2024/4/28

高い初任給には注意

 新卒採用の競争激化に加えて物価の上昇もあり、初任給が高騰している。令和5年賃金構造統計調査によれば、大卒の初任給(※正確には新卒者の6月時点の所定内給与だが初任給と同じと考えてよい)は前年3.9%増の237.3千円。今春のベアの状況からすると、今年も同等あるいはこれ以上の増加率となる可能性があり、25万円近くになることも想定される。

 学生側も初任給の高さは会社選びの重要ポイントを考えている。人材サービスの学情が2023年9月に発表した「初任給に関する調査結果」を見ると、初任給を「重視する」とした学生は83.4%と8割を超えている(「最も重視している」7.8%、「最優先ではないが重視している」75.6%)。また、「初任給が高い企業は志望度が上がる」とした学生は86.6%と9割近くに及ぶ(「志望度が上がる」48.3%、「やや志望度が上がる」38.3%)。

 高騰を続ける初任給の中には40万円を超えるものもある。働き盛りの45歳~49歳の男性の賃金396.9千円を超えており、ピークである55~60歳の427.4千円に近い(令和5年賃金構造基本統計調査)。

 もちろん、高度の専門スキル・資格をもった希少人材の処遇のために破格の額を設定するのであれば、それなりの妥当性はあるが、募集要項を見ると、それほどハードルが高くないものもあり、「本当にその給与なの?」と疑わしいものもある。いわば、見せかけだけの“羊頭狗肉型”初任給だ。これには2つのタイプがある。

 1つは、募集する人材の中で最も高い賃金を示すケースだ。たとえば、一定のスキル・資格を保有している人には30万円出す企業が、“初任給30万円”と標ぼうするケースである。たいていの場合、そのスキル・資格は高度・難関のものが多いので、大半の志望者は対象とならず、実際の初任給は25万円だったりするわけだ。

 もう1つは、固定残業代込みのケースだ。これは上場企業や名の知られた企業でも行われており、特に新興の情報サービス会社で目立つ。多くは月40時間程度が上限だが、中には月80時間の残業を想定したものもある。仮に毎月80時間の残業をさせたのなら、年間960時間の時間外労働となり、労働基準法違反である。

 もちろん、「毎月80時間までさせることはなく、法律の範囲内で働かせる」はずだが、違法となり得る仕組みを制度化すること自体に疑問符が付く。多くの学生はそのような細かなルールは知らないので、目先の高賃金に惹かれて、募集に応じる可能性がある。

 初任給が40万円であっても、月80時間分の固定残業代が含まれているとすると、残業代を除いた賃金は24万円ほどである。特別に高い初任給ではなく、むしろ普通の初任給である。

※労働時間が月160時間とし、時間当たり賃金をⅹとすると、160ⅹ+60(ⅹ+0.25ⅹ)+20(ⅹ+0.5ⅹ)=40万円となる。ⅹ≒1,509円となり、残業代を除いた賃金は1,509円×160=241,440円である。

 もちろん、残業があってもなくても40万円は支給され、一定の高賃金は保障されるので、一般の初任給24万円の会社よりも有利といえば有利である。だが、このような賃金を設定するのであるから、当然に残業を前提とした仕事量が与えられると考えられる。

 極論だが、毎月240時間(160時間+80時間)の仕事量をこなさなければならないことを覚悟すべきだ。確かに、要領よくこなせば、ほとんど残業をせずに済むかもしれない(もっとも、その場合、さらに仕事を増やされる可能性がある)。一方、要領が悪い人は、月240時間をオーバーしてしまう。

 固定残業代を超える分は実額が支給されることになるが、80時間越えはさすがにマズイので、そのような人は仕事量を減らされることになるだろう。ブラックな会社だと、自己責任との考え方でサービス残業が強いられるかもしれない。いずれにしても、「この人は仕事ができない」とのレッテルを貼られることとなり、会社に居づらくなるのは間違いない。

 高い初任給には罠があるとまでは言わないが、それなりの厳しさがあることは認識しておくべきである。    

 


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