日本生産性本部が公表した第12回「メンタルヘルスの取り組みに関する企業アンケート調査」(2025年)では、「心の病が最も多い年齢層」として、前回の2023年調査に続き10~20代の若年層が最多となった。2010年頃までは30代が圧倒的多数であったことを踏まえると、長らく続いてきた年代構造が大きく変化していることがうかがえる。
一方で、30代は依然として高水準を維持しており、40代以上でも一定の割合が続くなど、年代ごとに異なる要因が複雑に絡んでいることが浮き彫りになっている。
まず、若年層でメンタル不調が増加している理由として、いくつかの特徴的な要因が挙げられる。第一に、学生から社会人への急激な環境変化である。社会経験が浅い中で、対人関係や業務遂行の不安、自己肯定感の揺らぎが生じやすい。特に、近年社会人になった若年層は、コロナ禍での行動制限、学校閉鎖、対面機会の減少などにより社会とのつながりが希薄化していた。従来の若年層に比べて、環境変化への対応力が低いと推察される。
また、SNSによる比較・誹謗中傷・情報過多は、若年層特有のストレス源として無視できない。加えて、メンタルヘルスへの理解が広がったことで、若年層自身が不調を相談しやすくなった側面もあり、これらが重なって若年層の割合が高まっていると考えられる。
では、30代や40代以上はどのような特徴を持つのか。30代は、職場でも家庭でも最も負荷が重なる年代である。実務の中核を担いながら後輩指導や上司の補佐を求められる一方で、裁量は限定的で、上司と部下の板挟みになりやすい。また、結婚・出産・育児、住宅ローンなど、家庭や経済の負担もピークに達する。加えて、同期との昇進差が表面化する時期であり、キャリアへの焦燥感からメンタル不調が生じやすい。現場の中核として期待されることで弱音を吐きづらいという構造も、不調の発見を遅らせがちである。これらは時代を超えて存在する構造的要因であり、若年層の増加トレンドとは別に、30代が恒常的に高水準である理由といえる。
40代以上では、管理職としての業績責任や部下マネジメントが主なストレス要因となる。さらに、加齢による体力低下や健康問題、子どもの教育費や親の介護などプライベートの負担も増える。キャリアの停滞感や役割喪失感もこの年代特有であり、長期的ストレスとして蓄積しやすい。
これらの年代別の特徴を踏まえると、企業としての対応策も世代ごとに変えていくことが重要である。若年層には、丁寧なオンボーディング、相談しやすい人間関係づくり、業務の段取り指導など「伴走型の支援」が有効と考えられる。30代には、役割期待の明確化や業務の棚卸しによる負荷軽減、育児との両立支援、キャリア面談など「負荷を減らし、整理する支援」が求められる。40代以上には、健康管理・介護との両立支援、ライフプランセミナー、DXへの段階的な適応、管理職向けコーチングなど「継続可能な働き方の再設計」が鍵となる。
メンタルヘルスの課題は年代ごとに様相が異なる。調査結果を単に「若年層が増えた」と捉えるのではなく、各年代の特徴を理解したうえで、予防・早期発見・支援を丁寧に組み合わせていくことが、企業の持続的成長と社員のウェルビーイング向上の双方に寄与するといえるだろう。