2019/10/12

2019年版労働経済白書に見る「働きやすさ」

 9月27日、厚生労働省が2019年版「労働経済の分析」(労働経済白書)を公表した。テーマは『人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について』で、人手不足の中での「働き方」について、「働きやすさ」と「働きがい」の観点から分析を行っている。

 背景には、現在、人手不足によって多くの職場で「働きやすさ」や「働きがい」が低下していることへの懸念がある。これは、労働者のパフォーマンスを低下させ、ひいては企業経営にも悪影響を及ぼす。白書では、「『働きがい』を向上させるためには、その前提として、『働きやすさ』の基盤がしっかりと構築されていることが重要であり、『働き方改革』を両観点から、より一層推進していくことで、労使の共通課題である人手不足を緩和していくことが肝要である」と指摘している。

 人手不足への対応として、賃金アップや福利厚生の充実といった目先の施策を考えがちだが、職場の「働きやすさ」や「働きがい」を高めることが本質的に重要なのは間違いない。その点を再認識させる意味で、今回の白書は価値があると思う。

 ということで本コラムでは、白書が考察する「働きやすさ」と「働きがい」のポイントをまとめてみたい。まずは「働きやすさ」である。
 
 働きやすさに対する満足感について、労働政策研究・研修機構の調査を引用し、男女ともいずれの年齢階級においても、働きやすいと感じている者の方が多いとしている。ただし、男性は35歳~64歳が、女性は45歳~64歳が他の世代に比べて低く、一方で、65歳以上は男女とも相対的に高いことを示している。

 次に、働きやすさ向上のために重要な雇用管理の施策として労働者が考えるものとして、男女・年齢を問わず、「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」を挙げる労働者の割合が最も多く、次いで「有給休暇の取得促進」、「労働時間の短縮や働き方の柔軟化」が多いとのことだ。一方で、「能力・成果等に見合った昇進や賃金アップ」や「人事評価に関する公正性・納得性の向上」は少ない。また、15~44歳の女性は「仕事と育児との両立支援」が働きやすさに関する重要な要素となるなど、性別・世代による特性も表れている。

 企業では、①「有給休暇の取得促進」、②「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」、③「業務遂行に伴う裁量権の拡大」などが働きやすさの向上につながっている可能性があることを指摘している。ただ、中小企業に限ると、①②は同じだが、③は「能力・成果等に見合った昇進や賃金アップ」となっている。これは、中小企業では元々、社員の裁量権が大きいことが要因と考えられる。

 また、労働時間や年休取得率等と働きやすさの関係も分析しており、興味深い指摘も見られるので、それを紹介しておきたい。
 
 労働時間との関係では、男女ともに、1か月当たりの労働時間が短くなるほど働きやすいと感じている者の割合が多くなる。特に、男性は220時間、女性は200時間以上になると、働きにくいと感じている者の割合のほうが多くなり、月200時間というのが1つの目安となりそうである。

 また、年次有給休暇の取得率との関係を見ると、男女ともに、取得率が高くなるほど働きやすいと感じている者の割合が高くなる。具体的には、0~10%だと働きにくいと感じている者の割合が多いが、10~20%だと働きやすいと感じている者の割合が上回る。ただし、「働きやすい」は50%以上になると横ばいとなっており、50%を目標にすべきことがうかがえる。

 その他、
・勤務間インターバル制度の対象者は非対象者よりも働きやすさの満足度が高いこと
・テレワークが未導入の場合、働きにくいと感じている者の割合が高いが、テレワークが導入されている場合、実施者と未実施者との間で働きやすさに大きな違いは見られないこと
・上司からのフィードバックが実施されないと働きにくいと感じている者の割合が多くなり、フィードバックのやり方次第で働きやすさの向上に資する可能性があること
 などを指摘している。

 一口に働きやすさの向上といっても漠然としていて、どこに手を付けてよいか戸惑う場合も多いだろう。今回の白書はその手掛かりを与えてくれるといえそうだ。  
 

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