2018/4/16

雇用の流動化がもたらす好影響

 
 リクルートキャリア社が発表した2018年1-3月期の「転職時の賃金変動状況」で、「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者の割合」が30.1%となったという。2002年以降で最も高い数値だそうだ。たったの3割と思うかもしれないが、同社の解説によると、『前職(転職前)の賃金は時間外労働等の「変動する割増賃金」を含む一方、転職後の賃金にはそれらが含まれないため「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者の割合」は実態よりも低めの値となる傾向』があるとのことで、実際の割合はもっと多いと想定される。

 4月11日付の日経新聞でも、厚生労働省の調査で2014年以降、転職で賃金が増えた人の割合の方が減った人の割合よりも上回っているとの記事があった。年齢や職種にもよるだろうが、転職へのハードルがかなり下がってきているといえる。 
 
 以前は、転職=ドロップアウトのイメージが強く、転職をすれば賃金が下がるのが普通であったが、転職が有利という状況になれば、労働市場は活性化し、雇用の流動化が進むはずである。

 日経新聞では、雇用の流動化による影響として、「勤続10年以上の従業員の割合が10%低いと、経済の実力を示す潜在成長率が1.4ポイント高くなる」との指摘があった。流動化の進展により、人的資源が有効に配分・活用されるということだろう。

 ミクロで見ても、雇用の流動化は以下の好影響をもたらすと考えられる。

●職場環境の改善
 これまでは長く(できれば定年まで)居続けることに経済合理性があったため、ブラックな職場環境でも我慢するという選択が多く見られたが、その必要性が低くなる。いっこうに長時間労働が減らない会社や、ハラスメントが横行しているような会社は見切りをつけられる。企業としては、社員定着のために職場環境の改善に一層の努力をしなければならない。
 
●適性に合った仕事への転換
 同様に、自分に合わない仕事をいやいや続ける必要はなく、より適性のあった仕事への転換が進む。これにより、能力をさらに発揮でき、モチベーションも高まる。企業にとっても、自社に合った人材が多ければ生産性の向上につながるだろう。
 
●能力開発の促進
 転職しやすくなるということは、自分の仕事・ポジションが他者に奪われる可能性も高まるということである。社員は自己の価値を高めるために、これまで以上に職業スキルの向上に注力しなければならない。厳しい側面もあるが、自己の成長という観点から見ればメリットと考えるべきだろう。

 このように雇用の流動化にはいくつものメリットがある。現在、国を挙げて取り組もうとしている「働き方改革」や「生産性革命」も、雇用の流動化という環境が整わなければ、思うようには進まないだろう。

 最後に念のために触れておくが、定年まで同じ会社で働くことがダメというわけではない。その会社でやりがいをもって活き活きと働けるのなら、長くいるのは喜ばしいことである。問題なのは、仕事にやりがいを持てなかったり、精神的に追い詰められたりしながら、消去法で会社に居続けることである。それは当の社員、会社双方に不幸である。一定の我慢も大切だが、今よりも我慢の程度が少なくて済み、選択の幅も広がる社会が望ましいということだ。


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