労務管理ミニコラム5のカテゴリー別分類

 労働時間
 時間外労働の上限規制を建議
 経団連調査による長時間労働の原因
 36協定の認知度
 休日・休暇
  労働基準法(労働時間、休日・休暇以外)
 「昭和の就業規則」を使っていないか
 育児介護休業法、パート労働法、労働者派遣法
 労働関連法規
 働き方改革に社員が望むもの
 働き方改革推進法案の答申
 安全衛生
 ストレスチェックの実施状況
 平成29年版過労死白書を読む~その1
 平成29年版過労死白書を読む~その2
 社会保険
 社員の処遇
 女性の管理職登用はどうなっているか
 官製ブラック企業リスト
 介護と仕事の両立の難しさ
 春闘で何を交渉しているのか
 
時間外労働の上限規制を建議 Column No.201

 今月5日、労働政策審議会が時間外労働の上限規制導入などの法整備について、厚生労働大臣に建議を行った。

 建議は「働き方改革実現会議」が3月に決定した実行計画に基づき、労働条件分科会にて議論されたもので、主な内容は以下の3つである。

1.時間外労働の上限規制
2.勤務間インターバル
3.長時間労働に対する健康確保措置

 中身は実行計画とほぼ同内容で、中にはコピペではないかと思われる部分もある。それはともかく、あらためて内容を確認しておこう。

1.時間外労働の上限規制
(1)上限規制の基本的枠組み
・現行の時間外限度基準を法律に格上げするとともに、臨時的な特別な事情がある場合として労使合意した場合でも上回ることができない上限を設定する。
・上限は原則月45時間、年360時間(1年単位の変形労働時間制では月42時間、年320時間)とし、上限違反には罰則を適用する。 
・上記規制の特例として、臨時的な特別な事情がある場合として労使協定を結んでも上回ることができない上限を年720時間とする。 
・年720時間以内で、一時的に事務量が増加する場合も最低限上回ることができない上限を次のとおりとする。 
 ①休日労働を含み、2カ月ないし6カ月平均で80時間以内
 ②休日労働を含み、単月で100時間未満
 ③原則である月45時間(1年単位変形制では42時間)を上回る回数は年6回まで
 なお、①②は特例のない月にも適用する。
・36協定で定める「1日を超える一定の期間」は、「1か月及び1年間」に限る。

(2)現行の適用除外業務等の取り扱い
①自動車の運転業務 適用除外とせず、改正法の施行日から5年後に、年960時間以内の規制を適用し、将来的には一般則の適用を目指す旨の規定を設ける。
②建設事業 適用除外とせず、改正法の施行日から5年後に、上記の一般則を適用する。ただし、復旧・復興の場合については、単月で100時間未満、2カ月ないし6カ月の平均で80時間以内の条件は適用しないが、将来的には一般則の適用を目指す旨の規定を設ける。 
③新技術、新商品等の研究開発の業務 現行制度で対象となっている範囲を超えた職種に拡大することがないよう、対象を明確化した上で適用除外とする。
④厚生労働省労働基準局長が指定する業務 原則として一般則を適用するが、業務の特殊性から直ちに適用することが難しいものは、その猶予についてさらに検討する。

 以上の現行の適用除外4業務に加え、医師の業務についても言及している。

⑤医師 規制対象とするが、医師法第19 条第1項に基づく応召義務等の特殊性を踏まえた対応が必要。具体的には、改正法の施行期日の5年後を目途に規制を適用する。これにあたって、医療界の参加の下、2年後を目途に規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策等を検討し、結論を得る。

(3)労働基準法に基づく新たな指針
 可能な限り労働時間の延長を短くするため、新たに労基法に指針を定める規定を設け、周知徹底や助言・指導を行う。

2.勤務間インターバル
 労働時間等設定改善法2条を改正し、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定の休息の確保に努めなければならない旨の努力義務を事業主に課す。

3.長時間労働に対する健康確保措置
(1)医師による面接指導
 労働安全衛生法66条の8の面接指導の対象について、時間外労働が1カ月当たり100時間を超えた者から申し出があった場合に実施を義務づけている規定を改め「1カ月当たり80時間超」とする。

(2)労働時間の客観的な把握

 面接指導の適切な実施のために、管理監督者を含む、すべての労働者を対象として、労働時間の把握について、客観的な方法その他適切な方法によらなければならない旨を省令に規定する。

 
今後は、この建議に基づいて法改正の手続きに入る。ホワイトカラー・エグゼンプションなどと異なり、基本的に労働者保護に資する内容のため、法案が提出されても政争の具にはならないだろう。今年度中にも法案は成立すると思われる。
 

(2017年6月19日)

 
 
働き方改革に社員が望むもの Column No.202

 政府が推し進める働き方改革といえば、同一労働同一賃金、時間外労働上限規制、年次有給休暇の義務化、労働時間適用除外制度などがテーマとなっているが、そもそも「普通の社員」は、どのようなものを望んでいるのだろうか?

 
先日、プレミアムフライデー推進協議会から 「プレミアムフライデー意識調査」の結果が公表され、その認知度や過ごし方などをまとたものが示された。正直、プレミアムフライデーについては過去のものになりつつあるが、それはともかく、調査の中に「働き方改革の取り組みとして導入されているもの」「導入して欲しいもの・続けてほしいもの」という設問があった。

 
調査は全国の20~50代の正規・非正規の勤労者に対して、インターネットアンケートにより行われたもの(有効回答数2,015人)で、回答者の企業規模や業種等は不明だが、その分、一般社員の率直な声を反映していると思われる。

 
結果を見てみると、「働き方改革の取り組みとして導入されているもの」は次のとおりである(複数回答)。

ノー残業デー
78.3%
フレックスタイム勤務制度
29.5%
プレミアムフライデー
21.2%
テレワーク
9.2%
1日6時間制
4.8%
サマータイム制度
3.5%
週休3日制
1.8%
その他
7.8%

 ノー残業デーが圧倒的な1位となった。フレックスタイム勤務制度、プレミアムフライデーと続くが、割合は大きく落としており、普及は限定的といえる。4位のテレワーク以下は、さらに1ケタのパーセンテージとなっていて、導入は少ないことがわかる。
 
 一方、「導入して欲しいもの・続けてほしいもの」は次のとおりである(複数回答)。

ノー残業デー
48.7%
週休3日制
36.6%
フレックスタイム勤務制度
30.6%
プレミアムフライデー
23.7%
1日6時間制
22.7%
サマータイム制度
11.6%
テレワーク
8.1%
キッズウィーク
6.1%
その他
6.4%

 こちらもノー残業デーが1位であるものの、パーセンテージは30ポイントほど落としており、実際の施策と社員の期待とに乖離が見られる。対照的なのは2位となった週休3日制で、35ポイントも伸ばしており、現在はほとんど未導入であるが、期待が大きいことが読み取れる。5位に入った1日6時間制も17ポイントほど増やしており、同様に現状に比べて期待度が大きいことがうかがえる。

 一方、テレワークへの期待は低い。家に帰ってまで仕事をしたくないということか。総務省が7月24日をテレワークの日と定めるなど、ワークライフバランスの方策として行政が推進しているものの、社員の視線は冷ややかといえる。

 
すでに一定の導入実績があるノー残業デーやフレックスタイム勤務制度、プレミアムフライデーに比べて、週休3日制や1日6時間制導入のハードルは現時点ではまだ高い。逆に言えば、他社が導入困難な今こそ実施のチャンスである。高報酬などによらずとも、優秀な人材確保のための有力なインセンティブになるかもしれない。意欲ある企業は、導入にチャレンジしてみてはいかがだろうか。
 

(2017年7月10日)

 
 
経団連調査による長時間労働の原因 Column No.203

 経団連が7月18日に発表した「2017年労働時間等実態調査」結果では、労働時間や休暇の取得状況とともに、長時間労働につながる商慣行・職場慣行とその対策についてまとめている。長時間労働の原因を、「商慣行」「職場慣行」の2つに分けているところが興味深い。

 
早速、結果を概観してみよう。なお、回答企業は1000人以上が63%、500人以上が74%と大企業中心のデータである。

1.商慣行
(1)長時間労働につながりやすい商慣行
 トップ5は以下のとおりである。

①客先からの短納期要求 32.9%
②顧客要望対応 15.7%
③海外顧客、拠点との時差による対応 9.2%
④トラブル対応 8.0%
⑤特定時期のオーダー集中 7.2%

 顧客からの要望によるものが多く、1位の「客先からの短納期要求」は、2位以下に大差をつけている。確かに、激しい競争の中、スピード対応は差別化の武器であり、無理をしてでも短納期に応えざるをえない。
 ただ、短納期要求が少なくなれば長時間労働が減少するかといえば正直怪しい。ヒトというのは、期限が迫らなければ動こうとしないからだ。業務量が同じであれば、納期を多少伸ばしても、単に取り掛かりが遅くなるだけで労働時間には変化がないことも予想される。

(2)長時間労働の改善策
 次に、上記の問題への対応策として挙げられた上位5つである。

①顧客・外部(役所)の理解 28.9%
②適正なスケジュール・納期 18.9%
③人員配置の見直し 13.3%
④フレックスタイム制、シフト勤務 8.0%
⑤関係先との情報共有 4.8%

 改善策の1位、2位、5位は、外部頼みとなった。自社での対応には限界があるということだろうが、それだけに実施は難しい。比較的強い立場にある大企業でさえこの状況なのだから、その下を支える中小企業ではもっと困難に違いない。

2.職場慣行
(1)長時間労働につながりやすい職場慣行
 続いて職場慣行である。長時間労働の原因となる職場慣行のトップ5は次のとおり。

①業務の属人化 27.3%
②時間管理意識の低さ 21.7%
③業務効率の悪さ 18.5%
④業務の標準化不足 13.7%
⑤残業が当たり前、美徳とする雰囲気 12.9%

 1位の業務の属人化とは、業務が担当者しかできないものになっているということだろう。勤勉な日本人労働者は、仕事を他人任せにせず、また、丁寧かつ工夫を凝らすために、その人にしかできない“技”になってしまう。そのため、手の空いた人が手伝おうにも手伝えない。4位の業務の標準化不足は、同じことを別の観点から見たものといえる。
 また、6位と7位は「過剰な品質追求」「資料作成」(ともに11.2%)となっている。これらも含め、根本的な原因は、時間の効率性よりもとにかく品質を第一とする姿勢にありそうだ。問題なのは、その品質が顧客の満足を通じた利益につながっているかである。

(2)職場慣行の改善策

①業務の効率化 28.5%
②定時退社日の設定 23.3%
③会議の効率化 13.7%
④ICTツール導入 11.6%
⑤業務の標準化 10.4%

 1位はやはり業務の効率化である。時短の王道ともいえる策だが、問題はその具体策で、これが難しい。人間は慣れたやり方はなかなか変えられないからだ。逆に「とにかく効率化しろ!」では、必要な業務まで省略化してしまい、真に求められる品質を劣化させかねない。
 
3.長時間労働の是正に向けた数値目標(KPI)の設定
 改善にあたっては目標を明確化することが大事である。時間外勤務の制限に関する数値目標(KPI)を設定している企業は32.5%にのぼるとのことだ。そのKPIを達成するための施策として挙げられた上位5つは次のものである。

①経営トップメッセージ発信 20%
②時間外勤務に上限値設定 19%
③残業状況の管理・共有・フォロー 15%
④残業の事前申請制 13%
⑤評価やインセンティブ 6%

 1位のメッセージ発信が挙げられているが、大切なのは、トップが本気になっているかどうかである。時短に成功している企業は、必ずといってよいくらいトップが主導しており、トップ主導は長時間労働削減のマスト事項といえる。
 もう1つ大切なのは腰を据えた取り組みである。始めてすぐに効果が表れるものではないと考えるべきだ。試行錯誤を重ねながら、目標に近づいていくことだ。それを継続させるためにも、トップの強い意志が不可欠である。
 
 さて、今回の調査から、長時間労働の削減には、取引先の理解と協力が重要となることがわかる。自社でコントロールできることではないので難しい面もあるが、希望もある。それは、世の中全体で長時間労働はダメとする機運が高まっていることである。
  まずは、経団連傘下にあるような大企業が、率先して取り組んでほしい。ただ、自社の時短のしわ寄せを協力企業に押し付けることがないよう、くれぐれも注意してほしいものだ。


(2017年7月24日)

 
 
ストレスチェックの実施状況 Column No.204

 先日、厚生労働省からストレスチェック制度の実施状況が公表された。ストレスチェックは一昨年の12月から始まったもので、今回の調査は第1回目となる。どのような状況となっているか、概要を確認してみたい。

 
まずは、ストレスチェック制度の実施状況である。
 平成29 年6月末現在で、ストレスチェック制度の実施が義務付けられた事業場のうち、労働基準監督署に実施報告書の提出があった事業場は82.9%となった(報告は義務とされている)。

 調査では、事業場規模ごと(50~99人、100~299人、300~999人、1,000人以上の4区分)の数値も示しているが、1,000人以上では99.5%に対し、50~99人は78.9%と規模間での格差が見られる。

 また、業種別も示しているが、これも差がある。金融・広告業(93.2%)、通信業(92.0%)などが高い一方、清掃・と畜(67.0%)や接客娯楽業(68.2%)などが低い。これは事業場規模の違いによるもののほか、業種によって社員のメンタルヘルスへの関心に温度差があるためかもしれない。

 
とはいえ、実施は法的な義務なのだから、数値は来年以降高まることが予想される。

 
次に、ストレスチェック制度の実施状況である。
 在籍労働者のうち、ストレスチェックを受けた労働者は78.0%となった。規模間で見ても、いずれも78%前後でほとんど差はない。健康診断と異なり受検は義務ではないので、約8割というのは、概ね妥当といえる数値ではないかと思う。

 労働者からすると、制度としてまだ浸透しておらず、よくわからないので受検しなかった人もいるだろう。一方で、第1回目ということで面白半分で試した人もいるだろう。受検者が来年以降増加するのか減少するのか、興味日深いところである。

 
さて、ストレスチェックの結果、高ストレス者と認められた労働者は、医師による面接指導を申し出ることができるが、その実施状況はどのようになっているだろうか。今回の調査で最大の関心事ではないかと思う。
 
 結果は、ストレスチェックを受けた労働者のうち、医師による面接指導を受けた労働者は0.6%である。規模で見ても大差はなく、0.8~0.5%の中に収まる。

 ”高ストレス者”がどれくらいの割合か定かではないが、施行前の予測では、1割くらい出現するのではと予想されていた。 それくらいだとすると、高ストレス者の1割未満しか面接指導を受けていないことになる。厚労省としても、予想外に低い結果となったのではないだろうか。

 労働者としては、面談に基づいて、会社に何らかのストレス軽減措置をとってもらうメリットよりも、高ストレスであることを会社に知られるデメリットの方が大きいということだろう。企業は、医師との面談を申し出た労働者に対して、不利益な取扱いをしてはならないことになっているが、あまり信用されていないことがうかがえる。

 
最後に、集団分析の実施状況である。集団分析とは、ストレスチェックの結果を職場や部署単位で集計・分析し、職場ごとのストレスの状況を把握するもので、実施は努力義務となっている。

 ストレスチェックを実施した事業場のうち、集団分析を実施した事業場は約8割(78.3%)となった。努力義務にもかかわらず、小規模事業場であっても比較的実施度は高い(50~99人で76.2%)。小規模事業場では、実施を外部業者に委託しているケースが多いと思うが、その際、集団分析もセットになっているためと思われる。

 
調査結果を見るかぎり、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止するという制度目的の達成には、まだまだという状況のようだ。ただ、制度は始まったばかりである。調査は来年以降も実施されると思うので、数値が望ましい方向へ向かうことを期待する。

(2017年7月31日)

 
 
36協定の認知度 Column No.205

 人事担当者であれば、社員に残業をさせるときには36協定が必要となることは当然知っているが、一般の社員はどうだろうか?
 これについて、7月に連合から公表された「36協定に関する調査2017」で答えが示されていたので確認してみたい。なお、調査対象は、全国の20歳~65歳で働いている人(自営業・自由業、パート・アルバイト除く)1,000名である。

 
まずは、会社が残業を命じるには、労働者の過半数を組織する労働組合(ない場合は、過半数を代表する者)との間で労使協定(36協定)を結んでおく必要があることを知っているか、知らないかである。

「知っている」 56.5%
「知らない」 43.5%

 「知っている」が5割を超えた。これが多いと受け止めるか、少ないと受け止めるかだが、筆者は予想以上に多いと感じる。ちなみに、2014 年調査時は39.4%だったそうである。17ポイント以上も増えたのは、電通の過労自殺や働き方改革などをマスコミが大きく取り上げる中で、36協定に関する認知度が高まったからだろうか。

 
男女別では、「知っている」が男性62.8%、女性47.9%となった。 男性の方が高いのは、女性よりも残業を命じられる機会が多いため、関心が高いからかもしれない(別の調査項目で、「残業を命じられることがあるか」に対して、男性68.2%、女性54.7%だった)。

 
勤め先が36 協定を締結しているかについては、

「締結している」 45.2%
「締結していない」 17.2%
「締結しているかどうかわからない」 37.6%

 となった。「締結している」が5割を下回ったのも問題だが、「締結しているかどうかわからない」が4割近くとなったのも見過ごせない。労働者がいかに36 協定に無関心であるかがうかがえる。また、「締結していない」が17.2%もあるのも、かなり問題といえる。大企業や中堅企業ではほとんどないと思うが、零細企業では36 協定未締結の会社は結構ある。

 事業者との36協定の締結者は次の通りである。

「過半数で組織されている労働組合」 38.7%
「労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)」 29.0%
「わからない」 32.3%
 
 これも、「わからない」が3割以上となっており、労働者の関心の無さを反映している。

 
労働者側の協定締結当事者が“労働者の過半数を代表する者)”と回答した人に、過半数代表者の選出方法を聞いたところ、次のようになった。

「挙手または投票により選出している」 35.9%
「会社からの指名により選出している」 25.2%
「一定の役職者が自動的に就任している」 14.5%

 適切な選出方法となる「挙手または投票」による選出はわずか3 分の1 強にとどまった。不適切な方法で選出された過半数代表者と締結した36協定は法的に無効となるため、過半数代表者の選出方法を見直さなければならない職場が多いことになる。電通も過半数に達していない労働組合と協定を結んでいたことから、そもそも協定自体が無効であったという話である。労働者代表の選出方法は、労基署の調査が入った場合によくチェックされることであり、不適切な選出をしている企業は注意が必要である。

 
36協定を締結していると答えた人に、勤め先では36協定をどのような方法で周知を図っているかを聞くと、

「社内に掲示されている」 31.4%
「イントラネットで閲覧できるようになっている」 28.1%
「担当部署(総務課など)に行けば閲覧できる」 18.4%
「周知されていない」 14.4%
「わからない」 21.5%

 となった。就業規則の周知義務は比較的知られているが、36 協定などの労使協定も同様に周知義務がある(労基法第106条)。これについては、人事など担当部門にも責任があるケースが見られるので留意したい。

 
調査結果から、残業命令は当たり前のことであり、会社の権利であるかのように認識している労働者が多いことにあらためて気づく。企業としては、時間外労働は基本的に法律違反であり、36協定により初めて違反を免れることをもっと周知すべきである。本気で長時間労働の削減に取り組むのなら、そのような認識を社員に持ってもらうことも重要となるはずである。

(2017年8月14日)

 
 
女性の管理職登用はどうなっているか Column No.206


 3年ほど前、政府が主導した「女性が輝く社会」が注目を集めた。特に女性の管理職への登用は、女性活躍推進法の制定もあって、最も関心の高いテーマとなった。当時は、どの企業を訪れてもそれが話題となったものだが、最近はあまり耳にすることもなくなった。

 
単なるブームで終わったのか、それとも、取り組みは継続しているのか? これについて、先日、帝国データバンクから公表された「女性登用に対する企業の意識調査(2017 年)」の結果を概観してみよう。なお、調査対象は全国2 万3,767 社で、有効回答企業数は1 万93 社とのことだ。

・女性管理職(課長相当職以上)割合は6.9%で、2016 年より0.3 ポイント上昇した。
・女性管理職割合がゼロの企業は49.2%で、2016 年より0.8 ポイント減少した。

 少しずつではあるが、女性の管理職登用は進んでいることがわかる。ただし、数値そのものは低く、管理職に占める女性は14人に1人ということになる。また、約5割の企業は管理職全員が男性ということで、日本の現状はまだまだ後進国である。

・女性役員がいる企業は38.2%で、2016 年より0.9 ポイント上昇した。

 役員会といえば中高年の男性がずらりと並ぶ光景が思い浮かぶが、女性がいる企業が4割はあるとのこと。ただし、監査役であったり、非常勤の役員であったりするケースも多いと思う。中小企業では、社長の母親や奥さんが役員になっているケースが当たり前にある。

 
規模別では次のとおり、規模が小さいほど女性管理職の割合は高くなる。筆者の経験でも、女性の部長・課長に出会う機会は、中小企業の方が圧倒的に多い。

 
2017年
2016年
大企業
5.2%
4.8%
中小企業
7.4%
7.0%
小規模企業
9.9%
9.7%

 続いて業種別にみると、ベスト5は以下の通りである。上位の企業は、女性の割合が多いと思われる業種である。女性社員自体が増えることが、女性管理職の増加につながるといえる。

1
繊維・繊維製品・服飾品小売
34.0%
2
医薬品・日用雑貨品小売
30.7%
3
医療・福祉・保健衛生
22.6%
4
郵便、電気通信
20.2%
5
教育サービス
19.3%

 最後に、「女性が一層活躍していくために、社会全体としてどのような取り組みを進めていくことが重要と思うか」は以下のとおりとなった。

1
保育・幼児教育等の量的・質的向上
58.8%
2
待機児童の解消
51.7%
3
ひとり親家庭等への支援拡充
45.7%
4
待遇の改善(同一労働同一賃金など)
40.2%
5
長時間労働の是正
39.8%

 これらと同様に重要なのは、男性の意識・行動改革だと思うが、これについては残念ながら「11位 男性の家事・育児等への参画 20.3%」 と重要度は低かった。環境整備も大切だが、家事・育児は女性がするという役割認識を改めない限り、根本的な解決にはならないと思う。

 政府は2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%に引き上げる目標を掲げている。これは公務員等も含めた数字なので、今回の民間企業だけのデータとの比較は不正確だが道のりは険しい、というかほぼ絶望的な状況である。


(2017年8月28日)

 
 
働き方改革推進法案の答申 Column No.207

 9月15日、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」について、労働政策審議会から「おおむね妥当」との答申が行われた。

 法案はこれまでの建議をまとめたもので、ポイントは以下の通りである。

●長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等

(1) 労働時間に関する制度の見直し(労働基準法)
・時間外労働の上限規制
・月60時間超の時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置の廃止
・年次有給休暇の5日分の付与義務の創設
・フレックスタイム制の清算期間の上限の見直し(1ヶ月→3ヶ月)
・企画業務型裁量労働制の対象業務への「課題解決型の開発提案業務」と「裁量的にPDCAを回す業務」の追加 ・特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設

(2) 勤務間インターバル制度の普及促進等(労働時間等設定改善法)

(3) 産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法等)

●雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

(1) 不合理な待遇差を解消するための規定の整備(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)

(2) 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)

(3) 行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

 施行予定は2019年4月1日(中小企業への割増賃金率の猶予措置の廃止のみ2022年4月1日)となっており、成立から1年もの猶予期間を見込んでいることがわかる。それだけ、企業・労働者への影響が大きいということだろう。

 法案は次期国会に提出されることになるが、このまま成立するかは予断を許さない。1つは、野党の反対である。

 労基法の改正部分を審議した労働条件分科会の答申書には、労働者代表委員の「企画業務型裁量労働制の対象業務拡大および高度プロフェッショナル制度の創設については、労働者の健康確保の重要性に関する公労使三者の共通認識の下で修正がなされたが、長時間労働を助長する恐れがなお払拭されておらず実施すべきでないという考え方に変わりはない」との意見が付記されており、反対の姿勢を崩していない。
 組合側は当初、妥協の構えを示していたものの、野党の意向を受け、方向転換した経緯がある。野党としては、強硬な反対姿勢を示すだろう。

 もう1つは、実施が確定的となった衆院選の結果である。与党は現状より議席を減らすことが予想され、その分、野党の声は大きくなる。
 もっとも、与党が「働き方改革の実現」を主要政策として掲げることは間違いなく、過半数を維持できれば、それが支持されたとの解釈もあるだろう。そうすると、多少の無理はしても法案通過を押し通す可能性もある。ともかく、法案の行方に注目しておきたい。

(2017年9月25日)

 
 
ニッセイ労働時間短縮に関する調査 Column No.208

 シンクタンクのニッセイ基礎研究所から、2017年度「ニッセイ景況アンケート調査結果」が発表された。この中に労働時間短縮に関して、興味深い結果が示されていたので紹介したい。なお、調査対象は、全国3,208社で、規模別のおおまかな内訳は、大企業15%、中堅25%、中小60%である。

 まず、「労働時間短縮への取り組み状況」は以下の通り。

・取り組んでいる 63.8%
・取り組んでおらず、今後も取り組む予定はない 10.5%
・取り組んでいないが、今後取り組む予定である 18.2%

 最近の働き方改革ブームを受けてか、各企業が積極的に取り組んでいることがうかがえる。特に大企業では87.8%と高い数値を示した。

 どのようなことに取り組んでいるかといえば、「取り組んでいる」と回答した企業に尋ねた結果は次の通りである。

1.組織や個人の業務時間管理の徹底 60.8%
2.残業時間の規制 53.7%
3.長時間労働となっている組織や個人への個別指導 37.3%
4.年次有給休暇取得の促進 28.9%
5.従業員の増員による個人の業務負担の緩和 25.5%

 時短対策の定石といえるものが上位を占めている。

 一方、今後、優先的に取り組む予定である項目は次の通り。

1.IT環境の改善、機械化等による業務量の削減 24.9%
2.組織や個人の業務時間管理の徹底 24.5%
3.年次有給休暇取得の促進 22.4%
4.長時間労働となっている組織や個人への個別指導 21.6%
5.従業員の増員による個人の業務負担の緩和 14.8%

 1は、最近、関心を高めている手法である。先日の日経新聞にも、金融機関が定型業務を自動化するRPAと呼ばれるシステムの導入により、大幅な業務量の削減につなげているとの記事があった。
 ただし、こういった自動化にはそれなりの投資が必要なので、中小企業には簡単にいかない面もある。規模別にみて、大企業28.3%や中堅企業29.3%に比べて中小企業21.0%と差があるのはそうした事情だろう。

 何かに取り組むときには目標を定めるこのが通例だが、時短に関してはそうでもないようだ。 時短にあたっての具体的目標を尋ねたところ、「取り組んでいる企業」の39.8%が、「今後取り組む予定である企業」の67.1%が「特段目標は設定しない」とのことだった。

 面白いのは次の結果である。目標を設定している企業の「実際の効果」を見ると、

▲3%程度 30.5%
▲5%程度 23.5%
▲10%程度 13.2%
 
   という結果となった。一方、「今後取り組む予定である企業」の「期待する効果」を見ると、

▲10%程度 29.8%
▲5%程度 27.2%
▲3%程度 16.6%

 ということである。つまり、期待効果と実際の効果にギャップが見られ、目標通りにはいかないことがうかがえる。

 「労働時間短縮のために最も重要な項目」は次の通りとなった。

1.社員の意識改革 67.2%
2.管理職の意識改革 64.7%
3.経営者の意識改革 52.5%
4.労働基準法及び関連法の改正 9.7%
5.政府の政策設定及び支援体制 8.2%
 
 「意識改革」が圧倒的に重要であるとの認識だ。ただ、その中にも差が見られ、経営者の意識改革は最も低い。経営者がその気にならなければ時短は進まないと思うのだが。

 最後に、「労働時間短縮が業績に与える影響」である。

 
プラスの影響
特に変化はない
マイナスの影響
取り組んでいる企業
62.2%
27.6%
10.2%
今後取り組む予定である企業
57.0%
27.1%
15.9%
今後も取り組む予定はない企業
21.0%
55.5%
23.5%

 当然といえば当然だが、「取り組む予定はない企業」は、時短に対してネガティブな意識が強いことが顕著に表れている。
 「取り組んでいる企業」で「マイナスの影響」を回答した企業は、業種では運輸・倉庫、通信、建設・設備工事、飲食などが高かった。労働集約型の業種で、労働量の変化が業績に直結しやすいということだろう。いずれも人手不足が目立つ業種だが、時短が進まず、さらに人手が集まらないという悪循環に陥っている気がする。

(2017年10月2日)

 
 
平成29年版過労死白書を読む~その1 Column No.209

 注目を集めた電通の過労死自殺に関し、10月6日、東京簡裁は労基法違反により罰金50万円とする判決を下した。偶然とは思うが、同じ日に平成29年版過労死等防止対策白書が閣議決定され、その内容が公表された。

 国は将来的に過労死ゼロを目標としており、その一環として昨年から報告されているのが、過労死等防止対策白書である。
 第2回となった白書では、労働時間や過労死の現状を踏まえ、過労死の要因分析や対応策などを示しており、過労死に関する事項の大枠をつかむのに有益と考える。
 今回は、第1章の「労働時間やメンタルヘルス対策等の状況」の中から関心を惹いた箇所を整理してみたい。

1.労働時間の状況

 まずは、年間の労働時間である。
 日本の労働者1人当たりの年間総実労働時間は緩やかに減少している。これは、パートタイム労働者の割合の増加によるものと考えられ、パートタイム労働者を除く一般労働者の年間総実労働時間は2,000時間前後で高止まりしている。

 続いて、長時間労働者の割合である。
 「1週間の就業時間が60時間以上の雇用者の割合」は、平成15、16年をピークに緩やかに減少しており、平成28年は7.7%(対前年比▲0.5ポイント)となった 。ちなみに国は、平成32年までにこの数値を5%以下とすることを掲げているが、達成は微妙なところである。

 属性ごとに見ると、性別、年齢層別では、40歳代(15.2%)、30歳代(14.7%)、いわゆる働き盛りの男性の割合が高い。 規模別では、企業規模が小さくなるに従って、その割合が高くなっている。また、業種別では、①運輸業,郵便業(18.1%)、②教育,学習支援業(11.1%) 、③建設業(10.6%)の順となっている。

 年次有給休暇の状況をみると、年休取得率は平成12年以降5割を下回る水準で推移しており、平成27年は48.7%となった。ちなみに国は平成32年までに70%以上を目標としている。

2.メンタルヘルスの状況

 次に、職場におけるメンタルヘルスの状況である。
 メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所の割合は平成27年で59.7%で、規模が小さい事業所ほどその割合が低くなっている。国の目標は平成29年(本年!)までに80%以上である…。

 仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者の割合は55.7%となっている。その中身は、「仕事の質・量」が原因でストレスを感じる労働者が多く(57.5%)2位の対人関係(セクハラ・パワハラを含む)(36.4%)を大きく引き離している。

 民事上の個別労働紛争相談件数に占める「いじめ・嫌がらせ」に関する相談受付件数は、相談内容として最多の70,917件(22.8%)であり、件数も年々増加している。「パワハラ」という言葉が日常的に浸透し、経営者・社員の意識も高まっているはずなのに改善は見られず、問題の根深さがうかがえる。
 
 以上、労働時間の状況は、個別的に改善が見られる項目はあるものの、総じて悪化しているのが現状といえる。労働時間短縮やメンタルヘルスへの関心は高まっているものの、労働力のひっ迫がそれを上回っているのが現実ではないかと思う。当面、人手不足はさらに深刻化すると考えられ、文中に示した国の目標達成はかなり困難といわざるをえない。

(2017年10月9日)

 
 
平成29年版過労死白書を読む~その2 Column No.210

 平成29年版過労死等防止対策白書について、今回は第2章「過労死等の現状」と第3章「過労死等をめぐる調査・分析結果」の中から興味深い箇所を拾ってみたい。

1.過労死等の労災補償状況(第2章関係)

 まず、脳・心臓疾患の労災補償状況をみると、脳・心臓疾患に係る請求件数は、過去10年余りの間、700件台後半から900件台前半で推移している。一方で、労災認定を受けた件数は、平成14年度以降、200件台後半~300件台で推移しており、認定率は大体3割というところである。

 続いて、精神障害をみると、精神障害に係る請求件数は、平成12年度の212件から平成28年度の1,586件まで、ほぼ増加傾向にある。 認定件数も増勢にあり、平成24年度以降400件台で推移している。認定率は、脳・心臓疾患と同様3割といったところである。なお、平成28年度の認定件数498のうち、自殺(未遂含む)は84件となっている。

2.過労死等をめぐる調査・分析結果(第3章関係)

(1)「脳・心臓疾患」事案の分析結果
 それでは、「脳・心臓疾患」が多いのはどのような業種・年齢層だろうか。
 労災認定された業務上事案を雇用者100万人当たりでみると、業種別では、「漁業」が38.4件と最も多く、次いで「運輸業,郵便業」が28.3件となっている。3位は「建設業」の7.9件なので、この2つが突出して多いことがわかる。

 また、年齢階級別では、「脳疾患」、「心臓疾患」ともに50歳代、40歳代で多い。50歳代は29歳以下の10倍以上の数値となっており、加齢により身体が衰えているところに、業務責任の増大が加わってダメージを与えていることが想像できる。なお、29歳以下を除く全ての年齢階級で、「脳疾患」が「心臓疾患」よりも多い。

(2)「精神障害」事案の分析結果
  同様に「精神障害」事案を分析すると、「漁業」が16.4件と最も多く、次いで「情報通信業」の13.5件、「運輸業,郵便業」の13.0件の順となっっている。「脳・心臓疾患」に比べて、業種による差が少ないことがわかる。

 年齢階級別では、30歳代が最多で、29歳以下、40歳代の順となっている。いずれの年代でも男性が多いのが特徴的である。特に自殺事案については、女性に比べて男性が圧倒的に多い。年齢階級別では男性が40歳代が、女性では29歳以下が最も多い。

 労災認定された業務上事案を出来事別でみると、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」に該当した事案が最も多く、次いで、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が多い。ただし、これは男女で差異があり、女性で最も多いのは、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」である。
 自殺事案では、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」に該当した事案が最も多く、次いで、「極度の長時間労働」が多いが挙げられており、長時間労働の影響度の高さが示唆される。

(3)労務施策とメンタルヘルスの関連性分析
 今回の白書では、平成27年度に実施した労働者向けのアンケート調査から、企業の労務施策のメンタルヘルス等への影響を分析し、以下の結果を導き出している。
 
『労働時間を正確に把握すること』
『残業手当を全額支給すること』
『残業時間を0時間に近づけること』
『残業を行う場合に所属長が残業を承認すること』
『裁量をもって仕事を進められること』
『仕事に誇りややりがいを感じられること』
『仕事量が適当であること』
が、「メンタルヘルスの状態の良好化」や「残業時間の減少」に資する。

一方で、
『最長の週の残業時間が30時間以上であること』
『職場にハラスメントがあること』
は、「メンタルヘルスの状態」が悪くなる。
 
 いずれも経験的にうなずける内容だが、あらためて統計的に確かなことが提示されたのは意義深い。実際の労務管理や部下のマネジメントに活かしたい指摘である。

(2017年10月16日)

 
 
官製ブラック企業リスト Column No.211

 2017年5月から、厚生労働省と都道府県労働局のHPで、悪質な労働法違反企業の名前が公表されている。過労死等ゼロを目指す取り組みの強化の1つとして行われるようになったものだ。

 ここに掲載されたからといってブラック企業というわけではないが、違法行為を行ったのは事実であり、しかもほとんどが送検手続きを受けていることから、かなり性質の悪い違反をした企業であるのは間違いない。企業のことをよく知らない学生などから見れば、即ブラック認定をするかもしれない。

 掲載基準は、次の2つである。

① 労働基準関係法令違反の疑いで送検し、公表した事案
② 通達(「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」)に基づき、局長が企業の経営トップに対し指導し、その旨を公表した事案

 とはいうものの、今年の9月30日公表分を見ると、400社以上もの中で②は1件で、他はすべて①である。

 法令違反の内容としては、労働安全衛生法関係が多く、7割くらいを占めるのではないだろうか。残りの3割が労働基準法や最低賃金法違反で、“過労死等ゼロ”を目指す趣旨からは少し外れている気がしないでもない。

 名だたる大企業も散見され、愛知労働局には悪名をとどろかせた電通も掲載されている。

 なお、念のために指摘をすると、対象となるのは「労働基準関係法令」であり、管轄の違いから、労働者派遣法や職業安定法、雇用機会均等法などの違反について、ここで公表されることはない。

 掲載期間は概ね1年ということだが、

① 送検事案は、ホームページに掲載を続ける必要性がなくなったと認められる場合
② 局長指導事案は、是正及び改善が確認された場合

  については、速やかにホームページから削除するとのことで、さきほどの基準②の企業がほとんどないのは、掲載削除となるよう、早急に是正措置をとったからかもしれない。

 多くの就活学生にもこのリストは知られている。ネットの噂などと違って、いわば政府お墨付きのリストなので、学生の心証が相当に悪くなること否めない。特に、中小企業は甚大な影響があるだろう。

 企業としては、まずは是正勧告・指導を受けないよう労働基準関係の法令違反に注意するとともに、受けた際には、最大限真摯に対応して、送検に至らないようにすることが重要である。

(2017年11月13日)

 
 
介護と仕事の両立の難しさ Column No.212

 介護と仕事の両立の難しさ―人材サービスのアデコが親族の介護に携わった経験のある管理職を対象に実施したアンケート調査「介護と仕事の両立」で、そのことが改めて浮き彫りとなった。ポイントを確認してみたい。

 まず、介護を理由に退職を考えたことがある管理職は47.5%である。

 半数近くの管理職が退職を考えたことがあるという回答となった。退職を考えた理由として上位に挙げられたのは、
 
「体力・精神的な負担や不安」(20.7%) 
「介護状況の変化、介護を優先したい」(18.2%)
「仕事・職場への影響」(16.8%)

 などである。一方、退職を考えなかった理由は、

「収入面での不安」(26.0%) 
「家族のサポートがあった」(14.6%)
「職場の理解や支援・制度の充実」(10.2%)

 などだ。1位と2位以下に差があり、経済的な不安が大きいことがわかる。介護保険があるとはいえ、介護にはお金がかかるものだ。公益財団法人「生命保険文化センター」の平成27年度調査では、住居の改修など一時費用で平均80万円、月々の費用で平均7.9万円かかっている。

 介護と仕事の両立における不安の有無をたずねたところ、

「とても不安がある」(29.3%)
「どちらかといえば不安がある」(48.0%)

 と合わせて77.3%が介護しながら働くことに不安を覚えている。不安を感じる理由として、

「精神的な負担がある」(50.4%) 
「同僚・部下の仕事に影響が出る」(49.8%)
「労働時間が長く、介護に時間を割けない」(47.0%)
「体力的な負担がある」(42.5%)

 が上位に挙げられた。体力的な負担よりも精神的な負担が大きいのがやっかいである。体力は休めば回復できるが、精神はそうはいかないからだ。また、同僚・部下の仕事への影響が心配になるのは、協調を重視する日本人の特性といえるかもしれない。

 介護を理由に会社を休んだことがある管理職は、67.0%となった。このとき、どのような制度を利用したかといえは、

「有給休暇制度」(88.1%)
「介護休暇」(15.9%)
「介護休業制度」(2.7%)

 となった。「介護休暇」は一般に無給であること、「介護休業制度」は事前申請が必要で手続きが面倒であることなど、使い勝手の悪さが低利用の理由と考えられる。 2017年1月に改正育児・介護休業法が施行され、通算93日取得可能な介護休業の分割取得や、介護休暇の半日単位での取得が認められるようになったが、今のところ効果は限定的のようだ。

 介護に関連して利用できる制度が「利用しづらい」と回答した管理職は63.2%と3分の2近くを占め、その背景には、

「自身の業務に支障が出る」(73.1%)
「部下の業務に支障が出る」(54.1%)

 といった業務への影響が挙げられた。さらに、

「管理職で、介護を理由に休みを取る人がいない」(37.7%) 
「休みを取りにくい雰囲気がある」(32.7%)

 と、休みを取りにくい職場環境が制度利用を妨げていることもうかがえた。

 仕事と介護との両立には職場でのコミュニケーションが大切となるが、介護について打ち明けた相手は、

「職場の上司」(71.8%)
「職場の部下」(41.3%)

 となった。上司に伝えていない人が3割もおり、部下にいたっては6割にものぼる。先の職場環境の問題がここにも表れている。

 ところで、介護を担う部下を持つ管理職は47.3%で、そのうち91.9%が「介護に携わりながら働く部下を支援したい」との意識を持っているという。
 自分が行う介護について支援を受けるのは忍びないとしながら、部下が行う介護は支援するというのはいかにも日本人らしい。他者への気遣いもよいが、自分だけで負荷を背負おうとするのはかえって非効率とならないか。

 お互いさまなのだから、困難は一人で抱え込まずに協働して解決していくような文化を持つ職場がつくづく大切だと思う。

(2017年11月21日)

 
 
長時間労働削減と持ち帰り残業 Column No.213

 ある企業で20時以降の残業を禁止したところ、自宅や喫茶店、ファミレスなどで仕事をする社員が続出した。いわゆる持ち帰り残業である。

 社員の中には、これらの残業について、残業代を請求する者も出てきたそうだ。とりあえず人事としては、「今後検討するので、今は我慢してくれ」と何とか説得したとのことだが、社員の気持ちもわかるだけに複雑な思いだという。

 国を挙げての長時間労働削減の動きの中で、持ち帰り残業の問題がクローズアップされている。これに関し、連合総研が10月に公表した第34回「勤労者短観」で、持ち帰り残業など勤務時間外の業務の実態について報告している。以下、「持ち帰り残業」に絞って調査結果を概観してみよう。

 まずは「持ち帰り残業」の有無で、<ある>と回答した割合は30.9%だった。正社員に限れば、40.4%となる。これをどうとらえるかは、頻度にもよるだろう。たまに発生するのであれば仕方ないで済ませられるが、頻繁にあるのならば、どこかおかしいからだ。これに関しては、正社員のうち「常にある」と「よくある」を合わせると11.3%という数値であった。1割強は恒常的な持ち帰り残業を強いられているわけで、やはり「問題あり」と言わざるを得ない。

 次に、「持ち帰り残業」が労働時間にあたると思うかをたずねたところ、「あたると思う」が58.3%で6割弱に上った。ちなみに「あたらないと思う」は21.3%で、社員の実感としては労働時間になるとの考えが優勢である。

 「持ち帰り残業」を上司に伝えているかについては、「まったく伝えていない」が45.0%であった(何らか伝えているのが約50%)。上記のように、「労働時間にあたらないと思う」は2割だったので、かなりの社員が持ち帰り残業=サービス残業という認識を持っている可能性が高い。

 そのような状況では、ストレスも高まるはずだ。「持ち帰り残業」に負担・ストレスを感じる割合は65.9%となった。仕事から解放されるべき時間に仕事をするのだから、3分の2の人たちがストレスを感じるのは当然で、むしろ少ないとも思える。

 今日、多くの企業で長時間労働の削減が重要テーマとなっているが、単純に残業を禁止するといった機械的な措置は、持ち帰り残業等の新たな問題を引き起こす可能性が高い。社員のためを思った施策も、残業代が出なくなる分、かえって不満を高めるかもしれない。

 長時間労働の削減に取り組む際には、「持ち帰り残業」の問題にもセットで取り組む必要があるといえる。

(2017年12月5日)

 
 
裁量労働制の不正適用 Column No.214

 年末のあわただしい中、大手不動産会社が裁量労働制を社員に違法に適用したことで、労働基準監督署から是正勧告を受けたとの報道があった。

 公表を行った東京労働局によると、マンションの個人向け営業などに従事する社員に対し、本来は企画立案などの業務が対象の企画業務型裁量労働制を適用していたとのことである。2005年以降、課長代理級以上に昇進した社員を対象にしており、全社員約1,900人のうち約600人に適用していたという。東京労働局では、その大半が対象業務に該当しないと判断した。勧告・指導を受け、同社は裁量労働制を廃止することを明らかにしている。

 是正勧告を受けた企業が公表されるのはよくあるが、その多くは残業代未払いや36協定違反によるもので、今回のような裁量労働制に関しては非常に珍しい。不正の規模が大きかったことや、同様のことをしている他企業への警告も含めてのことと思う。

 それはともかく、少なくとも2005年以降、12年以上にわたって運用してきたようだが、よく発覚しなかったものである。その間、労基署の臨検などなかったのだろうか。どこかの営業所に入れば、指摘を受けたと思うのだが。それとも、検査があったにもかかわらず、労基署が見落としたり、スルーしたりしたのか。

 社員の方もこれまで疑問に思わなかったのだろうか。確かに裁量労働制の適用要件など、一般の社員には興味も知識もないかもしれないが、それでも大企業なのだから、おかしなことに気づく社員はいたと思うのだが。今回、労基署が入ったのは社員からの通報ということもありうる。

 そもそも疑問なのは、同社の人事部門がどのような判断に基づいて適用したかである。

 厚生労働省の通達で、企画業務型裁量労働制の適用対象となる事業場について、「本社・本店又は支社・支店等である事業場の具体的な指示を受けて、個別の営業活動のみを行っている事業場は、企画業務型裁量労働制を導入することはできない」ことや、対象業務は「企画、立案、調査及び分析の業務」であることを明示している。

 これを読めば、営業職全般に適用するのは明らかに無理がある。 当時は今ほど労務コンプライアンスにうるさくなかったので、安易に適用したということだろうか。せめて労基署に確認をとることはしなかったのだろうか。

 今回の件、同社の行ったことは完全にアウトなわけだが、実は、裁量労働制を営業にも使いたいという企業のニーズを示唆しているともいえる。折しも、企画業務型裁量労働制の対象業務に「課題解決型提案営業」を加える労基法改正法案が検討されている。これが成立しても、営業職すべてに適用されるわけではないが、少しでも適用できるようにしてほしいというのは少なからぬ企業の願いであることは間違いない。

(2018年1月1日)

 
 
春闘で何を交渉しているのか Column No.215

 春闘が始まった。今年は労働者側の4%の賃上げ要求に対し、使用者側は3%を見込んでいるとのことだ。どのような形で妥結するか注目しておきたい。

 ところで、春闘といえば、このように賃上げをめぐって労使が丁々発止のやり取りをする姿が思い浮かぶが、テーマは必ずしも賃上げだけではない。

 では、どのようなことを話し合っているのだろうか。
 経団連が1月16日に公表した「2017年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」によれば、協議内容は、月例賃金の賃上げ賞与・一時金の支給額賃金以外の事項の3つに大きく分けられる。以下、調査結果を踏まえながら、詳細を見ていこう。

1.月例賃金の賃上げ
 具体的な中身は次のとおりである(%は企業の割合)。

●月例賃金について、春季労使交渉・協議で要求された内容(複数回答)
 ・定期昇給の実施、賃金体系の維持 70.2%
 ・基本給のベースアップ 58.9%
 ・初任給の引上げ 16.2%
 ・諸手当の増額 13.7%
 ・有期契約社員・パートタイマー等の賃金の引上げ 13.4%
 ・定年後継続雇用労働者の賃金の引上げ 7.1%
 ・割増賃金率の引上げ 2.8%
 
 月例賃金について、組合からの要求事項は定昇とベアが主体となっており、他の項目の関心は高くないことがわかる。 このうち初任給の引上げは、「月例賃金について、労働組合等からの要求とは別に、会社の施策として決定した内容」で2番目に多い項目(42.9%)となっており、主に会社側からの提案により議題となっているケースが多いと見られる。
 
2.賞与・一時金の支給額
 賞与・一時金を労使交渉で決定しているのは75.7%と4社に3社となっている。残りの約25%は、業績連動方式など自動的に決める仕組みをもっているケースが多数を占めると思われる。

3.賃金以外の事項
●賃金以外について、議論した内容(複数回答)
  ・時間外労働の削減・抑制 64.5%
 ・年次有給休暇の取得促進 47.9%
 ・育児関連施策の導入 33.0%
 ・介護関連施策の導入 23.8%
 ・女性の活躍推進に向けた取組み 20.6%
 ・定年後継続雇用労働者の処遇改善 19.5%
 
 働き方改革やワークライフバランス関連が上位を占め、これらに対する労使の関心の高さがうかがえる。「その他」も29.8%あり、企業によって多様な項目が協議対象となっていることがわかる。

 このように春闘では、賃上げ以外にも多岐のテーマにわたって検討・交渉がなされている。
 2017年の労働組合の組織率は17.1%で、6年連続過去最低を更新しており、組合の存在感は薄れつつあるのも事実だが、健全な経営のために使用者に適切な緊張感を与える存在ともいえる。互いの立場を尊重しながら、企業と社員をよりよい方向へと導く場として、春闘を活用してほしいものである。 

(2018年1月29日)

 
 
「昭和の就業規則」を使っていないか Column No.216

 コンサルにあたって就業規則を確認することが多い。拝見しながらこういうのも何だが、就業規則を読めば、その会社の人事労務への関心の度合いがつかめる。

 直近の法改正はもちろん、個人情報保護や情報漏洩リスク、ハラスメント、メンタルヘルスなど、近年、課題となっている事柄にも対応していれば、人事労務管理体制がしっかりしており、社員管理が適切に行われている―少なくとも行おうとしている―との推測が成り立つ。

 一方で、「これはどうなの?」という規則を目にすることもある。制定以来、ほとんど改定していないのは論外として、「最低限の法改正だけは反映しました」という、おざなり型の規則である。基本は作成時のままなので、記述内容が現在の時代環境とは明らかにずれている。いわば今に残る“昭和の就業規則”である。小規模企業ならまだしも、結構な規模の企業でもたまに見かける。
 だからといって直ちにブラック企業認定をするわけではないが、一事が万事で、その要素があるのではと疑念をもってしまう。

 “昭和の就業規則”の特徴は、家族主義的なこととリスクに鈍感なことだ。具体的には次の通りである。

●男子/女子という言葉を使っている。
●入社時に戸籍謄本・抄本の提出を求める。
●服務規律や懲戒の項にパワハラやセクハラがない。
●休職に関する規定が大ざっぱである。
●休暇制度の中に裁判員休暇がない。

 また、内容は古くなくても、誤字や変換ミスがあるのも印象を悪くする。特に、古くからある規定にもかかわらず誤字が残っていたりすると、まともにチェックやメンテナンスをしているとは思えず、労務管理に対する姿勢を疑わざるを得なくなる。

 もちろん、そのような規則であっても、社員を大切にしている会社もある。そもそも、筆者の印象などどうでもよいことである。ただ、時代遅れの“昭和の就業規則”は企業にとって危険だ。

 就業規則というのは会社における法律である。「就業規則に書いてある(あるいは書いてない)」からと社員から主張され、会社が思わぬ不利益を被ることは十分にありうるし、現に起きている。

 上記の指摘が該当する就業規則を持つ企業は、そのリスクが高い。痛い目に合わないうちに、早急に確認し変更することが望まれる。就業規則が飾りもので済んだ古きよき時代はとうに終わっているのである。

(2018年2月20日)