2025/12/7

同一労賃ガイドライン見直し~退職金

 「非正規という言葉をこの国から一掃する」との政府の方針の下、同一労働同一賃金ガイドラインが公表されたのは2018年12月(適用は2020年4月~)。今般、その見直し案が厚生労働省の雇用環境・均等分科会で審議された。

 見直し案では、同一労賃に関する一連の最高裁判決を踏まえ、現行のガイドラインには記載のない退職手当、無事故手当、家族手当、住宅手当、夏季冬期休暇についての記載を新設したほか、賞与と病気休暇について、不合理な待遇差にあたる場合の考え方を追加している。

 この中で、今回は新設された退職手当(退職金)の見直し案を取り上げたい。新設された記述は以下の通りだ。

退職手当については、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的として、労務の対価の後払い、功労報償等の様々な性質及び目的が含まれうるものであるが、通常の労働者と同様に短時間・有期雇用労働者にも当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的が妥当するにもかかわらず、短時間・有期雇用労働者に対し、通常の労働者との間の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情の違いに応じた均衡のとれた内容の退職手当を支給せず、かつ、その見合いとして、労使交渉を経て、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的が妥当しない他の短時間・有期雇用労働者に比べ基本給を高く支給している等の事情もない場合、当該退職手当の相違は不合理と認められるものに当たりうることに留意すべきである。

 新設案は、メトロコマース事件最高裁判決を踏まえて追記されたものだ。厚労省の資料では、「同判決は、退職手当に関して不合理と認められる待遇の相違を具体的に判示したものではないが、退職手当の性質・目的等について言及しており、当該内容を留意すべき事項として記載したもの」と説明をしている。

 要は、「賃金の後払いや功労報償等、様々な性質や目的に照らして、パートタイマーもそれに該当するのであれば、相応の退職金を支給するか、退職金の代わりにその分、給与を高くしなさい」ということだ。

 新設案を読むと、パートタイマーにも原則として退職金支給が必要にも思えるが、メトロコマース判決では、

・正社員と契約社員の「職務の内容」をみると、両者はおおむね共通するものの、正社員は、休暇や欠勤で不在の販売員の代務業務を担当していたほか、複数の売店の統括、サポートやトラブル処理等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し、契約社員は売店業務に専従しており、両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。
・正社員は、業務の必要により配置転換等を命ぜられる可能性があったが、契約社員は、業務の場所の変更を命ぜられることはあっても業務の内容に変更はなく、配置転換等を命ぜられることはなく、両者の「変更の範囲」にも一定の相違があったことが否定できない。
・正社員への登用制度があり、相当数の契約社員を正社員に登用していた。

 などから、「両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価できない」という結論に達している。

 「合理的でなければならない」ではなく、あくまで、「不合理であってはならない」という点に注意したい。不合理な待遇の禁止を定めるパート有期雇用法第8条も「不合理と認められる相違を設けてはならない」となっている。「合理的とは言えないけれど、不合理とも言えない」のなら、違法ではないということである。

 とはいえ、その判断はなかなか難しく、基本的には非正規社員に対しても、見直し案で指摘している通り「違いに応じた均衡のとれた」ものを支給するのが適切だろう。

 パートタイマー等の採用やリテンションにも有効と考えられる。労働政策研究・研修機構の「パートタイムや有期雇用の労働者の活用状況等に関する調査結果(2021年)」によると、有期雇用のパートタイマーに退職金を支給しているのはわずか7%だ。現在は多少増加していると思われるが、まだまだ希少価値がある。採用や引き留めに苦労している会社は、非正規社員への退職金支給も一考に値すると思う。         

 


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