叱責があったとしても、(3)にて指摘するように、被行為者に一定の問題行動があったような場合に、パワハラを否定された事案もある。ただし、「身体的な攻撃」がなされた場合で、否定事案はないという。「身体的な攻撃」は、パワハラ該当の可能性を強く高める要因になるといえそうだ。

(2)被行為者の属性・心身の状況
 被行為者の属性とは、年齢や職位などだ。たとえば、新人であることに着目するものは、比較的多く見られるという。学校を出たばかりの新人であればミスも多く、また、そのミスに対する叱責をうまく受け流す処世術も未熟であるからだ。

 心身の状況とは、たとえば、うつ病であることを知ったうえでの言動などだ。他にも、アルコールに弱いことを知りながら、「酒は吐けば飲めるんだ」などと飲酒を強要した例(いわゆるアルハラ)も例示されている。

(3)被行為者の問題行動の有無とその内容・程度
 被行為者の何らかの問題行動(不正行為や仕事上のミスなど)がきっかけで、ハラスメント言動を生じさせるケースだ。

 事例として、ミスにより設備や機械を損傷するような事故をしばしば起こしていたところ、行為者が「てめえ、何やってんだ」、「ばかやろう」など怒鳴るほか、複数回にわたって頭を叩いたり、殴ったり蹴ったりしたことに加えて、会社に与えた損害を弁償するように求めたケースは、「仕事上のミスに対する叱責の域を超え」ているとして、パワハラが認められている。

 一方で、不正経理を続けた被行為者に、改善指導として過剰なノルマ達成を強要したケースは、「上司らのなすべき正当な業務の範囲内にある」との判断がなされている。また、病院事務で多くのミスをした新入職員に、叱責したり職場で孤立させようとしたりしたことは、「生命・健康を預かる職場の管理職が医療現場において当然になすべき業務上の指示の範囲内にとどまるもの」とパワハラを否定した判例もある。

 このように、単純に加害者の言動の内容・態様だけでないところに、パワハラ判断の難しさがある。とはいえ、個人レベル、あるいは会社レベルで何らかの判断は必要となる。裁判官のように厳密な判断はできないにしても、ある程度、深く多角的な検討のために、上記の観点は参考になると思われる。     
 

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