人事制度ミニコラム3のカテゴリー別分類

 人事制度全般
 よい人事制度とは
 人事戦略とは何か?
 経営革新と組織・人事①~組織の重要性
 経営革新と組織・人事②~人事の重要性
 経営革新と組織・人事③~実現のポイント
 働きがい重視の経営
 AIに人事制度構築ができるか
 社員のエンゲージメントを高めるには
 評価制度
 自治体職員に必要な能力
 評価制度の運用に関する調査
 目標管理の公開
 プラスだけの人事評価
 報酬管理
 最近の賃金制度の動向
 ベアの方法
 残業規制による給与減少
 「調整給」の解消
 能力開発管理
 「人材育成会議」の実施イメージ
 自社講師による研修のすすめ
 採用管理
 2017年新入社員の意識
 新入社員の意識~産能大調査
 人気の職種、不人気の職種
 学生のインターンシップ意識
 転職の賃金相場
 企業が中途採用をする理由
 人事組織
 組織分析①~組織構造のチェックポイント
 組織分析②~組織風土のチェックポイント
 人事諸制度
 法定外福利費の増加
 降格の手順
 労働費用に見る大企業と中小企業の格差
 役職定年制の是非

 よい人事制度とは Column No.101

 先日、ある経営者から「よい人事制度とはどういうものか?」と尋ねられた。

 あまりに漠然とした質問であったため、答えに詰まってしまった。もちろん、「社員のモチベーションを高められる制度」「わかりやすい制度」など瞬間的に思いつく答えもあったが、会社によってさまざまであり、そんなに単純なものでもない気がして、うまく返答できなかった次第である。
 漠然とした質問ではあるが、本質的な質問でもある。一度じっくり考えてみる価値はありそうだ。

 
そもそも人事制度とは何か、何のために存在するのか?

 辞書を引くと、制度とは仕組み決まりのことである。したがって、人事制度とは「人事に関する仕組みや決まりのこと」である。
 その存在理由は、会社側の視点に立てば、「ヒトという資源を最大限に活かすため」あるいは「社員からできるだけ能力を引き出すため」と考えられる。

 ところで、ヒトには感情があり、これは仕事に対するモチベーションに強く影響する。そして、能力の発揮はモチベーションに大きく左右される。そうすると、社員のモチベーションを高めることが特に重要といえる。
 ただし、ある人のモチベーションアップとなることが、別の人にとってはモチベーションダウンになってしまうこともある。たとえば、成果主義人事は、それを好む社員のやる気を高めるが、一方で年功的な処遇を好む社員のやる気を削ぐだろう。
 重要なのは組織全体としてトータルのモチベーションを上げ、業績に結びつけることである。また、予算(=人件費)の制約があることにも留意しなければならない。

 これらを踏まえて、よい人事制度を定義すると、 「一定の人件費の範囲内で、個々の社員のモチベーションに留意しながら、組織全体として最大のパフォーマンスを引き出すための社員に関する仕組みや決まり」といえると思う。

 
では、もう少し具体化してみよう。切り口として、個々の制度と制度全体を考えてみる。

  個々の制度においては、
制度としてきちんと機能することが求められる。そのためには、社員の理解と納得が得られることが重要となるはずだ。そのためには、次のような事項が必要だろう。
 
① 目的・内容が合理的なこと
 合理的とは、自社の社風、戦略、実態に合っていること、必要性があること、法的要件をクリアしていることなどである。
② 社員にわかりやすいこと
 仕組みや運用の仕方がわかりやすくなければ、敬遠される。
公平感があること
 合理的な理由なく、一部社員の利益・不利益となるような制度では、多くの社員の納得は得られないはずだ。
④ 社員にメリットがあること
 ここでいうメリットには、個々人の利益以外にも、組織としての秩序維持など集団のメリットも含まれる。
⑤ 負担が少ないこと
 どんなに必要性やメリットがあっても、運用にあたって労力や時間が多大にかかるような制度は利用されなくなる。
⑥ 運用しやすいこと
 これは人事担当部門など制度運用側の視点だが、社員に説明しやすいこと、制度のメンテナンスが容易なことなど、運用しやすさも見落としてはならないだろう。

 
続いて制度全体においては次のような点が重要と考えられる。 
 
① 経営理念やビジョンなどが反映されていること、または、それらに反するものがないこと
 多くの人事制度ではあまり意識されることのない事項かもしれないが、「よい制度」というからには、この点も重要となるだろう。
② 制度間の整合性があること
 人事制度は次から次へと制定されるものなので、既存のものとの整合性がとれなくなるケースが出てくる。たとえば、就業規則と賞罰規程で異なる手続きが述べられたりするような場合である。 
③ 環境変化に合わせてメンテナンスされていること
 どんなによい制度をつくったとしても、経営環境や法的な環境変化などで価値がなくなってしまうことも多い。環境変化に合わせ、きちんと改正や廃止がなされていることも重要な要素に挙げられる。
 
 
こうしてみると、よい人事制度というのは多様な面があることに気づく。いずれも重要であり、そして実際に実現するのは難しい。どれに重きを置くかは会社次第ということである。

 結局のところ、よい人事制度とは、「いろいろな要素があるけれど、その会社に合った制度」というのが現時点での回答になる。わざわざ検討した意味がなかったかもしれないが。

(2016年10月25日)

 
 
 法定外福利費の増加 Column No.102

 11月14日、経団連から「2015年度福利厚生費調査」が発表された。これによると、企業が負担した福利厚生費(法定福利費と法定外福利費の合計)は、従業員1人1カ月平均110,627円(前年度比2.1%増)で、初の11万円超えとなった。内訳は、法定福利費が85,165円(同2.0%増)、法定外福利費は25,462円(同2.3%増)である。

 
注目したいのは、法定外福利費が9年ぶりに増加したことだ。ちなみに福利厚生費自体は6年連続で増加しており、いうまでもなく、その要因は法定福利費の増加である。法定福利費はコントロールしづらいので、福利厚生費の増大を抑制するために、法定外福利費を抑えざるを得なかったというのが近年の基調だった。

 
また伸び率にも注目してほしい。法定福利費だけでなく、実は現金給与総額の伸び率(1.2%)も上回っており、これは02年度以来とのこと。ただし、02年度は調査方法を大幅に変更し、数値の変動幅が大きいため、それ以前では93年度まで遡るとのことだ。つまり、バブル経済以来の伸びといってもよいわけである。

 
では、昨年度、なぜ法定外福利費がそのような伸びを見せたのか。経団連の報告では、医療・健康費用の「ヘルスケアサポート」が大幅に増加(1,036円、前年度比10.6%増)したことを挙げている。その要因として、「昨年12月から義務化されたストレスチェックへの対応や健康経営の高まりが考えられる」とのことだ。また、「育児関連」387円(同11.2%増)も挙げ、「引き続き企業が子育て支援策を充実させていることが伺える」としている。

 
経団連の指摘以外では、ライフサポート関係の「購買・ショッピング」393円(同8.6%増)、「被服」507円(同19.9%増)、住宅関連の「持家援助」614円(同15.6%増)などが目立つ。昨年度は業績が好調であったため、福利厚生という形で社員に還元する企業が多かったということだろうか。

 
一方で、久々の増額にもかかわらず減額となっている項目もいくつかある。そのなかで、2014年度から連続して減額となっているのが、「医療・保健衛生施設運営」(14年度5.0%減、15年度3.4%減)、「文化・体育・レクリエーション施設運営」(同7.0%減、同6.4%減)の2つである。施設を伴う福利厚生は、もはや時代遅れで、業績に関係なく今後も削減される見込みということだろう。

 特に「医療・保健衛生施設運営」は2015年度で1,886円と比較的大きく、削減の余地がかなりある。 健康経営重視の姿勢はさらに強まると思われ、その財源として、恰好のターゲットとなるだろう。今年度以降、「医療・保健衛生施設運営」から「ヘルスケアサポート」への流れが加速することが予想される。

(2016年11月21日)

 
 
 最近の賃金制度の動向 Column No.103

 賃金制度の潮流としては、年功給から能力・成果給へとシフトしているというのが多くの人の認識と思う。それはそれで間違いないのだが、具体的にどうなっているか、10月に発表された日本生産性本部の「第15 回 日本的雇用・人事の変容に関する調査結果」から見てみよう。なお、調査の対象は上場企業であり、どちらかといえば規模の大きな企業の動向である。

 
役割・職務給、職能給、年齢・勤続給それぞれについて、管理職層、非管理職層の導入率は以下のとおりである(カッコ内は2013年調査)。

 
管理職層
非管理職層
役割・職務給
74.4%(76.3%)
56.4%(58.0%)
職能給
66.9%(66.9%)
82.7%(81.1%)
年齢・勤続給
24.8%(24.8%)
49.6%(62.3%)

 多くの企業で、役割・職務給と職能給が併存していることがうかがえる。 なお、ここでの職能給とは「職務遂行能力の高さを反映している賃金」なので、職能資格制度に基づく職能給に限らず、いわゆる能力給全般を指すと考えてよいだろう。つまり、管理職層では役割・職務給がやや優勢であり、非管理職層では能力給が優勢ということである。
 
 
1999年からの長期的な傾向をまとめると次のようになる。

 
管理職層
非管理職層
役割・職務給
1999年以降右肩上がりで上昇していたが、2007年以降は頭打ちとなっている。
1999年以降右肩上がりで上昇していたが、2007年以降は頭打ちとなっている。
職能給
2000年以降低下傾向にあったが、2007年にいったん増加し、再び低下傾向にある。
2000年以降低下傾向にあったが、2007年に上昇し、高止まりしている。
年齢・勤続給
2007年以降低下傾向にある。
1999年以降低下傾向にある。

 今後の導入予定を見てみると以下のとおりである。

 
管理職層
非管理職層
役割・職務給
将来導入予定
5.3%
3.0%
検討課題
3.0%
8.3%
導入予定はない
12.8%
27.1%
職能給
縮小廃止予定
3.0%
2.3%
検討課題 (導入の)
2.3%
3.8%
導入予定はない
13.5%
4.5%
年齢・勤続給
縮小廃止予定
3.0%
6.8%
検討課題(導入の)
2.3%
1.5 %
導入予定はない
44.4%
24.8%

 役割・職務給は、現在は頭打ちとなっているものの、今後はさらなる導入が見込まれる。職能給については、それほどの変化はないことが予想される。年齢・勤続給は、特に非管理職層において導入率の低下が続くものと思われる。

 他に、賃金に関する興味深い質問として、
「業績や成果・貢献度に比べて賃金水準が見合っていない(賃金水準が高い)と思われる社員の年齢層」というのがあった。
 結果は50歳代という回答が49.6%と約半数を占めた。次に多いのが40歳代で15.8%であるのに対しても比較的高い回答となっており、50歳代の「費用対効果」に不満を感じている企業が多いことがわかる。

 
また、「業績や成果・貢献度に比べて賃金水準が見合っていない(賃金水準が高い)と思われる社員が正社員の何割程度を占めているか」を尋ねたところ、最も多い回答は1~2割未満で36.1%、次いで2~3割未満が24.8%、更に3割以上という企業も17.3%あった。

 個々の社員に、「自分の業績や成果・貢献度に比べて賃金水準が見合っていない(賃金水準が高い)と思うか」を尋ねれば、おそらく、ほとんどの社員はNOと答えるだろう。しかし、会社の見方はそのように甘くはないということだ。

 ちなみに1割未満と回答したのは4.5%で、無回答の17.3%を考慮しても、多くの企業は社員の1割以上は「もらいすぎ」と考えているようだ。日本の企業は、降給の仕組みがなかったり、あっても実際に使われなかったりするケースが多いが、あらためて導入や実践を検討すべきなのかもしれない。

(2016年12月5日)

 
 
 降格の手順 Column No.104

 「降格」は資格等級の引下げを意味する。一般的なイメージとして、降格と言えば、
たとえば部長から課長への役職の引下げを思い浮かべるかもしれないが、こちらは正確には「降職」である。
 
 日本企業に普及してきた職能資格制度では、「降職」はありえたが「降格」の仕組みがないのが一般的で、実際、よほどのことがない限り降格させなかった。ただ、職能資格制度のもとで降格ができないというわけではない。降格を認める判例も出ており、仕組みが整えば降格は可能である。

 一方、近年普及している役割等級制度や職務等級制度では、「降格」と「降職」がセットになっているケースが多く、その意味で、これまで以上に降格が一般的になったといえる。

 本コラムでは、今後、降格人事が現実化していくことを踏まえ、その手順を説明したい。なお、降格には、人事権行使によるものと懲戒処分によるものがあるが、ここでは、人事権行使によるものに限定して話を進める。
 
 社員を降格させる場合の一般的な手順は次のとおりである。

① 根拠規定の確認
 前提として、資格制度規程などに「降格があること」や「具体的要件」を定めておく必要がある。

② 降格の必要性の確認
 業務上および組織上の必要性である。必要性がない、もしくは低ければ人事権の濫用となる可能性もありうる。

③ 降格事由の確認
 人事評価結果、役職不適格、低業績、問題行為等の事実の確認である。状況に応じて、本人との面談や報告書提出なども検討すべきである。

④ 降格による影響(不利益内容)の確認
 賃金(基本給、役職手当等)、賞与、退職金、福利厚生など、降格にともなってどれくらいの不利益が生じるかである。

⑤ 法律上の禁止事項、不利益取扱いに該当しないかの確認
 降格が、特定の性別、組合員であること、妊娠・出産したこと、有給休暇や育児休業を取得したこと等によるものでないか、雇用契約で資格等級や役職を限定していないか、などの確認である。

⑥ ①~⑤を踏まえて降格の妥当性の総合判断

⑦ 本人への通知
 一方的な通知ではなく、経営者や人事責任者などが面談を通じて行うことが望ましい。

⑧ 発令

 
ところで、⑥において、妥当性がそれほど高くなくても、本人の了解が得られれば問題ないだろうか。
 
 確かに本人の同意があれば原則としてOKだが、説明の仕方が問題となる場合がある。たとえば、「降格を承諾しないと解雇する」といった説得の仕方であれば、本人の了解は無効と解される。

 
上記のような手順を踏まない降格人事は、

① 万一、訴訟等になった場合に勝てないおそれが高い
② 他の社員の不安をあおったり、委縮させたりして、職場のモラールに悪影響を与える
③ 会社や経営者に対する信頼性を損ねる

 などのリスクを引き起こす。

 降格人事はないことに越したことはないが、現実に行うべきは行わなければならない。その際には、上記手順により、「公明正大」に実施してほしいものである。

(2016年12月12日)

 
 
 「人材育成会議」の実施イメージ Column No.105

 前回、人事制度サンプルにて紹介をした「人材育成会議」について、どのように実施していけばよいか、会議の進め方を事例で示したい。

<出席メンバー>
被評価者:鈴木さん
議長:高橋社長
進行役 小林人事部長
1次評価者:佐藤さん、2次評価者:田中さん
参加者:山本取締役、渡辺取締役

<評価制度の概要>

・業績評価(目標管理)と能力評価。各S~Aの5段階評価

(被評価者の鈴木さん入室、着席)
 
議長 「鈴木さん、お疲れさま。時短プロジェクトではよく頑張りましたね。会社としても非常に助かりました。ところで、今日の会議の趣旨ですが、この1年、鈴木さんがどのような役割を果たしたかをあらためて確認すること、評価結果の妥当性を検証すること、そのうえで来期に取り組んでほしいことや留意してほしいこと、以上の3つを一緒に考えることです。鈴木さんの成長がメインの目的ですので、ぜひ、主体的に参加してください」

鈴木さん 
「わかりました。よろしくお願いします」

進行役 「それでは鈴木さんから、今年度の業績評価について、よかったところ、もう1つだったところを3分くらいで簡単に説明していただけますか」

(鈴木さん説明)

進行役 「以上の鈴木さんからの説明について、1次評価者の佐藤さんから簡単にコメントをお願いします」

(佐藤さんコメント)

進行役 「次に、2次評価者の田中さんからコメントをお願いします」

(田中さんコメント)

進行役 「続いて、皆さんから鈴木さんに質問やアドバイスなどをお願いします」

山本取締役 「鈴木さん、目標①が達成できたのは、チームがうまく機能したということですが、どのような点に工夫しましたか」 

(鈴木さん説明)

渡辺取締役 「役割基準書を見ると、鈴木さんに求められる成果・責任に『生産性』がありますね。今回はそれに関する目標がなかったのですが、来年度に関してはいかがですか」

(鈴木さん説明)
 以下略 ・・・・・・・・

進行役 「次に能力評価について、特にポイントとなるところを、鈴木さん、簡単に説明していただけますか」

(鈴木さん説明)
 以下、同様に1次評価者の佐藤さん、2次評価者の田中さんがコメント
 
進行役 「それでは、能力評価について鈴木さんに質問やアドバイスなどをお願いします」

山本取締役 「計画力に関して、他部門との調整をうまく行って実効性のある計画を立案している点はすばらしいですね。ただ、△△の案件など、課題設定力がまだ不十分と思われます。課題設定において、鈴木さんは、どの点が不足していると感じていますか」

(鈴木さん説明)
 以下略 ・・・

進行役 「最後に、高橋議長からコメントをお願いします」

議長 「鈴木さん、〇〇の課題など、来年度はぜひ実行してください。また、課題設定力の向上は山本取締役のアドバイスを役立ててください。期待しています。今日はお疲れさまでした」

(鈴木さん退室)
進行役 「では、鈴木さんの評価ですが、今のお話しを踏まえて、検討したいと思います。まず、1次評価と2次評価との相違点ですが、業績評価の目標③が相違しています。1次評価では『A』、2次評価では『B』となっています。これについていかがですか」

渡辺取締役 「鈴木さんの話しからして、A評価が妥当なのではないでしょうか」

田中さん 「ご指摘のとおり過小評価していたみたいです。A評価に修正します」

進行役 「それでは、これについては、A評価ということでよろしいですね。他の業績評価や能力評価に関して、ご意見はありますか」

全員 「ありません」

進行役 「それでは、鈴木さんの評価はこれで確定ということにします」

 ‥‥
以上である。会議の流れと、どのようなことを言えばよいのかをつかめたのではないだろうか。

 今回は、被評価者が自己説明→参加者からのコメント→評価の確定というパターンであったが、運用の仕方に応じて、アレンジしていただければと思う。

 最初は事例のようにスムースには進められないかもしれないが、評価者・被評価者双方が慣れてくれば十分に可能である。
 会議の最大の目的は被評価者の能力開発意欲を高めること、これを各メンバーがしっかりと意識して臨んでいただきたい。

(2016年12月26日)

 
 
 人事戦略とは何か? Column No.106

 昨年の暮れ、ある会社の人事の方と「人事戦略とはそもそも何か?」を話合う機会があった。そのときに考えたことを、2017年の第1回目のコラムとして、あらためて整理してみたい。
 
●人事戦略とは
 
 人事戦略は、経営ビジョンの達成や経営戦略の完遂に向けて、組織人員の質と量を適正に確保・維持していくための方針を示すものである。これを基に各種の人事施策が構築・展開される。

 あくまで、経営戦略の下位戦略であり、経営戦略を無視した人事戦略は意味がない。別の見方をすると、人事戦略の立案には、経営ビジョンや経営戦略が明確化されていることが前提となる。そのような前提のない人事戦略は、砂上の楼閣であることを認識しておきたい。

●人事戦略策定にあたって求められる観点

 では、人事戦略としてどのような方針を立てるべきか、観点としては次の7つである。

① 人材要件
 第一に人材要件で、これは経営ビジョン達成や経営戦略遂行のために、どのような人材が必要となるかという観点である。人材要件には、コンピテンシー要件とスキル要件の2つがある。
 コンピテンシー要件とは、社員にどのような行動特性を期待するかで、たとえば、「リスクをとってチャレンジする」「他者に誠実に接する」「とことん考え抜く」などである。これらは会社の行動規範やクレド等に示されているものでもよいし、それらをより具体化したものでもよい。会社が求める人材像とも言い換えられる。
 一方、スキル要件は特定分野の遂行のために必要な知識・技術である。たとえば、新たに海外進出をする場合に必要な海外市場の知識、語学力などだ。

② 処遇の基軸
 社員の処遇にあたって何を重視するかで、簡単に言えば自社の人事制度を「〇〇主義」と呼ぶかである。成果主義、業績主義、能力主義、年功主義などがある。どれか1つではなく、「基本は成果主義だが年功にも配慮する」といったミックス型もありうる。

③ 社員構成
 継続的な経営活動のためには、10年・20年先を見据えた社員構成の視点も重要となる。これには、年齢層の問題と雇用形態の問題がある。
 年齢層の問題とは、たとえば、30代の中間層が少ないのでその対応をどうするかということである。
 雇用形態の問題とは、パートタイマーの戦力化などである。近年、後者はダイバーシティや労働力不足の観点から特に重要性が高まっている。

④ 人件費
 企業経営である以上、人件費の制約があることを見過ごしてはならない。たとえば、労働分配率が過大であるなら、その引下げが方針となる。

⑤ モチベーション
 人事の大きな役割に、社員のモチベーション向上がある。モチベーションを高めるための課題設定も方向性の1つとなる。

⑥ コンプライアンス
 人事と労働法とは切り離せない関係にある。コンプライアンス違反は、企業の信用や名誉を失墜させることもある。コンプライアンスの観点から方向性を探るのも重要な視点となる。

⑦ 雇用環境
 社員が持てる能力を発揮できるように雇用環境を整備することは重要な方針となる。たとえば、ワークライフバランスの重視や、育児・介護をする社員が働きやすい環境づくりなどである。
 
 なお、人員を有効に活用するためには、組織のあり方も重要となるため、どのような組織にするかというテーマも人事戦略の領域となる場合がある。ただ、一般的に組織は、経営者や経営企画部門が扱うテーマなので、人事部門が担当しない場合には、これらとの連携が重要となる。
 
●人事戦略の下位体系

 これらの観点から打ち出された方針を、具体的な人事施策に落とし込むことになる。いわば「人事戦術」であり、人事戦略の下位体系という位置づけだ。人事戦略の下位体系として、以下の管理が必要となる。

<人事戦略の下位体系>
・雇用管理→採用管理、退職管理
・人事管理→配置・異動管理、昇進・昇格管理、人事評価、賃金管理、能力開発管理、福利厚生管理
・労務管理→就業管理、安全衛生管理
・モチベーション管理
・労使関係管理

 自社の現状を踏まえて、これらをシステマティックに組み立て、計画化していくことが人事戦略の全体像ということである。

(2017年1月4日)

 
 
 労働費用に見る大企業と中小企業の格差 Column No.107

 3月に入り、2018年新卒者の就職戦線がスタートした。売り手市場や景気の不透明さを背景に、例年以上に大企業志向が強いともいわれている。
 大企業と中小企業との格差はさまざまな面に表れるが、ここでは「労働費用」の観点から概観してみよう。

 労働費用とは、使用者が労働者を雇用することによって生ずる一切の費用(企業負担分)のことで、現金給与額のほか、退職給付等の費用、法定福利費、法定外福利費等を指す。

 同じような言葉に「人件費」があるが、一般的に人件費とは、給与・賞与・退職給付費用・福利厚生費の総額であるのに対し、労働費用には、教育訓練費や募集費なども含まれることから、人件費よりも広い概念となる。ごく簡単にいえば、企業がヒトにどれだけ投資をしているかである。労働者側から言えば、自分がどれだけ大切にされているかを測る1つの指標といえる。

 それでは、厚生労働省の平成28年就労条件総合調査から、平成27年の常用労働者1人1か月の平均労働費用を見てみよう。

 
労働費用総額
現金給与額
現金給与以外の
労働費用
調査計
416,824
337,192
79,632
1,000人以上
481,077
375,888
105,189
300~999人
423,825
349,632
74,193
100~299人
374,117
309,863
64,254
30~99人
338,909
284,469
54,439

 ご覧のとおり、規模間の格差は歴然としている。特に、「現金給与額」は300人以上と299人以下で、「現金給与以外の労働費用」は1,000人以上と999人以下で、大きな差があることがわかる。毎月の給与に関しては300人が、それ以外の費用に関しては1,000人が分岐点になるということだ。
 ちなみに、1,000人以上と30~99人とで、定年までの差額を概算すると、14万円×12か月×40年=6,720万円となる。
 
 
次に、「現金給与以外の労働費用」について、1,000人以上の大企業と30~99人の小規模企業とで細かく見てみる。

 
法定
福利費
法定外
福利費
現物給与
の費用
退職給付
等の費用
 教育
訓練費
その他の
労働費用※
 
調査計
79,632
47,693
6,528
465
18,834
1,008
5,104
1,000人以上
105,189
53,254
9,237
435
29,016
1,519
11,729
 30~99人
54,439
41,349
3,883
195
7,797
424
792
※「その他の労働費用」とは、募集費、従業員の転勤に際し企業が負担した費用(旅費、宿泊料等)、社内報・作業服の費用、表彰の費用等をいう。

 当然ながら、自社の裁量で削ることのできない法定福利費にはそれほど違いがない。一方で小規模企業の法定外福利費は大企業の約4割と大きな差がつく。退職給付に至っては、大企業の4分の1程度となる。教育訓練費も3割以下だ。その他の労働費用については、1割以下だが、これは転勤の有無によるものが大きいと思われる。
 ともあれ、規模が大きいことの有利さをあらためて実感できる。

 
学生が大企業志向であることに対して、われわれは保守的だとか若者らしさがないといったネガティブなイメージを抱きがちだが、このような格差を見ると、学生の判断は普通に合理的なだけである。同じ働くのであれば経済的に恵まれたほうで、と思うのは当然のことだ。

 
だからといって、中小企業には大企業に入れなかった人材しか来ないというわけではない。労働費用では劣っていても、共鳴できるビジョン、社長の人間性、幅広くチャレンジできる仕事の面白さなど、中小企業ならではの訴求点があるはずだ。労働費用の大小では測れない魅力をどれだけ有し、学生に提示できるかが中小企業には問われる。

(2017年3月13日)

 
 
 ベアの方法 Column No.108

 ベースアップ(ベア)とは、賃金表の改定により賃金水準を引き上げることである。ただし、下記に述べているとおり、必ずしも賃金表でなくても、一定要件により支給される給与や手当の増額などもベアに含まれる。

 1990年代前半まで、多くの企業でベアは実施されていたものの、経済成長の停滞とともに徐々に行われなくなり、特にリーマンショック以降、実施企業は1割にも満たなくなった。その後、景気の回復や政府主導の”官制春闘”により、2014年頃から再度「ベア」という言葉を耳にしだしたのは周知のとおりである。

 経団連
の2016年人事労務に関するトップマネジメント調査結果によると、2014年から2016年にかけて、3年連続で実施した企業は31.2%であり、2回実施は19.5%、1回実施は18.0%、0回は31.2%と、7割は1回は実施していることがわかる。
 また、直近では、日経新聞の2017年賃金動向調査によると、ベア実施企業の割合は72.8%(前年73.9%)とのこと。 あくまで大手企業中心だが、ベアが普通に行われるようになってきた感がある。

 
それはともかく、「失われた20年」はベアのない20年とも重なる。ベアを復活しようにも、人事担当者の中には、その経験がなく実施方法を知らないという方もいる。

 
ベースアップの方法として代表的なのは以下のものだ。

①一律定額配分方式
 一定額(たとえば3,000円)を一律に増額するもの。この場合、低賃金者は高賃金者に比べて増加率が大きくなるため、低賃金者にとって有利といえる。
②一律定率配分方式
 一定率(たとえば1%)を一律に増額するもの。増加額は等級・号俸ごとに異なることになり、高賃金者にとって有利となる。
③重点配分方式
 たとえば、若年層の多い等級は4,000円(あるいは2%)増額、それ以外は2000円(あるいは0.5%)増額するなど、特定の層に対して政策的に重点配分するもの。
④業績査定配分方式
 業績給など、業績に応じて支給される給与・手当を増額するもの。
⑤職務・資格別配分方式
 職務給や資格給などに応じて支給される給与・手当を増額するもの。

 
先の経団連の調査によると、それぞれの採用割合(複数回答)は、

 ①45.5%
 ②11.7%
 ③39.5%
 ④16.0%
 ⑤29.6%

 となっている。
 ①が好まれるのは、ベアが物価上昇に伴う賃金の改善という意味で理解されていることが大きな要因だろう。生活給的な賃上げなので、社員一律に同額引き上げるのが最も適切ということだ。
 ③の重点配分も人気があるが、内訳をみると、下記のように明らかに若手重視の姿勢が見える。

  ・若年層(30歳位まで)へ重点配分 24.4%
 ・中堅層(30~49歳位まで)へ重点配分 8.0%
 ・ベテラン層(50歳以上)へ重点配分 1.9%
 ・子育て世代へ重点配分 5.2%

 人手不足が深刻化するなか、若年層の雇用維持は重要課題となるはずで、上記の傾向は、ますます強まることが予想される。ベア復活といっても、ベテラン層は恩恵をあまり期待しない方がよいといえそうである。


(2017年4月18日)

 
 
 自治体職員に必要な能力 Column No.109

 市役所などの公務員には人事評価制度がないと思っている方もいらっしゃるが、近年多くの自治体で評価制度の導入が進んでいる。地方公務員法の改正により、2016年度から人事評価制度の導入が義務づけられたからである。

 義務化に際して、総務省の諮問機関「地方公共団体における人事評価制度に関する研究会」から報告書が出された。報告書は、人事評価制度が円滑に導入できるよう規程や評価シートのサンプルを示しており、これを基に制度構築をしている自治体も多い。

 サンプルが示す評価は、業績評価(目標管理)と能力評価に区分され、この点は民間企業と同様である。
 能力評価にどのような項目が設定されているかというと、「評語付与方式」の一般行政職・課長では、倫理、構想、判断、説明・調整、業務運営、組織統率・人材育成の6項目である。 また、係員は、倫理、知識・技術、コミュニケーション、業務遂行の4項目となっている。ご覧のとおり、企業の評価項目と大差はなく、事務職の評価項目としてそのまま利用可能ともいえる。

 さて、
気になるのは、これらの評価項目が本当に自治体の職員に必要な能力かどうかということだ。

 
これについて、日本能率協会が全国894の自治体を対象に行った「第1回自治体 政策形成力・人材育成に関する調査」の結果を見てみよう。

 まず、「現状十分に持ちうる能力・資質」のベスト5は次のとおりである。

① 住民、庁内、関係者との協働力・調整力 25.3%
② 事務処理能力 21.0%
③ 成果創出への業務完遂力/やりぬく力 13.2%
④ IT 活用力 10.8%
⑤ 資料作成力 10.2%

 挙げられた能力・資質は、仕事をテキパキとこなす「有能な官僚」のイメージとして、納得できるのではないかと思う。

 
これに対して、「現状不足している能力・資質」のベスト5は次のとおりである。

① 国際力 81.8%
② 成果志向・経営感覚 63.0%
③ 主体性・挑戦力 51.5%
④ 企画力 51.2%
⑤ プレゼンテーション力 45.0%

 
これまた、一般的な公務員に足りないと感じるものに合致するものではないだろうか。①②などは、能力を磨く場があまりないことが想像できる。

 
次に「今後重要となる能力・資質」のベスト5は以下のとおりだ。

① 企画力 58.1%
② 住民、庁内、関係者との協働力・調整力 43.2%
③ 成果志向・経営感覚 41.0%
④ 主体性・挑戦力 39.6%
⑤ 組織マネジメント力 36.4%

 前記の「現状不足している能力・資質」のうち、企画力、成果志向・経営感覚、主体性・挑戦力の3つが再出していることがわかる。つまり、自治体職員にとって、これらの能力・資質の向上が重点課題になるということだ。
 なお、「現状不足」の高かった国際力とプレゼンテーション力は、それぞれ6.1%、19.3%と今後の重要性は低いと認識されている。

 
先に示した総務省の評価項目は、どちらかといえば、既存業務を効率的にこなすという従来の公務員に求められる能力・資質であり、調査結果で示された今後求められる人材要件とは少なからずズレがあると思える。

 実際、そのような認識の下、あらかじめ総務省のサンプルをアレンジして制度設計をした自治体もあるが、一方で、サンプルをほとんどそのまま使っている自治体もある。後者の自治体では、あらためて、職員に求められる能力・資質を考え、制度を見直すことが重要となる。

 公務員は真面目な人が多いので、大半の職員は設定された評価項目に従って一生懸命に評価をする。その努力が、誤った方向に向かわないよう、しっかりと制度のメンテナンスを心がけてほしい。評価制度は制度導入が終わりではなく、スタートである。何事もそうだが、特に評価制度に関しては、作りっぱなしというお役所仕事にならないよう注意が必要である。

(2017年5月1日)

 
 
 評価制度の運用に関する調査 Column No.110

 評価制度に関する調査にはいくつかあるが、2月に公表された産労総合研究所の「2016年 評価制度の運用に関する調査」は、評価制度の有無といった総括的なことから、評価段階数などの細かい内容まで対象としていて非常に興味深い。制度づくりの際の資料としても参考になるので、その概要をお伝えしたい。なお、回答企業は上場企業等180社で、規模別では、1,000人以上・300~999人・299人以下がそれぞれ約3分の1ずつを占めている。

(1)等級制度の分類
 まずは評価の前提として、どのような等級制度が採用されているかである。主な結果は次のとおり。

・一般職層では、「職能等級制度」68.4%、「役割等級制度」20.4%、「職務等級制度」11.7%
・管理職層では、「職能等級制度」55.4%、「役割等級制度」37.1%、「職務等級制度」10.1%
※いずれも併用を含んでいるので100%を超える。
 
 まだまだ職能等級制度が主流となっていることがわかる。ただし、管理職層では一般職層に比べて、役割等級制度の割合が高く、成果主義が浸透しているといえる。

(2)評価制度の現状
 続いて評価制度の現状で、まずは評価制度の有無である。

・「評価制度がある」95.0%、「制度としてはないが、実態としてはある」3.9%、「ない」1.1%

 評価制度がないのが5%ということだ。調査対象企業には300人未満のところもあるので、おそらくは、その中の企業ではないかと思う。

 次に評価項目は、以下のとおりである。
 
・一般職層では、「行動・取組姿勢・意欲(プロセス)」が94.1%、「能力」が81.8%、「目標の達成度(成績、業績、成果等)」が91.8%
・管理職層では、「目標の達成度(成績、業績、成果等)」が94.1%、「行動・取組姿勢・意欲(プロセス)」が80.0%、「能力」が70.0%
 
 評価項目として一般的に用いられているものが、依然、主流を占めているといえる。

(3)評価制度の仕組み
 「能力」「行動・取組姿勢・意欲」「目標の達成度」のそれぞれを評価したものを、総合的に評価する総合評価が9割の企業がとられているとのことだ。そこで、総合評価の仕組みをみると、以下のとおりとなる。

・評価期間は6カ月が60.0%、1年が43.3%、それ以外が4.7%
・評価段階数は5段階が48.0%、7段階が17.3%、8段階以上が15.3%
・評価者は2次評価までが44.7%、3次評価までが36.2%、それ以上が8.0%
・評価の反映は、昇給89.3%、賞与87.3%、昇格84.0%、配属16.0%

 評価期間は1年の方が多数を占めると思っていたが、そうでもないようだ。ただし、能力評価に限ると、6か月41.1%、1年54.6%と1年の方が多くなる。
 評価段階数も、評価項目によって多少の変化が見られる。たとえば能力評価では、7段階は9.9%、8段階以上は6.3%と、総合評価に比べて少なくなる。総合評価は、昇給や賞与に反映させるために段階数が多くなると考えられる。
 
(4)評価制度の納得性向上のための工夫

・評価の仕組みなどを公開している企業は85.0%

 これだけ見ると公開性が進んでいるように思われるが、内容には評価期間や評価項目などの公開も含まれており、最大の関心事である評価結果の公開だと、数値は65.5%に下がる。
 
・評価者訓練を実施している企業71.4%、被評価者訓練は22.6%

 筆者の感覚では、もっと少ないような気がするがどうだろうか。調査対象に、比較的大規模の企業が多く含まれるからかもしれない。また、「実施している」といっても、制度を導入したときや管理職昇進者のみのケースもあるのかもしれない。

(5)評価の低い人への対応

・「配置転換を検討する」45.3%、「降格対象者となる」44.7%、「能力開発を行う」27.1%、「ケースバイケース」48.8%、「とくに何もしていない」8.8%

 「配置転換」や「降格」など、結果責任を問う姿勢が強く、人材育成の視点が弱いのが気になる。評価が低い人には、本来は上司が中心となって指導を行うべきである。もっとも、ここでは、制度・仕組みとしての対応と受け止め、回答したからかもしれない。

(6)異議申立て制度

・評価結果などについて、異議申立て制度、あるいは相談できる仕組みがある企業は39.8%

 自治体等の公的機関ではほぼ100%あると思われるが、やはり民間では少ないようだ。むしろ4割もあるのかという感じである。ただ、これからの時代、ある程度の規模の企業では、制度を用意しておく必要性は高いだろう。

(2017年5月29日)

 
 
 2017年新入社員の意識 Column No.111

  6月に入り就活試験・面接が解禁となったが、超売り手市場を背景に、気のせいか学生の顔も自信に満ちているように見える。それはともかく、最近の学生はプライベート重視の姿勢が強いと言われるが、本当のところどうなのだろう。

 5月に発表された『2017 年マイナビ新入社員意識調査』では、その辺りのことが浮き彫りになっている。全部で16の設問から、興味深い回答をチェックしてみたい。

『あなたが今、会社で発揮できる力はどのような力だと思うか?』

1位:「物事に進んで取り組む力」 (53.4%、昨年比1.1pt減)
2位:「相手の意見を丁寧に聞く力」 (53.0%、昨年比3.6pt減)
3位:「社会のルールや人との約束を守る力」 (38.7%、昨年比0.1pt増)

 
『これから自分に必要だと思う力はどんな力だと思うか?』

1位:「自分の意見をわかりやすく伝える力」 (47.5%、昨年同様)
2位:「他人に働きかけ巻き込む力」 (33.3%、昨年比1.1pt増)
3位:「現状を分析し目的や課題を明らかにする力」 (31.5%、昨年比2.0pt増)

 この2つの設問に関しては、新入社員に限らず、中堅、さらにはベテラン社員であっても、同じような結果が出そうである。「これから~」の3つはビジネスパーソン永遠の課題といえるかもしれない。なお、5位に「新しい価値を生み出す力」というのがある。本当はこれが一番必要ではないかと思う。1~3位は、そのための手段といえる。

『先輩にはどのように接してほしいか?』

「優しく接してほしい」 29.4%(昨年比2.4pt増)
「どちらかといえば優しく接してほしい」 54.0%(昨年比1.1pt減)
「厳しく接してほしい」 3.1%(昨年比0.8pt増)
「どちらかといえば厳しく接してほしい」 13.3%(昨年比1.7pt減)

 「優しく接してほしい」の回答29.4%というのは調査開始以来、最も高い数値だそうだ。とはいえ、調査開始の2012年は28.1%で、それと比べて大した違いはないともいえる。 それよりもっと前の、たとえば高度成長時代にはどのような回答となったか見てみたいものである。

『仕事とプライベートについて』

「仕事優先の生活を送りたい」 4.9%(昨年比0.8pt増)
「どちらかといえば仕事優先の生活を送りたい」 32.2%(昨年比6.4pt減)
「プライベート優先の生活を送りたい」 14.6%(昨年比4.6pt増)
「どちらかといえばプライベート優先の生活を送りたい」 47.8%(昨年比1.3pt増)

 「プライベート優先(プライベート優先の生活を送りたい+どちらかといえばプライベート優先の生活を送りたい)」が62.4%(昨年比5.9pt増)となり、過去最高の数値となったとのこと。2012年は44.6%なので、明らかに増えていることがわかる。売り手市場が強まっていること、働き方改革が叫ばれ、ワークライフバランス意識がこれまで以上に高まっていることが背景にあるのは間違いないだろう。

『残業について』

「残業してでも働きたい」 4.8%(昨年比0.4pt増)
「必要な残業であればよい」 6.0%(昨年比3.3pt減)
「絶対に残業はしたくない」 4.4%(昨年比1.5pt増)
「なるべく残業はしたくない」 24.5%(昨年比1.8pt増)

 「残業してもよい(残業してでも働きたい+必要な残業であればよい)」が70.8%と、昨年に続き、調査以来最低の数値になったとのことだ。 これも、2012年の80.7%に比べて、確実に減少傾向にある。「残業したくない派」は3割を占め、もはや少数派とはいえない。残業命令ではなく、残業をお願いする時代が近づきつつあるのかもしれない。

『ストレス耐性の有無』

「ある」 21.7%
「どちらかといえばある」 45.0%
「ない」 6.3%
「どちらかといえばない」 23.7%

 「ある」と「どちらかといえばある」を足すと66.7%となり、3分の2がストレス耐性を有するという結果になった。最近の若年者は打たれ弱いという印象があるが、そうでもないのだろうか。もっとも、傷つきやすいからこそストレスをかけないよう、会社が大切に扱っているのかもしれないが。
 ところで、
これも先輩社会人に尋ねてみたい設問である。新入社員よりもはるかに多大のストレスにさらされることから、「ストレス耐性はない」の方が高くなるかもしれない。それとも、経験を重ねてストレス耐性が向上し、「ある」の傾向が強まるだろうか。

 以上
の結果からうかがえるのは、新入社員の会社に対する強気な姿勢である。良く言えば個が確立しており、悪く言えば会社・仕事を少しなめているようにも見える。 ベテラン社員からすると、結構なギャップを感じるのではないだろうか。ただ、新入社員の意識が誤っているとか、悪いというわけではない。まずは、彼・彼女らの意識を理解することが大切である。

(2017年6月5日)

 
 
 新入社員の意識~産能大調査 Column No.112

  前回のコラムでマイナビによる新入社員の意識調査を取り上げたところだが、産業能率大学からも同様の調査結果が公表された。「2017年新入社員の会社生活調査」というものである。
 これにもいくつか興味深い結果が示されていた。何より本調査で優れているのは、過去の結果が一目瞭然に示されており、近年の新入社員の意識変化がよくわかる点である。以下、適宜ピックアップしてみよう。

Q.1 ヵ月の残業時間について、あなたは何時間程度なら許容できますか?

時間
0
2.1
1~10
13.1
11~20
27.9
21~30
24.9
31~40
14.1
41~50
9.2
51~60
4.6
その他
4.0
       

 20時間以内で4割強、30時間以内で7割弱となった。残業に対する世間の目は厳しくなり、企業も残業減らしに関心を持つようになったとはいえ、実際には、大半の企業で残業は山のようにある。理想と現実とのギャップに呆然とならないか、少し心配である。

Q.あなたは「転勤」についてどのように考えていますか?

・転居の有無、期間に関係なく転勤してもよい 24.7%
・転居を伴わないのであれば転勤してもよい 19.6%
・転居を伴う場合でも期間が限定されていれば転勤してもよい 27.6%
・一度も転勤せずに同じ場所で働き続けたい 28.0%

 転居を伴わないのは、一般的には転勤と呼ばないし、期間限定の転勤というのもあまり聞かない。そのような意味で”普通の転勤”を受け入れるのは4人に1人となった。これまで、総合職であれば基本的に社員の意思にかかわらず転勤をさせてきたが、根本的に考え方を変えなければならないのかもしれない。

Q.将来の進路としてどのような方向を望みますか? 

①管理職として部下を動かし、部門の業績向上の指揮を執る 45.6%
②役職には就かず、担当業務のエキスパートとして成果を上げる 45.6%
③独立して自分の会社を起ち上げる 5.8% 
④ボランティア活動など仕事以外の道を探す 3.1%

 ①と②については男女で相当の違いがある。男性は①54.6%、②35.8%、女性は①25.8%、②66.9%である。女性の①は、昨年の34.9%から大きく減った。「女性が輝く社会」が一過性のものに終わらなければよいのだが。とはいえ、長期傾向としては女性の管理職志向が増えているのは確かである。
 ③も経年で大きな変化が見られる。2002年度は、①22.4%、②49.6%、③20.4%と、独立志向が異常に強かった。2000年初頭といえば、ITバブルによりベンチャー起業家が持てはやされていたころである。
 独立志向の減少は、言い換えれば会社志向の人が増えているということだ。単に安定を求めているのか、それとも組織を好む若者が増えているのか興味深いところだ。

Q.年齢や在籍年数に応じて昇進や待遇が決まる年功序列的な人事制度と、業績に応じて決まる成果主義的に人事制度ではどちらを望みますか?

・年功序列 45.5%
・成果主義 54.5%

 2006年度からの経年比較があるが、2006年度は年功序列34.7% 成果主義65.3%となっている。
 その後リーマンショック不況の影響を受けてか、2009年度に年功序列が47.5%と急激に増加した以降は、2011年度まで下がり、そこからまた増えているという状況である。
 面白いのは、男女で結構な差があり、男性の方が成果主義を好むのかと思いきや、女性の方が成果主義志向が強い(成果主義:男性53.2%、女性)57.1%)。
 日本企業は「年功序列」であり「男性優位」であったわけだが、年功序列により能力が低くても昇進している男性の姿を見ているからかもしれない。

Q.“終身雇用制度”を望みますか?

・望む 71.8%
・望まない 28.2%

 これについては1994年度からの経年比較が示されている。
 1994年度は、およそ7対3であったが、成果主義が盛んに取り入れられた2000年度ごろまでに、両者はほぼ拮抗するくらいになった。その後、長引くデフレの影響を受けて安定志向が高まったのか、「望む」が増加化傾向にある。
 終身雇用は過去のものとなったと言われて久しく、企業の実態としてもその通りだと思うが、少なくとも新入社員の意識の中では重要性が増しているようである。


(2017年6月26日)

 
 
 組織分析①~組織構造のチェックポイント Column No.113

 企業というのはヒトの集合体である組織で成り立つ。うまく機能すれば、1人1人の力の和よりも大きな成果を引き出すが、逆の場合もある。

 組織が機能しているかどうかを分析するのが組織分析で、これには組織構造の分析と組織風土の分析がある。両者は密接に関連しており、ごく簡単にいえば前者が原因で後者が結果となる。

 もっとも、組織構造を見直せば、自然と組織風土が改善するという単純なものでもない。組織風土には、組織構造以外に業種業態の特徴や会社の歴史、経営者の個性など様々なものが反映され、むしろそちらの影響の方が強いからだ。

 
とはいえ、組織が機能するために、まずは適切な組織構造づくりが課題となる。こちらの方が比較的手を打ちやすいという特徴もある。今ある組織が適切な構造を持っているか、6つのチェックポイントを示してみたい。

1.各社員の役割がハッキリしているか?
 役割というのは企業目標や職場目標の達成のために、自分に求められる行動や結果のことだ。社員の担当業務そのものではなく、担当業務を通じて何をするかである。役割が不明確だと、とりあえず目先の業務を漠然とこなすだけになる。応用も効かないし、融通も利かない。
 社員が役割を自覚していないのは、企業がハッキリさせていないからだ。たとえば、目標管理において、目標設定の前に、まずは自己の役割をじっくり考えさせるような機会を設けたいものである。

2.仕事の責任がハッキリしているか?
 これも単純に権限規程で示されていればOKというわけではない。もっと、具体的なケースで、たとえばプロジェクト実行の際に責任者を明確化しているかということだ。もちろん、全体にはリーダーが責任を負うわけだが、個々の業務に関する責任をハッキリさせる必要がある。たとえば、「○○の資料作成については、Aさんに責任をもってやっていただきます」と、日々の業務レベルで責任を明確にしているかどうかである。

3.立場があいまいなポジションはないか?
 典型的なのは次長や副部長、部長代理といったものである。中には、この3つが同部署で存在する会社もある。課長は卒業だけれど部長は在籍するので、そのような肩書にするケースが多い。部の規模が大きく、部長1人でマネジメントが困難な場合は、次長等のポジションがあってもよいが、その際には1・2で指摘したように、その役割や責任を明確にする必要がある。

4.情報はタテヨコ、スムースに流れているか?
 組織内の情報の流れには、上から下への流れ、下から上への流れ、ヨコ同士の流れの3つがある。流れが悪い会社は、どれか1つというより、たいていは3つすべてに問題がある。
 これもトップの責任が大きい。トップ(現在だけでなく、過去の創業者なども含む)が秘密主義であったり、部下の意見に聞く耳を持たなかったりすれば、下も自然とそうなる。社員が不祥事を起こした際、「私は知らなかった」「情報を伝えられていなかった」と自分に過ちはないかのように言う経営者がいるが、そのような隠ぺい体質の元凶となっているのは経営者自身であることも多い。元凶とまでは言わなくても、それを放置している経営者に根本的な問題があるといえる。

5.会社や職場の目標・方針・計画等を、各社員が十分に理解しているか?
 4の問題とは別に、上位の意向は下位になかなか正しく伝わらないものである。段階を経るごとに、内容が欠けたり、歪んだり、別の情報が加わったりすると認識すべきだ。また、たとえ正しく伝わったとしても、1度きりでは忘れられてしまう。重要なことは繰り返し伝えることだ。理解を深めるために、その必要性や目的も含めて語らなければならない。

6.部門・部署ごとの交流は活発か?
 交流が不活発になる要因は大きく2つある。1つは物理的な要因で、部門・部署が離れていれば、当然に交流は少なくなる。同じ建物であっても、フロアが異なると交流は希薄になる。最近は、セキリュティの問題から、フロアごとにドアで閉ざされている企業も増えており、フロアが違えば1ヶ月間顔を合わすことがないようなケースもある。企業としては、交流を促す仕組みが必要になる。
 もう1つは、トップのリーダーシップが強すぎる場合である。社員はトップの方しか見ておらず、また、トップもそれを良しとする。ヨコとの連携はトップへの忠誠に反するものであり、後ろめたい行動となってしまう。

 
問題点を強調するために少し大げさな表現で書いたが、程度の差はあれ、どの組織にも当てはまる事項だと思う。 これら6つは、いずれも企業自体に原因があり、もっといえば経営者の問題である。
 言葉を換えれば、経営者次第で改善が見込めるということだ。組織構造は組織風土にさまざまな影響を及ぼし、組織風土は企業業績に影響を与える。経営者や人事部門には、上記の観点から、自社の組織の実態を見つめ直してほしい。

(2017年7月3日)

 
 
 組織分析②~組織風土のチェックポイント Column No.114

 今回は組織風土の分析である。よい組織風土とは、「社員が伸び伸びと、活気に満ちて仕事に取り組んでいる組織」ではないかと思う。そのような組織であれば、社員は持てる能力を存分に発揮できるに違いない。そのためのチェックポイントを6つ見てみよう。

1.職場で誰にでも気軽にモノが言えるか?
 いわゆる風通しの良さである。これは職場のトップの影響が大きい。出張などでトップが不在のときに、雰囲気がガラリと変わるような職場は要注意である。適度の緊張感は必要だが、日常的に息が詰まるような状態は望ましいとはいえない。

2.メンバー間で気づいたことを互いに助言し合っているか?
 相手を気遣いながらフランクに言い合えるかである。助言=注意・警告と受け止められると、雰囲気は微妙なものになってしまう。相手のためを思って言う、自分のことを思って言ってくれる、と双方の信頼関係がメンバーの間にあるかどうかである。

3.決まったことはとにかく実行しようとするか?
 個人的に反対であっても、組織として決定したことは実行しなければならないときもある。「乗り気がしないからやらない」で済むなら、サークル、いや単なる遊び仲間である。各メンバーが、自分の役割に照らして、どのような貢献ができるかを考えようとするかである。

4.下からの提案が活発にあるか?
 これには2つのレベルがある。 まずは、「〇〇の問題があるのですが、どうしましょうか?」と部下から問題の指摘があるかである。次に、「〇〇の問題があるので、〇〇したい」と、提案まで言う風土があるかである。
 第一段階に満たない組織は、専制型のリーダーがいるか、無気力社員ばかりがいるかのどちらかだが、いずれにしろ、能力ある人材は居着かないだろう。第二段階は、社員の意識付けが大きい。提案までする組織は、そのようなトレーニングを受けていることが多い。
 なお、重要なのは自発性である。たとえば、提案を促すために、商品アイデアを社員募集するケースがあるが、件数は多くても、それがノルマとなっていて、社員のストレス要因になっていては、良い組織とはいえない。

5.失敗を恐れずにチャレンジすることが重視されるか?
 ある会社で、社長は盛んにチャレンジを奨励するが、社員によれば「失敗すると怖いよー」と、失敗社員の末路を語られたことがある。これでは、チャレンジするわけがない。チャレンジを認めるというのと、失敗を許すというのは表裏一体である。もちろん、失敗の内容に許容範囲はあるし、何度も繰り返すのは問題である。しかし、失敗そのものではなく、失敗を糧にどれだけ成功できたかを評価する組織が、長期的に成長することは間違いない。

6.勉強会など、互いに高め合う場があるか?
 技術力がコアコンピタンスになっている会社はもちろん、そうでなくても、会社組織というのは、様々な分野で専門性が求められる。個人的に学校やセミナー、異業種交流会などに参加するのもよいが、会社の中で専門性の向上ができる場があるともっとよい。ある会社では、自主的な勉強会が盛んで、教材費や合宿費用なども補助している。そのようなことを奨励する文化、トップの理解があるかだ。
 
 
これらの6つは、前回の組織構造よりもトップの影響は大きく、特に中小企業ではかなりのウェイトを占めるはずだ。
 とはいえ、メンバー個々の問題意識が最重要である。「トップが変わらなければ」「周りが変わらなければ」と思っていては、組織風土は永遠に改善しないだろう。

(2017年7月17日)

 
 
 自社講師による研修のすすめ Column No.115

 先般、ある企業から、評価者研修の
実施にあたって人事部門の社員が講師を務めるので、その養成をしてほしいとの依頼があった。筆者は普段から、社員(特に若手・中堅)の能力開発には、研修講師をするのが非常に有効と考えていたので、快く引き受けた次第である。

 自社で
研修を行うメリットとして、まず、一番に考えられるのは、講師体験を通じて人材育成ができることである。 多数の人に何かをレクチャーするというのは、大変な労力を伴うものだ。「しなければならないこと」を挙げてみると、

・専門的な知識・技術など、話す内容を準備しなければならない。
・それを体系的に整理するとともに、ストーリーや展開の仕方も構想しなければならない。
・パワーポイント等でテキストや資料を作成しなければならない。
・理解してもらうために、話すスキルも高めなければならない。
・思わぬ質問を受けたり、想定外のトラブルがあったりして、判断力・対応力も発揮しなければならない。

 と、ビジネスパーソンに必要な専門知識、構想力、コミュニケーション力、判断力などが必要とされ、講師を務めることで総合的な能力が磨かれる。
 知識について言えば、実務で経験的にはわかっている知識を体系的に整理し、さらに理解を深めるまたとないチャンスとなる。これだけでも、大きな財産である。

 他にも次のメリットがある。

・自社に即した話ができる。たとえば、評価者研修であれば、特定部門や特定上司に評価の甘辛があるなどの実態をよく知っているはずなので、それを踏まえた話ができる。
・研修コストを低くできる。特に、受講者数や開催場所の関係で複数回の実施が必要なものや、毎年継続的な実施が予定されるものはコストのメリットが大きくなる。

 
一方でデメリットとなるのは次のものである。

① 品質が低くなる恐れがある。
② 講師の準備負担が大変となる。
③ 他社の例や外部からみた客観的な見解などが弱くなる。
④ 受講者の緊張感が薄れ、真剣さが不足する可能性がある。
 
 このうち、特に懸念されるのは①と②だろうが、この点は、冒頭に述べたように、最初は外部講師の支援を受けるなどの対応も考えられる。

 もちろん、専門性が非常に高いものや、自社の業務とあまり関連のないものなど、自社講師が難しい研修もあるだろうが、「研修⇒外部講師」と条件反射的に対応するのではなく、自社の社員に任せられないか、一度検討してみる価値はあると思う。

(2017年8月21日)

 
 
 残業規制による給与減少 Column No.116

 先日、大和総研から、働き方改革による残業規制に伴って残業代が年間8兆5,000億円減少するとの試算が発表された。マスコミにも取り上げられたので、関心を持たれた方も多いだろう。残業を月60時間に抑えると、労働者全体で月3億8,454万時間減り、年間換算で8兆5,000億円の減少になるとのことだ。

 日本の雇用者数は約5,800万人。この中には、経営者や管理職などが含まれるので、それを3割とすると、残りの7割、約4,000万人が残業代の支給対象となる。そうすると、1人あたりの減少額は年間約21万円、月1.8万円程度となる。

 普通のサラリーマンにとっては結構大きな減額である。残業は現在の状態でもかまわないので、残業代を維持したいと考える社員は少なくないだろう。

 
企業としては、そうした社員のモチベーションにも配慮する必要性が出てくる。残業が減っても現在の収入をいかに維持させるかである。

 
対応策としては次の3つがある。

① 残業代相当分を補償
 これまでの残業代相当分を手当として支給する。基本的に、残業代が支給されている全員が対象となる。一部の企業で実施しているが、財務的にある程度の余裕がないと難しいだろう。

② 生産性向上を評価し、昇給等に反映
 人事評価に基づいて、生産性向上が見られた社員の昇給幅を大きくしたり、賞与の支給率をアップさせたりするものだ。①と違って、一部の社員が対象となる。

③ 生産性向上分をベア等に反映
 実際に生産性が向上した分をベースアップや賞与原資に反映させるものである。②を個人ではなく、社員全体に適用したものといえる。

 
もっとも、企業として特別な対応はしないという選択もあり、実際、何も対応しない企業の方が多数を占めるだろう。残業が減るのだから、その分、残業代が減るのは当然のことであり、一方で余暇が増えるのだから、経済的にはともかく総合的にみればマイナスとはいえず、企業が特に配慮することはないという考え方も一理ある。

 
ただ、見落としてはいけないのは、インプット(=労働時間)が減ったときに、従来と同様にやっていれば、アウトプット(売上・利益)も当然に減るということだ。企業経営の視点からは、労働時間は減少してもアウトプットは維持しなければならない。そのためには社員1人あたりの生産性を上げるしかない。

 そして、もし、生産性が向上し、これまでと同じアウトプットが実現できたなら、社員にもこれまでと同じ給与を支給しても問題ない。というか、支給するのが筋のはずだ。

 
そう考えると、上記の対応策は、企業として必要な課題ともいえる。生産性向上分の前払いの形となる①は困難にしても、②や③には、ぜひ取り組んでほしいものである。その際、事前にしっかりとアナウンスをすることで、社員のモチベーションにも配慮できる。その意味でも効果は大きいと思う。

(2017年9月4日)

 
 
 経営革新と組織・人事①~組織の重要性 Column No.117

  証券会社などの経済リポートによると、2017年度の企業業績の見通しは明るい。ただ、単にこの波に乗るだけでは、いずれ訪れる退潮とともに下降していくのは目に見えている。そうならないためには、現状に満足することなく変革を続けなければならない。「経営革新」が求められるということだ。

 ところで「経営革新」とは何か? 「中小企業新事業活動促進法」では、経営革新を「事業者が新事業活動を行うことにより、その経営の相当程度の向上を図ること」と定義している(法第2条第6項)。 
 そして、「新事業活動」とは次の4つの「新たな取り組み」をいう。

●新商品の開発または生産
●新役務の開発または提供
●商品の新たな生産または販売の方式の導入
●役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動

 
要は、小手先の改革ではなく、企業が経営資源の多くをかけ、全社一丸となって取り組むような新事業へのチャレンジである。成功すれば、明るい未来が開ける一方で、失敗は、企業の存続に大きな打撃となる。

 このように経営革新は全社的な取り組みである。開発・製造部門や営業部門だけが頑張ればよい話でではなく、人事部門にも重要な役割がある。ここでは、経営革新における組織・人事の重要性を整理しておきたい。今回は組織の重要性についてである。
 
戦略に合わない組織は失敗の元

 たとえば、新事業では、顧客へのスピーディな対応が競争優位の源泉になるとしよう。ところが、組織は旧態依然のピラミッド組織のままで、「その件については私では決めかねます。上司と相談のうえ返答します」を連発すれば、顧客の信頼を得るのは難しいだろう。

 
商材もよい、市場もある、人材もいる。だから組織なんかどうでもよいとい考えは極めて危険である。せっかくのチャンスを失うことになりかねない。自社のコントロールが効かないことであればともかく、コントロール可能なことでチャンスを失くすのは本当にもったいない話である。

 経営革新がうまく運ぶ組織をゼロから考えておくことが重要である。
 
組織風土が邪魔をする

 上記が組織のハード面だとすると、もう1つはソフトの面で、長年の間に培ってきた組織風土が抵抗の土壌となることだ。ヒトは現状維持バイアスを持つとされており、現状を変えることをいやがる。経営革新の必要性が高い企業は、過去に成功体験がある場合が多いので、その傾向は一層強い。何かを変えようとしても、内部のしがらみがそうはさせないのである。

 組織風土に基づく抵抗は、経営革新に対する個々の社員のマイナス反応として現れる。どのようなマイナス反応があるかを想定しておき、それを極力減らすことと起きた際の対応を事前に考えておくことが重要となる。

(2017年9月11日)

 
 
 経営革新と組織・人事②~人事の重要性 Column No.118

 今回は、経営革新における人事の重要性を確認したい。
 
ヒトという経営資源

 言うまでもなく経営革新を実行するのはヒトである。
 ヒトが期待どおりに動かなければ革新は絵に描いた餅となる。そして、ヒトは必ずしも期待どおりには動いてくれない。機械であればスイッチ1つで作動し、仕様に応じた機能を発揮してくれる。ダメなら修理や交換という手段もあるが、ヒトはそういうわけにはいかない。
 ただし、見方を変えると、ヒトは期待以上のパフォーマンスを示すこともありうる。 ヒトを期待どおり(もしくは期待以上)に動かすための仕組みを考えておくことが重要となる。

経営者と社員の「想い」のギャップ


 そもそも経営革新にあたっては、経営者と社員にはギャップがある。トップの熱い想いとは裏腹に社員は冷めているケースが多いのだ。
 どうしてギャップが生じるかといえば、次の3つの差があるからだ。

①危機意識の差
 まずはトップとしての責任感から来る危機意識の差である。経営者として、社員とその家族の生活を守らなければならない。自分の財産もかけている。中小企業であれば、会社の破たんにより、無一文どころか莫大な借金を抱えることにもなりかねない。背負うものの重さの違いと言ってもよい。
 
②情報の差
 経営に関する外部・内部の情報量は、経営者と社員とでは大きな差がある。会社の財務状況の深刻さなど一般社員は知らないことが多い。

③熱意の差
 会社に対する思い入れの差である。経営者には、自分が育てた、あるいは育ててくれた会社に対して強い愛情がある。

 このようなギャップがあるので、「笛吹けど踊らず」はむしろ当たり前のことといえる。冷めた言い方となるが、社員にとって経営革新は所詮、“他人事”なのだ。
 ただ、現場の推進者である社員がそのような意識でうまくいくはずがない。経営革新を“自分事”として認識してもらうことがカギとなる。ギャップを埋め、経営者となるべく近い立場に立ってもらうということだ。

予想される社員のマイナス反応


 前回も述べたように、社員に本気で経営革新に取り組んでもらうためには、社員が示すマイナス反応を前もって認識しておく必要がある。どのような反応があるかといえば、典型例は次の7つである。

・無関心
 「何か新しいことをやろうとしているみたいだけど、ワタシには関係ない」
・無理解
 「そんなことよりも本業の方をきちんとやればいいのに」
・不安
 「これまで経験のないことをやらされるのでは? 今さらそんなことやりたくないよ」
・ひがみ
 「もうオレはこの会社に必要ないよ。辞めようかな‥‥」
・冷視
 
「どれどれ、お手並み拝見といくか」
・対立
 「新しく入ったヤツのやり方は気にくわない。無視してやれ」
・無気力
 「どうせ何をやってもダメだって‥‥」

 これらの反応は多かれ少なかれ必ず起きる。前回も指摘したとおり、ヒトには現状を変えたくないという意識があるからだ。それを極力減らすことと起きた際の対応を事前に考えておくことが重要となる。
 もちろん、悲観的な反応ばかりでなく、若手を中心にプラス反応も少なからずある。マイナス反応を抑えつつ、プラス反応をどれだけ活性化させるかが課題である。

 以上、2回にわたって、経営革新における組織・人事の重要性を整理してきた。次回は、これらをどうやって実現すればよいかを考えてみたい。

(2017年9月19日)

 
 
 経営革新と組織・人事③~実現のポイント Column No.119

 前々回から2回にわたって、経営革新の際の組織と人事の重要性、つまりはメンバーの意識改革が重要となることを整理してきた。

 今回のテーマは、それをどうやって実現するかである。

 ポイントを指摘する前に、まず、確認しておきたいのは、自己変革が基本になるということだ。「意識改革をしろ!」とのトップの言葉に、上辺だけ従ってもらっても意味はない。変革の強制はできないと心得るべきだ。したがって、変革には時間がかかる。長期戦を想定し、気長に粘り強く取り組むことが求められる。

 この点を押さえた上で、実現のためのポイントを4つ指摘したい。
 
1.率先垂範
 まずは率先垂範である。経営革新に向けて、トップが率先して発言し、自ら行動しなければならない。口先だけの改革では、メンバーは動かない。言うは易く行うは難し・・・行動というのは大変なエネルギーを必要とする。その困難にトップ自らが挑むことで、改革が本気であることが伝わる。当然ながら、最終的な責任は自分(トップ)がとる。要はトップが先頭に立ってチャレンジをするということである。

2.外部からの刺激
 次に外部からの刺激を活用することである。外部からの刺激とは、取引先や大学等との連携、行政やコンサルタントなど専門家の支援、異業種交流などにより、社外人材との交流を深めることである。
 これらを通じて、研究や製品開発を進めたり、経営・財務その他の勉強会をしたり、変革に関するアドバイスを受けたりすることで、「井の中の蛙」からの脱却を図るのである。トップはもちろんのこと、多くの社員にも参加させたい。
 内部からの改革には限界がある。「外圧」によって変わらざるを得なくするのも狙いである。

3.体制の整備
 3つ目は体制の整備である。「新しいワインは新しい革袋に」と言われるように、新たな取り組みは新たな組織で実行するのは、重要な検討事項となる。
 組織の視点からは、新たに事業部を設けるのも一法であるし、これまでと違う事業であれば別会社化もありうる。人事の視点からは、新事業の特性に合わせて新たな人事制度を制定することも考えられる。
 環境を変えることで、具体的なメリットを実感できる仕組みを検討したい。

4.コミュニケーションの深化
 最後の1つはコミュニケーションの深化である。社員の自己変革を促すには、社員自らがどれだけその気になるかである。前回のコラムで指摘したように、社員に経営革新を”自分事”でとらえてもらうということだ。
 そのために求められるのは、トップダウンの指示・訓示ではなく対話である。経営革新の必要性や具体策、各メンバーの役割などについて、トップとの話し合いはもちろん、メンバー同士がじっくりと話し合える機会を設定したい。
 このような取り組みは、時間がかかるかもしれないが、あせらず、粘り強くやることが、結局は経営革新成功の早道になると認識すべきである。

 経営革新とは、ある意味、自社そのものの革新である。自社の革新とは、長年の間に自社にはびこった”しがらみ”を無くすことともいえる。上記の4つは、経営革新の障害となる、内部のしがらみへの対抗策でもある。しがらみの除去は容易ではないが、それを放置する企業に明日はないと自覚すべきである。

(2017年10月23日)

 
 
 働きがい重視の経営 Column No.120

 企業経営において、社員の「働きがい」を重視する姿勢が強まっている。

 10月18日に日本能率協会から公表された日本企業の経営課題2017 調査結果によると、当面する経営課題として、「働きがい・従業員満足度・エンゲージメント向上」を挙げる企業が、前年の16 位(4.3%)から10 位(11.0%)に上昇したとのことだ。
 1位の「収益性向上」(42.1%)や2位の「売り上げ・シェア拡大」(36.8%)に比べると、まだまだ重要度が低いものの、近年、急速に存在感を高めている。
 翌19日に発表された連合の「2018 春季生活闘争 基本構想」においても、「すべての働く者が人間らしい働きがいのある仕事(ディーセント・ワーク)に就くこと」が求められるとしており、「働きがい」がクローズアップされていることがわかる。

 働きがい重視の背景として、1番に考えられるのは人手不足だろう。人手不足のために社員囲い込みの必要が生じ、その方策の1つとして働きがいを高めようというのである。
 これまでも、社員の働きがいは表面的には重視してきたはずだ。少なくとも、「働きがいなど無用」と公言する経営者はいなかったはずである。ただ、実態が伴っていたかといえば疑問で、長期雇用は保障するけれども、個々の社員の働きがいまでは面倒を見ないというのが基本スタンスであったと思う。そこには、「働きがいがないのなら、辞めても構いません、他にもヒトはいますから」という考えが根底にある。

 ところが、近年の人手不足により状況は変わった。特に今回は、人口減少による長期的な問題と認識され、今をしのげば何とかなるというものではないため、スタンスを根本的に改めざるを得なくなった。新たな人材の確保はもちろん、今いる人材の引き留めが重要となったのである。企業は、以前のような口先だけでなく、本気で社員満足の向上などの働きがい重視に取り組まなければならなくなった。

 背景としてもう1つ考えられるのは、社員側の意識の変化である。

 意識の変化には大きく2つあり、1つは仕事に対する問題意識の高まりである。
 これまでは、プライベートを犠牲にして仕事(というか会社)に忠誠を尽くすことが当たり前とされてきたが、それが希薄化してきている。社会が豊かになり、仕事を生活のための手段というよりは自己実現の手段ととらえる人が多くなった。企業としても、ブラックのレッテルを貼られないよう、社員のモチベーションや感情に一層の注意を払わざるを得なくなった。

 2つめは、働き方に対する意識の多様化である。
 かつては正社員と非正規社員という大きなくくりでよかったが、そこに勤務期間、勤務日数・時間、勤務場所、職種、役職等の要素が加わり、多様なニーズに対応しなければならなくなった。正確にいえば、これらのニーズは昔からあったのだが、企業は最低限の選択肢を設けるだけで済んだのである。社員もそれを当たり前に思い、定められた枠に粛々と従ってきた。ところが、上記の問題意識の高まりを受け、細かなニーズへの配慮が求められるようになり、今では、それがスタンダードとなりつつあるのだ。

 このような背景を踏まえると、働きがい重視の経営が、どこまでウェイトを高めるかはわからないが、少なくとも現在より低くなることはないはすだ。企業としても、仕方なくというよりは、1人1人の働きがいの総和が企業の売上や利益に大きな影響を与えるという認識で、意欲的に取り組んでほしいものである。

(2017年10月30日)

 
 
 「調整給」の解消 Column No.121

 企業の給与制度や支給明細を見ると、よくあるのが「調整給」あるいは「調整手当」(以下、調整給で統一)である。

 調整給は、「各種の原因によって生じる労働者の賃金の不均衡を是正」(経団連「人事・労務用語辞典」)するもので、金額としては、大体数千円からせいぜい数万円程度の比較的少額が多い。

 調整給の内容は、大きく次の3つに分かれる。

1.給与制度の改定に伴って発生したもの
 新たに設定した号俸に移行した際に、端数となったものを調整給として支給するようなケースである。

2.企業統合により発生したもの
 企業合併などで、吸収された方の給与水準が異なる場合に、差額を調整給として支給するようなケースである。

3.給与規程外の何らかの手当てを支給するもの
 たとえば、単身赴任者が帰省するための交通費を支給する際に、給与規程上にルールがないため、調整給として支給するようなケースである。

 1と2は、本来は基本給に含めてしまえばよいのだが、そうすると、退職金や賞与の算定基礎が増額してしまい、人件費の高騰につながることから、便宜的・一時的に調整給の形をとったというケースが多い。3は、とりあえず調整給に押し込んでおくという発想である。1は昇給に伴って解消していくが、2・3は、一時的なはずなのに、ズルズルと支給を続けてしまうのが通例である。

 調整給の問題点は大きく次の2つである。

1.給与として、支給内容が不透明となる
 給与は社員の働きの対価として支払うもので、その金額が何に対するものであるかを明確化することが大切である。「調整給」では、その点がブラックボックスで不透明となる。

2.安易な調整給の支給につながる
 調整給という便利なものがあると、給与規程外のことでも、調整給で支給すればよいという考えになりがちである。極端な例だが、降格により基本給が下がった社員から文句が出たので、補填のために調整給を支給するという企業があった。

 このような問題を抱える調整給は、できるなら無くしたいものである。対象者が少なく、近いうちに定年になるとかであれば放置しても構わないが、そうでなければ、制度的に解消したい。なくすタイミングとしてもっともよいのは、給与制度を変えたときだが、そうでなくても、「人事部門の英断」でスパッと廃止するのが望ましい。

 解消の手法としては、次の2つが基本となる。

①基本給に繰り入れる
②他の名目が明確な手当とする

 ②は、上記の帰省費用などで、これは給与規程に「帰省手当」等で明文化すればよいので比較的容易だ。
 問題は①で、1つは、前述したように人件費の高騰につながることである。ただ、この点は、調整給廃止のための痛みと割り切るしかない。
 もう1つやっかいなのは、基本給に繰り入れたときに該当する号俸がないケースや、号俸の上限近くに貼り付けられて今後の昇給が見込めなくなってしまうケースである。調整給が高額で、現号俸が高い社員に発生する可能性がある。この場合は、上位の賃金テーブルに移行させるか、それが困難なら、調整給を続けるのも止むを得ない。
 完全に解消するのに越したことはないが、社員に説明できないやり方で無理になくすのは避けたい。可能な限りなくすというスタンスで、柔軟な対応も必要である。

 調整給の存在は、のどに刺さった魚の骨のようで、気に障る人事担当者の方も多いのではないだろうか。上記を参考に「英断」を期待したい。

(2017年11月6日)

 
 
 目標管理の公開 Column No.122

 目標管理を実施する企業は多く、その運用の仕方も様々だ。
  運用にあたって、お勧めしたいのが目標の公開である。社員が設定した目標を、社内LAN等を通じて他の社員が見られるようにするのだ。もっとも、そのような企業は少なく、本人と上司だけで共有するケースがほとんどだと思う。

 公開のメリットには次のものがある。

目標を共有することで、周囲の理解や協力が得られやすくなる
② 見られても恥ずかしくない目標を立てるようになる
③ 達成に向けて、良い意味でのプレッシャーをかけられる

 ①は目標公開の一番の目的でもある。社員がそれぞれの目標を知ることで、お互いに協力し合うことが期待できる。特に上司の目標は、部下の目標と連動していることが多いので、それを知るのは有意義だろう。②と③は、他者の目を意識することで、より適切な目標設定と進捗管理が期待できるようになるということだ。安易に達成できるような目標は立てづらくなるはずだ。
 
   一方、デメリットは、
 
① 社員の不公平感が高まる可能性がある
② 過度のプレッシャーがかかる
③ 目標の内容によっては公開できないものがある

  などだ。①は、自分よりも簡単な目標を立てた社員に反感を持つといったケースである。これは特に同部署間で起こり得る。③は、企業秘密とすべき開発部門の研究や人事部門のデリケートな施策などである。

 ただ、これらは、ある程度是正が可能と考えられる。①は、事前にメンバーで目標を話し合うことなどで、不公平感を抑えられる。②は上司の指導・アドバイスが大切になる。この後述べるが、達成度評価は未公開とするなどの仕組みもポイントとなる。③は、非公開とすべき目標は例外とすることを、ルールとして決めておけばよい。

 目標公開にあたっては、どの範囲まで公開するかという問題もある。選択肢としては、

・全社
・部門(たとえば事業部や部、支店など)
・部署(たとえば課など)

 の3つである。中には、社外にまで公開している会社もあるが、そこまでともかく、原則は全社とすべきだろう。先に挙げた公開のメリットを最も期待できるからである。

 もう1つ、どの段階まで公開するかというのもある。選択肢としては、

・設定目標
・進捗状況
・達成度

 であるが、基本的には設定目標だけでよいと思う。過度にプレッシャーをかけるのは好ましくないからだ。もちろん、何事にもオープンというような企業であれば、達成度まで公開するのもよいだろう。
 
 目標管理の目標公開は、社員の心理的な抵抗感から、いきなり導入するのは難しいかもしれない。そのため、たとえば、3年後に導入予定ということをアナウンスし、社員の自覚を促すとか、まずは部長職等の上級管理職に導入し、徐々に拡大していくなど、ソフトランディングを図るのもよいと思う。実施のメリットは大きいので、ぜひ検討していただきたい。

(2017年11月27日)

 
 
 人気の職種、不人気の職種 Column No.123

 人手不足が深刻化している。
 厚生労働省が発表した2017年10月の有効求人倍率は、前月比0.03ポイント増の1.55倍となった。 新規求人倍率(季節調整値)は2.36倍で前月比0.10ポイント増である。
 また、新規求人数は前年同月に比べて7.1%増となっている。産業別では、

・製造業 12.8%増
・情報通信業 9.3%増
・サービス業(他に分類されないもの) 8.3%増
・医療,・福祉 7.9%増
・運輸業・郵便業 7.3%増
・卸売業・小売業 6.6%増

 などで増加となり、

・教育・学習支援業 0.9%減

 で減少となっている。

 これだけを見ると、製造業の社員は転職市場で引っ張りだこであり、処遇に不満を抱える社員の中には、「よし、私も」と意気込む方がいるかもしれないが、早計は禁物だ。当然ながら、職種によって大きな差があることを認識しなければならない。

 では、現在求められている職種、あるいは逆に求められていない職種は何か、リクルートキャリアが公表した2017年11月末時点の職種別転職求人倍率(※転職求人倍率とは求人数÷登録者数のこと)を見てみよう。

 全体(34職種)では1.90倍で、前年同月比で0.09ポイント増と転職市場の好調ぶりを示している。その中で上位5職種は以下のとおり(△は前年同月比の増加ポイント)である。

① インターネット専門職(Webエンジニア含む) 6.12倍(△1.23)
② 組込・制御ソフトウエア開発エンジニア 4.79倍(△0.44)
③ 建設エンジニア 4.67倍(△0.28)
④ SE 3.41倍(△0.36)
⑤ 機械エンジニア 2.96倍(△0.33)

 次に下位5職種は以下のとおり(▼は前年同月比の減少ポイント)。

① オフィスワーク事務職 0.47倍(▼0.01)
② 食品エンジニア 0.54倍(▼0.06)
③ 金融専門職 0.74倍(▼0.10)
④ 制作・編集・ライター 0.76倍(▼0.06)
⑤ 医療技術者 0.83倍(▼0.31)

 こう見るとIT系技術者の人気ぶりがよくわかる。下位の3位となった「金融専門職」も、たとえばフィンテックの技術者であれば引く手あまただろう。その一方で、母数でいえば相当数になりそうな、「オフィスワーク事務職」の厳しさを痛感する。また、エンジニア・技術者といっても、業種により格差があることにも気づく。製造業の社員であっても、業種・職種によって天と地の差があるということだ。

 もう1つ気になったのは、上位5職種はいずれも前年同月比で増加している一方で、下位5職種はその逆となっていることだ。これだけ人手不足といわれながら、倍率をさらに落としている。

 マーケティングに、市場導入された製品が成長期、成熟期を経てやがて衰退していくという製品ライフサイクル論というのがあるが、これらの職種は「衰退期」にあり、労働市場からの撤退が迫っているのかもしれない。

 マーケティング論では、衰退期の克服には製品のイノベーションが必要とされる。小手先の改良ではダメなのだ。モノとヒトとは違うと言われればそれまでだが、いずれにしても、ジリ貧に甘んじていれば、ますます追い込まれていく可能性が高い。

(2017年12月11日)

 
 
 学生のインターンシップ意識 Column No.124

 現代では、学生が就職活動の際、インターンシップに参加するのは当たり前のこととなっている。それだけに、どのような意識で参加しているのか、また、参加してどのような感想を持ったのか関心が高い人も多いだろう。これについて、11月に公表された「2017年度マイナビ大学生インターンシップ調査」で確認してみたい。

 まずは、インターンシップ参加の有無である。

 参加したことがある 72.2%
 参加したことが無い 27.8%

 男子と女子とを比べると女子の方が若干高い。学生に限らず、セミナーなどへの参加率は一般に女性の方が高いものだが、インターンシップにおいてもそのような結果となっている。

 次にインターンシップに参加する目的(複数回答)で、上位3つ(以下同じ)を示すと次の通りである。

① 特定の企業のことをよく知るため 62.1% 
② 自分が何をやりたいのかを見つけるため 53.8% 
③ 志望企業や志望業界で働くことを経験するため 50.4%

 「仕事を知るため」という本来の目的に即して純粋な気持ちで臨んでいる学生が多いようだ。ちなみに、「就職活動に有利だと考えたため」は35.8%で5番目である。もっとも、2016年調査では20.3%だったので、この1年でそういった認識が広まっている可能性はある。

 インターンシップへの応募・申込みにあたって重視することは、
  
① 業種 67.8% 
② 日程・時期 65.0% 
③ プログラム内容(グループワーク・現場体験・魅力的な課題等) 60.4%

  となった。中身よりも日程が重要というのは、就活生の多忙さを表わしている。

 続いて、インターンシップで話を聞きたい社会人の社会人歴というちょっと面白い質問だ。

① 入社1~2年目 53.0%
 入社3~5年目 48.9%
③ 入社6~10年目 17.9%

  これは圧倒的に若手社員に回答が集まった。仕事をよく知っているかどうかよりも、話しやすいことが重視されているようだ。ただ、この機会にオジサン・オバサンと話をしておくのも、よいトレーニングになると思うのだが。

 インターンシップに参加したことがない学生に、どんな条件なら参加したいと思うかを尋ねると、

① 参加できる日程が多い(希望の日程で参加できる)  54.3%
② 本選考(採用)につながる 52.9%
③ 短期間で終わる 50.9%

 となった。日程や期間の問題が挙げられており、ここにも多忙な学生の姿が垣間見える。採用への連動にも高いニーズがあり、効率よく就活を進めたい学生の思惑がうかがえる。

  (最も印象に残った企業について)参加した内容は、 

① グループワーク(企画立案、課題解決、プレゼンなど) 56.6%
② 人事や社員の講義・レクチャー 37.2%
③ 若手社員との交流会 30.2%

 である。グループワークはともかく、講義や交流会で職場体験が積めるとも思えず、”名ばかりインターンシップ”となっている気がしないでもない。本来の内容といえる「実際の現場での仕事体験」は28.0%で、2016年に比べて5.7ポイント減少している。企業側の負担も大きいため、敬遠されているのかもしれない。

 とはいえ、(最も印象に残ったインターンシップに参加して)企業の事業や仕事内容の理解は深められたかという質問には、

 とても理解できた 31.8%
 概ね理解できた 59.6%
 
 と、9割以上がポジティブな回答をしており、総じてインターンシップはそれなりに機能しているようである。担当者としてはほっと一息というところだろうか。

(2017年12月18日)

 
 
 転職の賃金相場 Column No.125

 転職すればどれくらいの収入になるのか? 
 実際に転職するかどうかはともかく、気になるビジネスパーソンは多いと思う。雑誌で「あの会社の給料」などと銘打って、よく特集が組まれるのも会社員の関心が高いからだろう。

 今般、民間人材サービスの業界団体からなる人材サービス産業協議会から、主要職種の年収相場をとりまとめた『転職賃金相場2017』が公表された。求職者に提示された年収が適正かどうかを判断するために利用してもらうのが目的で、人材サービス業界初の取り組みになるという。

 協議会のHPから閲覧できるので、興味のある方はご覧いただくとよいと思うが、簡単に概要を説明すると、

・2017年4~9月に
・首都圏、東海、近畿エリアの職種ごとの
・募集時最低年収の中央値と募集時最高年収の上位15%位を
・求人メディアや人材紹介会社各社から集約し
・その最低値~最高値までの範囲を棒グラフで示したものである。

 さらに、一定の年収帯ごとの採用決定者の特徴を定性情報として記載しているのも興味深い。

 対象職種は、経理財務、人事、IT関係、法人営業、販売・飲食系店長など、全部で18職種に限られているので、誰にでも有効というわけではないが、一定の相場観はつかめるのではないかと思う。

 特に、一定の年収帯ごとの定性情報は、①転職先での役職・職務内容、②採用決定者のスキルや経験、③その他の特徴の3つが示されることから、自分がどのレベルにあるかの参考になるだろう。

 ちなみに、「人事」の最高年収である「1000万円~」は、

①外資系の課長以上・日系企業の人事責任者・部長。規模問わず海外採用担当などグローバル人事案件が多い ②人事部門のマネジメント経験。中~上級レベルの英語力
③40代~50代、転職経験は2回以上が多い

 となっており、当然ながら人事の経験が豊富というだけでは、その年収確保は困難のようだ。他の職種を見ても、高収入ゾーンは英語力が求められるものが多く、グローバル対応の可否が大きなカギとなっている。
 
 なお、首都圏で年収の最高値が最も高いのは、法人営業(IT)の2020万円である(最も低いのは販売・飲食系店長の740万円)。その仕事に就いている方は、年収大幅アップが狙えるかもしれない。一度、チャレンジしてみてはいかが?

(2017年12月25日)

 
 
 企業が中途採用をする理由 Column No.126

 30年以上も前、筆者が入社した会社では、庶務などの一部の職種を除いて中途採用者は皆無だった。ほとんどすべての社員が〇期新卒入社でくくられた。少なくとも一定規模の企業であれば、それが当たり前だったと思う。
 
 今では、どの企業もHPに中途採用者募集欄を設けており、筆者のいた会社も含め、中途採用者がいる企業が普通となっている。「わが社は新卒プロパーにこだわり、中途採用は行わない」というような企業は、もはや絶滅危惧種と思える。

 ところで企業はなぜ中途採用を実施するのか? パッと浮かぶのは、「専門性の高い人材が必要だから」「退職者の補充をするから」などだが、実際のところはどうなのか? これについて、独立行政法人労働政策研究・研修機構が昨年末に公表した「企業の多様な採用に関する調査」を見てみよう。なお、調査対象は30人以上の民間企業4,366社である。

 まずは、正社員の中途採用を実施する主な理由で、ベスト4は以下のとおりだ。

① 「専門分野の高度な知識やスキルを持つ人が欲しいから」 (約53.9%)
② 「新卒採用だけでは補充できないから」 (約35.3%)
③ 「高度とか専門とかでなくてよいので仕事経験が豊富な人が欲しいから」 (約33.1%)
④ 「高度なマネジメント能力、豊富なマネジメントの経験がある人が欲しいから」 (約19.2%)
 
 こうしてみると、やはり、専門人材の確保と人数の確保が大きな理由となっているといえる。ただ、企業規模によって多少の濃淡はあり、規模の大きな企業ほど、「専門分野の高度な知識やスキルを持つ人が欲しいから」や「高度なマネジメント能力、豊富なマネジメントの経験がある人が欲しいから」という理由の割合が高い。逆に、規模の小さな企業ほど、「高度とか専門とかでなくてよいので仕事経験が豊富な人が欲しいから」という理由の割合が高くなっている。大企業の方が、より高い専門性を必要とし、また、それに応える待遇を保障できるということだろう。

 業種別にも特性が現われている。

 「専門分野の高度な知識やスキルを持つ人が欲しいから」と回答する割合が高いのは、「情報通信業」(約82.7%)、「学術研究、専門・技術サービス業」(約76.4%)、「教育、学習支援業」(約68.4%)である。いずれも専門能力が企業の核となる業種である。

  「高度とか専門とかではなくてよいので仕事経験が豊富な人が欲しいから」の割合が高いのは、「生活関連サービス業、娯楽業」(約48.2%)、「不動産業、物品賃貸業」(約39.5%)、「運輸業、郵便業」(約39.0%)である。専門性よりも経験、ノウハウを重視する業種といえる。

 「新卒採用だけでは補充できない」の割合が高いのは、「宿泊業、飲食サービス業」(約47.9%)と「医療、福祉」(約42.1%)で、これらの業種が人材確保難にあることを如実に示している。

 今後の方向性について、中途採用を実施している企業に「正社員採用に占める中途採用の割合を今後どの程度にしたいか」を尋ねたところ、今後「80%以上」にしたい企業が約20.5%ある一方で、「0%」は約2.9%となった。冒頭部分で指摘した絶滅危惧種は言い過ぎにしても、中途採用を考えない企業はごく少数であることがわかる。

 これらの企業の中には、中途採用者が必要ないというより、中途採用者をうまく処遇できなかったために、今後の実施を見送ると判断した企業もかなり含まれるに違いない。
 理由として上位に挙がった「専門人材の確保」も「人員の確保」も企業の存続に不可欠である。これに加えて、変化に対応するための多様性も求められるだろう。そう考えると、中途採用の重要性はこれからますます高くなるといえる。

(2018年1月8日)

 
 
 AIに人事制度構築ができるか Column No.127

 最近、人事関係の専門誌でHRテクノロジー(Human Resource Technology)に関する特集をよく目にするようになった。ITを活用してヒトの管理を効率化・最適化しようということだ。
 中でも注目したいのはAI(人工知能)の活用で、日本の企業でも採用管理や異動管理、社員の健康管理などに活用され始めているという。

 今回、考えてみたいのは、AIで人事制度構築ができるかということだ。人事制度構築とは総合的な人事制度設計を意味し、自社に最適の等級、評価、報酬制度等をAIに作成してもらうというイメージである。現状、社内の担当者や外部のコンサルが自分の経験や知識、他社の事例などを調べて、頭の中で思考し、アウトプットしていたことをAIにやってもらうということだ。もちろん、何十年も先であれば実現可能だろうから、ここでは近い将来という前提で話を進める。

 さて、いきなり結論だが、「日本では近い将来は無理」というのが筆者の考えである。以下、その理由を示したい。

1.ベースとなるデータが不足している
 どんなに頭のよいAIも無からは何も生み出せない。まずは、企業の人事制度に関する大量の情報が必要となる。ただ、人事制度情報というのは基本的に社外秘である。大手コンサル会社でも、せいぜい千社分くらいのデータしかないのではないだろうか。これがたとえば社員情報であれば、数万単位で集められ、それなりのデータベースになるだろうが、制度はそうはいかないのだ。データが不足していれば、そこから導き出される結論も妥当性に欠けるものになるはずである。

2.決め手となるファクターが複雑
 最適の人事制度を導くための要素には、企業規模、業種、経営者の考え方、社風、職場風土、今後の戦略、求める人材像、組合の動向、これまでの制度の変遷、現制度の問題点、等々多様なものがある。これらを整理するだけでも大変だが、どの要素が重要かは企業により異なるため、企業ごとに重要度のランク化も必要となろう。そのうえで、どう制度設計に反映させるかAIに学習させなければならない。もちろん、人手と時間をかければ可能なのだろうが、試行には膨大な手間暇が予想される。

3.日本の人事制度の特殊性
 このような取り組みは世界のどこかですでに始まっているはずだ。欧米のシステムであれば、ある程度、グローバルに活用できるため、先に挙げた「データ不足」も克服でき、いち早く完成する可能性もある。一方、年功序列や属人性を特徴とする日本の”ガラパゴス人事制度”では、そのシステムを使いたくても、そのままの利用は困難となる。結果、日本でのAI化はかなり遅れをとることになる。
 
 以上から、近い将来できたとしても、たとえば同業種であれば、どの会社も同じような制度を提案されるなど、結局はヒトの手で加工しなければ使い物にならないシステムとなるのではないだろうか。

 ・・・ということで、今後しばらくの間は、筆者のようなアナログな制度設計屋も何とか仕事にありつけるのではないかとの希望的観測を持っている。AIについて何も知らない人間が抱く勝手な妄想と言われれば、それまでだが。

(2018年1月15日)

 
 
 社員のエンゲージメントを高めるには Column No.128

 近年、人事の世界で社員のエンゲージメント(engagement)が重視されるようになってきた。エンゲージメントという言葉は元々、「婚約」「約束」といった意味だが、人事用語に置き換えれば、「社員が自社に愛着をもっているか」ということである。

 愛着があれば成果も期待できるだろうから、企業にとっては当然、エンゲージメントの高い社員が多い方が望ましい。社員が活き活きと働いている姿が想像でき、定着率もよくなるに違いない。

 それでは、エンゲージメントの高い社員というのはどれくらいの割合いるのだろうか?

 人材サービスのアデコ社が実施した「従業員エンゲージメント」に関するアンケート調査によると、「あなたは、会社や仕事に誇りや愛着をもっていますか(単一選択)」という質問に対して次の結果が出ている。

●「会社」に誇りや愛着がある
 「非常にそう思う」 8.1%
 「そう思う」 39.4%
 「どちらともいえない」 31.3%
 「あまり思わない」 12.7%
 「まったく思わない」 6.7%
●「仕事」に誇りや愛着がある
 「非常にそう思う」 8.7%
 「そう思う」 42.0%
 「どちらともいえない」 29.0%
 「あまり思わない」 9.8%
 「まったく思わない」 5.9%

 「非常にそう思う」と「そう思う」を「愛着がある」と解すれば、回答は両者ともに約5割となった。社員の半分程度は愛着を感じているということだ。
 当然、企業により差があるはずで、「愛着がある」が3分の2を占めるような企業だと、エンゲージメント優良企業といえそうである。

 では、どのような条件が整えば、社員は会社や仕事に誇りをもつのだろうか? 同調査の「勤務先に誇りや愛着をもっている理由は(複数選択)」という質問に対する上位3つ、下位3つの結果を見てみよう(下位は「その他」を除く)。

●上位3つ
 「仕事に社会的な意義を感じている」 47.4%
 「雇用が安定している」 29.1%
 「ワークライフのバランスと柔軟性がある」 26.1%
●下位3つ
 「適切な地位に就かせてくれる」 10.4%
 「直属の上司が適切に評価・指導してくれる」 10.1%
 「経営層に優れたリーダーシップがある」 8.4%

 「仕事の社会的意義」が大差をつけてのトップとなり、仕事そのものが大きな要因となることが明らかとなった。「雇用が安定している」が上位に入る一方で、「直属の上司が適切に評価・指導してくれる」が下位なのも意外である。経営層のリーダーシップは項目中の最下位で、社員のエンゲージメントにあまり影響を与えていないのも興味深い。

 逆に、エンゲージメントを弱めるケースとはどのような状況だろうか? 同調査の「自社へ貢献したいという意欲や、職場への誇りが失われるのは、どんなときだと思いますか(複数選択)」という質問の上位・下位3つを確認してみよう(下位は「その他」「特にない/わからない」を除く)。

●上位3つ
 「給与やポジションがあがらない」 41.7%
 「上司が適切に評価してくれない」 35.8%
 「経営層に期待ができない」 35.3%
●下位3つ
 「職場のチームワークに課題がある」 23.9%
 「仕事に社会的意義を感じない」 19.9%
 「今後のキャリア形成がイメージできない」 19.1%

 非常に面白い結果が表われた。「地位」「上司の評価」「経営層」など、先の「勤務先に誇りや愛着をもっている理由は」で下位となった事項が、この質問に対しては上位となったのだ。これらは、エンゲージメントを向上させる要因にはならないが、喪失させる要因になるということだ。エンゲージメントを高める取り組みと、エンゲージメントを下げないための取り組みは別と考えたほうがよさそうである。

 恒常的な人材不足が見込まれるなか、エンゲージメントの向上は人事の重要課題になることが予想される。アデコ社の調査結果は示唆に富んでおり、企業の取り組みに大いに役立つと思う。

(2018年1月23日)

 
 
 役職定年制の是非 Column No.129

 「課長は50歳まで」「部長は55歳まで」など、一定年齢で役職を降りてもらう役職定年制は、大企業を中心に取り入れているところが多い。少し古いが人事院の「平成22年度民間企業の勤務条件制度等調査」によると、役職定年制がある企業は20.5%で、500人以上規模だと35.4%である。

 元々は、定年を延長する際、人件費抑制や組織活性化などを狙いに、旧定年年齢をもって役職を外す仕組みであったという。その後、低成長下で組織の拡大が見込めなくなる中、ポスト不足に対応するための機能も持つようになった。

 本来、役職者の任免をきちんと行えば、このような仕組みは不要なのだが、評価があいまいで社員の和を重要視する日本企業では、シビアな任免は回避されることから、導入が進んだといえる。

 役職定年制の主なメリットは以下のものである。

・組織の新陳代謝を促すことができる
・若手や中堅社員の昇進モチベーションを向上できる
・報酬とパフォーマンスの乖離の縮小ができる

 一方、デメリットとしては次のものがある。

・役職定年者のモチベーションが低下する
・役職者として有能であっても変えざるを得なくなる
・定年年齢が昇進年齢となるケースが出てくる(たとえば、51歳で無理に部長職にしてしまう)

 こういった問題を抱えながらもそれなりに機能してきた制度であるが、現在はメリットよりもデメリットが大きくなりつつある。その背景として以下の5つを指摘できる。
 
① 65歳までの雇用義務化により、役職定年後の期間が延び、処遇が以前より困難となっていること 
② かつての50代と現在の50代では、体力・能力・意識が異なること
③ 誰でも役職者になれる時代ではなくなり、それなりの能力を有した者が役職者となっていること
④ バブル崩壊以後のスリム化の影響で、ミドル層が薄く、管理職適性のある者が少ないこと
⑤ 個性が重視されるなか、年齢による一律的な仕組みは社員の反発を受けやすいこと

 これらから、役職定年制は時代にそぐわないものになってきている。
 ただ、現実に役職者が過多であり、制度のメリットを捨てきれない企業も多いだろう。そのような企業の対応としては、「役職任期制」の方が適切ではないかと思う。

 役職任期制では、管理職として有能と判断されれば定年までは務めることができる。もちろん、適正な審査が前提となるが、先のメリットを活かしつつ、デメリットを抑制するにはこちらの方が妥当と考えられる。なお、役職任期制については『役職任期制のメリットとデメリット』(コラム№86)も参照されたい。
 

(2018年2月6日)

 
 
 プラスだけの人事評価 Column No.130

 人事評価を実施するうえで重要な原則の1つに加点主義がある。短所ばかりでなく長所を積極的にとらえ、評価していきましょうというものだ。
 ただ、業務を適正にマネジメントしようとすると、部下の悪い点ばかりが目に付き、注意や指導が多くなるのも事実だ。評価の際には、部下のミスや失敗が次々と思い浮かび、どうしても減点主義に陥りがちである。

 評価だけならよいが、今度はそれを部下にフィードバックしなければならない。良い評価はともかく、悪い評価は伝えづらい。上司は、どのように伝えればよいかと面談前から憂鬱になる。
 一方、部下の方もあれこれ指摘されて気分がよいはずがない。「まあ来期は頑張ってくれ」と言われても、少しもモチベーションは高まらない。
 互いに貴重な時間を割いてやっているのに、どうして上司も部下もイヤな思いをしなければならないのか‥‥。

 ということで、提案したいのは“プラスだけ”の人事評価である。ルール・仕組みは次の通り。

・S~Dの5段階評価だとすると、SとAだけを評価する。
・B~Dは同じ扱い。つまり、普通レベルよりも優れた項目をだけを評価する。
・フィードバックにおいてもSとAだけを伝える。
・評価シートで示せば、たとえば「コミュニケーション力」という項目に対して、特に優れていればS、優れていればA、それ以外は「-」を記す。

 “プラスだけ”人事評価のメリットは次のとおりだ。

① 上司にとって、評価・フィードバックが非常にラクになる。
② プラスに目が行くので、社員のモチベーションや職場のムードの向上が期待できる。

 一方、デメリットと考えられるのは以下の2点。

① 普通以下の社員を全員同レベルと判断することになるため、報酬等への反映の仕方が難しい。
② 「できていないこと」が不明確となり、改善や向上が期待できなくなる可能性がある。

 制度のスタンスとしては、これらのデメリットにはある程度目をつむり、それを上回るメリットを期待しようということだ。なお、デメリット②に関して付け加えると、部下のミス等は評価対象とはしないが、日常的に見過ごすということでは決してない。普段の業務の中で、必要な注意・指導をしていくのは当然である。また、職場規律違反や業務命令違反などがあればもちろん懲戒対象となる。

 現段階では正直、思い付きにすぎないが、こうしてあらためて整理してみると案外有効な仕組みではないだろうか。一般の評価制度に比べて、確かに穴は多いかもしれないが、それを補う以上の効果がありそうである。ユニークな人事制度を考えている企業があれば、一緒に検討させていただくので、ぜひご連絡を!

(2018年2月13日)