2020/9/27

HRテクノロジーと人事データの活用原則

 
 HRテクノロジーについてまだ明確な定義はないようだが、HR(Human Resources:人的資源)に関わるテクノロジーということで、「人事部門の業務をICT(情報通信技術)により、効果的・効率的にすること」と考えてよさそうだ。
 
 具体的には、クラウド、AI、RPA(Robotic Process Automation)が三大領域で、クラウドを使った給与データや評価データ等の人事データの一元管理、AIを使った採用書類のふるい分け、RPAによる勤怠データ管理の自動化などである。

 HRテクノロジーが人事部門の仕事内容を大きく変えていくのは間違いない。一部の大企業や先進企業では既に運用を始めており、今後徐々に他企業にも浸透してくはずである。

 大きな可能性を秘めたHRテクノロジーなのだが、いくつかの懸念もある。中でも最大の懸念はやはり情報漏洩リスクだろう。

 HRテクノロジーとは、言い換えれば多種多様そして大量の人事データの活用である。必然的にそこには情報流出リスクが発生する。外部に流出しないまでも、必要以上のことまで担当者に知られてしまうのではという心配も生じる。

 日本人はこの点に敏感で、マイナンバーカードの普及が進まないのは、個人情報が国・行政に知られ、管理されることへの懸念からとされている。まして人事に関する情報は特にセンシティブなものが多い。社員が身に着けたセンサーで、誰と会ったか、社内のどこに行ったかがプライベートも含め把握できるのだ。

 したがって、HRテクノロジーの活用にあたっては、人事データの扱いに特に注意が必要となるのは当然である。これに関して、一般社団法人ピープル・アナリティクス&HRテクノロジー協会で「人事データ利活用原則」というのを策定している。原則は9つあり、概要は以下の通りである。

(1)データ利活用による効用最大化の原則
情報利活用によって、労使双方にとっての効用の最大化を図る。
(2)目的明確化の原則
人事データの利用目的を明確化し、利用目的の範囲内で使用しなければならず、当該利用目的は明示されなければならない。
(3)利用制限の原則
利用目的の範囲を超えた利用を行う場合、予めの本人の同意を得なければならない。 (4)適正取得原則
 偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならず、また、法定された場合を除き本人の人種、信条、社会的身分等の「要配慮個人情報」を本人の同意なくして取得してはならない。
(5)正確性、最新性、公平性原則
  プロファイリング等の処理を実施する場合、元データ及び処理結果双方の正確性及び最新性が確保されるよう努めなければならない。
(6)セキュリティ確保の原則
  プロファイリングを実施する際は、プロファイリング結果の漏洩、滅失、毀損することによって本人の被る権利利益の侵害の程度を考慮し、リスクに応じた安全管理措置を実施しなければならない。
(7)アカウンタビリティの原則
  プロファイリングを実施する際、プロファイリングの実施方針を公表し、組合、多数代表者等、労働者を代表する個人又は団体とプロファイリングについて協議することが望ましい。
(8)責任所在明確化の原則
 専門部署の設立、人事データに責任を持つ役職の選任などにより、責任の所在を明確化し、審査の厳格化、データ利活用に関する判断基準やルールを整備すべきである。 (9)人間関与原則
 採用決定、人事評価、懲戒処分、解雇等に利用する際には、事前に人による方針決定や不服申立があった場合の人による再審査など、人間の関与の要否を検討しなければならない。

(1)は総括的な原則、(2)~(4)は個人情報保護法に基づく留意事項、(5)~(7)はHRテクノロジー活用の中核となるプロファイリングの留意事項、(8)(9)は制度・組織体制構築の留意事項といえる。なお、プロファイリングとは種々のデータからAI等を使って何らかの意味を引き出すことで、HRでいえば、社員の退職可能性の予測などがある。「リクナビ」で問題となった就活生の内定辞退率もその1つだ。

 この原則はまだ一般化しているとは言い難いが、今後、HRテクノロジーの普及に伴い、改めて注目されることになるだろう。     
 

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