厚生労働省から令和6年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」が公表された。2024年の職場での熱中症による死傷者(死亡・休業4日以上)は、前年比151人増の1,257人で、統計を取り始めた2005年以降、最多になったとのことだ。業種別では、製造業(237人)、建設業(228人)、運送業(186人)、警備業(142人)の順となっている。屋外での業務や、高温となる作業環境下で多いことがわかる。
熱中症による死亡者数は31人(前年と同数)で、統計を取り始めた1989年以降、観測史上最も暑かった2010年(当時)の47人に次ぐ多さとのことだ。業種別では、建設業(10人)が最多で、次いで製造業(5人)となっている。
2024 年の死傷者数1,257人について、月別の発生状況をみると、約8割が7月、8月の2ヶ月間に集中している。特に死亡者数は、31人のうち30人が7月または8月に集中している。
時間帯別の発生状況では、午前中や午後3時前後がやや目立つものの、いずれの時間帯でも発生している。熱中症というと午後の最も暑い時間帯をイメージするが、そうではないようだ。「午前中であれば大丈夫だろう」と安易に考えるのは危険といえる。
年齢別の発生状況は、死傷者数、死亡者数ともにいずれの年齢層においても発生しているが、やはり高齢層が多い。50歳代以上で、全体の死傷者数の5割強、全体の死亡者数の7割弱を占めている。
調査では死亡災害について、どのような状況下で発生したかの事例を示している。これを見ると、暑さ指数(WBGT基準値)が危険とされる31度を超えているケースが多い。暑さ指数の把握を確認できなかった事例が24件あったとのことで、現場での危機意識の低さが事故の要因となっていることがうかがえる。また、重篤化した状態で発見されるケースや、医療機関に搬送しないケースなど、初期対応の不備も大きな要因と考えられる。
熱中症については、これまでにも安全衛生法で事業者に求められる措置が定められていたが、これらを強化する取り組みが2025年6月から新たに義務付けられている。
主な内容は、①熱中症の自覚症状や疑いがある作業者を速やかに報告する体制の整備、②作業からの離脱や身体の冷却、医師の診察・処置など、症状の悪化を防止する実施手順の作成、③これらの周知、の3つである。対象となる作業は、暑さ指数28度以上または気温31度以上の環境下で、連続して1時間以上または1日4時間以上の作業が見込まれる作業である。
労災の多くは防ごうと思えば防げるもので、熱中症にも同様のことがいえる。酷暑が常態化し、高齢労働者も増加している今日、製造業や建設業、警備業でなくても、社員が熱中症に陥るリスクは無視できない。
熱中症が怖いのは、日中には重篤な症状は見られなくても、作業終了後や帰宅後に体調が悪化するケースがあることだ。今般の義務化の対象外の企業・業務であっても、たとえば熱中症のリスクを社員に周知するといった対策を講じておきたいものである。