労務管理ミニコラム3のカテゴリー別分類
 
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 休日・休暇
 年次有給休暇の取り方と会社側の対応
 パートへの年次有給休暇の計画的付与
 時間単位年次有給休暇のポイント
  労働基準法(労働時間、休日・休暇以外)
  試用期間の延長について
  就業規則に関する調査
 育児介護休業法、パート労働法、労働者派遣法
 労働者派遣制度の見直し案(2013年12月)
 労働関連法規
  産業競争力会議の労働時間見直し案
  均等法施行規則の改正(2014年7月施行)
  戦略特区の雇用指針について~その1
  戦略特区の雇用指針について~その2
  戦略特区の雇用指針について~その3
  労働安全衛生法改正(2014年)
  過労死防止法が成立
 女性活躍推進法案で大切なこと
 マタハラ裁判と通達の改正
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 有期雇用特別措置法の概要
 有期雇用特別措置法の手続きと留意事項
 改正障害者雇用促進法の2つの指針~その1
 改正障害者雇用促進法の2つの指針~その2
 コンビニ店長は労働者か
 安全衛生
 第三者行為災害による労災~その1 
 第三者行為災害による労災~その2
 ストレスチェックに関するQ&A
 ストレスチェックの指針~その1
 ストレスチェックの指針~その2
 ストレスチェック実施マニュアル
 精神障害による労災
 社会保険
 再離職後の雇用保険の基本手当
 社員の処遇
  つわり休業は私傷病欠勤か
  人員削減にあたっての留意点~その1
  人員削減にあたっての留意点~その2
  事業所閉鎖時の社員の雇用~その1
  事業所閉鎖時の社員の雇用~その2
  ハラスメント対応は初動が大切~その1
  ハラスメント対応は初動が大切~その2
  退職勧奨にあたっての留意事項
  育児休業復帰者の配置転換
 会社は社員の配転希望に沿う必要があるか
 始末書未提出への対応
 副業許可にあたっての留意事項

産業競争力会議の労働時間見直し案 Column No.101

 労働分野の規制緩和の進展状況について、今回は、12月10日に産業競争力会議の分科会から報告された「雇用・人材分科会」主要論点メモ(労働時間規制等)をみてみよう。
 大きなテーマとして揚げられているのは、「1.新たな働き方に応じた労働時間規制の見直し」「2.多様な正社員」である。まずは1から。

1.新たな働き方に応じた労働時間規制の見直し
①日本の雇用環境に合った「日本型新裁量労働制」の導入
・経済成長に向けて企業の競争力を向上し、新たな雇用機会を創出するためには多 様な働き方、創造性と高い生産性を発揮できる働き方の実現が必要である。その 前提として、健康確保の徹底やワークライフバランスの促進に向け、休日・休暇 取得のための強制的取り組みや労働時間の量的制限などを徹底した上で、創造的 で柔軟性ある働き方が可能な労働時間法制を確立すべきである。

・成果が時間だけでは必ずしも測れず、時間管理に馴染まない働き方をしている個 人もいる。こうした個人が付加価値生産性を上げ、より創造的な働き方を実現す るためには、健康管理について十分な配慮をしつつ、労使合意の下で労働時間と 賃金を完全に切り離した雇用契約を結ぶオプションを個人と企業に与える制度、 「日本型新裁量労働制」を創設すべきである。

・新制度の創設に向け、まずは、上司の具体的な指揮・命令なしに、労働者が自ら の判断で労働時間を決められる専門性の高い自己管理型職種で、例えば、年収 1,000 万円を超えるような企業との交渉力も大きい高所得専門職について、早急 に先行的な導入を図る。

・先行導入にあたっては、健康管理の観点(安全配慮義務)で、年間一定日数の「強 制休暇」の取得を義務付けた上で、時間外・深夜・休日の割増賃金制度を適用除 外とする。国家戦略特区制度や企業実証特例制度などを活用し、平成25 年度中に 結論を得て、先行的・試行的な導入を早急に行う。先進的な優良企業に限定をし、 健康確保、生産性向上の効果を検証する。

・本格的な制度の創設については、26 年度秋をめどに結論を得て、所要の法改正を 行う。

 「日本型新裁量労働制」は、12月5日公表の規制改革会議「労働時間規制の見直しに関する意見」にて、新たな裁量労働制の必要性を指摘しており、これを踏まえての提言である。
 年収1,000 万円を超というのがポイントだろう。2005年に経団連がホワイトカラーエグゼンプションを提言したときには年収400万円以上であり、2013年夏に政府が示した方針では年収800万円超だった。今回はさらのその上を行く額である。これなら、労働組合も強硬な反発はしないだろうと見込んでの金額ではないだろうか。
 ちなみに年収1,000 万円というのは、2012年にサラリーマンの3.8%(172万人)で、そのうち専門職であるから対象はさらに限定される。
 このような具体案から、とにかく、まずは導入したいという意志が感じられる。ただ、これだけの年収がある労働者ならば、管理監督者としてすでに労働時間の規制から外れている人が大半だとは思うが。

②テレワーク等の在宅勤務に適合した制度
・テレワークの普及のために、職種や賃金水準ではなく、在宅勤務に対象を限定した裁量労働制について、IT 機器のアクセス時間の管理の下で、深夜・休日にかかわらず、仕事と家事・子育てとの自由な選択肢を容認する。

・健康管理の観点で、企業と結ぶ情報機器の総アクセス時間を管理し、一定以上の労働時間の者に対し、医師面談等で体調の確認を義務付ける。

 テレワークも現状では、事業場外労働で対応するくらいしかないので、テレワーク向けの裁量労働制の必要性は高いと思う。ただ、これも法制化するとなれば、労働者の保護を重視するあまり、実際には運用困難な制度になる可能性も予見できる。

③年次有給休暇取得促進、時間外労働削減・短時間労働の促進
・管理職や日本型新裁量労働制の対象でない一般労働者に対しては、前日の勤務時間(残業時間含む)から、当日の就業開始までに少なくとも8時間の間隔を使用者に義務付けるインターバル規制を導入する。

・年次有給休暇の未消化分について使用者に対し、その速やかな消化を義務化し、進捗が見られない企業に対しては、未消化分の一定比率分の買い上げを要請することで、計画的な取得を促進する。

 これらの項目は、前回も指摘した通り、労働者側へのアピールと思える。ただ、年休の買い取りは、労働者にとってはかなりありがたい制度となるだろう。

 続いてテーマ2を見てみよう。

2.多様な正社員
①「ジョブ型」の働き方に応じた雇用契約ルール等の明確化
・多様な人材の活用や個人のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方やキャリア形成を可能とし、労使双方にとってメリットを生む働き方を確立するために、従来のメンバーシップ型の働き方に加え、ジョブ型の働き方を確立・普及する。これにより、安定的な雇用創出を促進する。

・ジョブ型の働き方を確立・普及する目的は、労使双方が契約締結等の場面において互いの権利義務を明確にし、契約社会にふさわしい行動様式を確立することにある。そのためには、例えば、職務や労働時間を限定する際に、労働者に対してその内容を具体的書面により明示するなどの方策を講じる必要がある。

・勤務・地域等を限定したジョブ型の働き方の雇用契約について社会通念上相当な働き方として労働契約法で位置付けることを検討すべきである。

・国家戦略特区制度や企業実証特例などを活用し、ガイドライン策定し、平成25 年度中に結論を得て、先行的・試行的な導入を早急に行う。

・なお、規制改革会議意見書の契約締結・変更時の労働条件の明示、相互転換制度と均衡処遇について等の方向性を踏まえ、これらについて具体的な検討をすべきである。

 ジョブ限定社員の法制化は、今年に入ってから指摘をされていたが、なかなか進んでおらず、うやむやになったのかと思っていたら、ここで再浮上してきた。確かに、普通の日本企業はともかく、戦略特区の外資系企業などでは機能する制度かもしれない。
 
②有期雇用の将来像
・多様な働き方を実現するためには、有期雇用という働き方が無期雇用に比して劣るものではなく、一つの働き方として同等に位置付ける必要がある。そのためには、定期的なキャリア支援も含めたモデルを構築する必要がある。

・大学や研究開発法人等の研究者、技術者、教員等については、労働契約法の特例(無期転換申込権発生までの期間(5年間)の10 年間への延長)を設けること等を規定した改正法案が臨時国会で成立したが、今後は、国家戦略特区にて新規開業直後の企業やグローバル企業等で重要かつ時限的な事業に従事している有期労働者であり、高度な専門知識等を有している者や比較的高収入を得ている者等を対象に実証を行うべきである。また、定年後高齢者について、労働契約法の特例を検討し平成26 年度通常国会での労働契約法の改正案の提出をめざす。

・また、(2020 年オリンピック・パラリンピックに向けて)企業スポーツ選手を5年無期転換の適用除外とすることを検討すべきである。

 前政権が規制強化した内容を緩和する動きだ。政府としては、規定を全廃して、元に戻したいというのが本音だと思う。

 最後に次の提言を行っている。

 なお、成長戦略において雇用・労働システムの抜本改革を実現していくためには、 政府として経済政策と労働政策を一体的・整合的に捉え、労使の利害調整の枠を超 えた専門家を含む多様なステークホルダーの意見を反映できる、総理主導の労働政 策の基本方針策定の仕組みを検討すべきである。

 包括的議論の必要性を訴えたもので、5日の規制改革会議雇用WGの報告にも見られたものだ。違うのは「総理主導」を打ち出した点で、アベノミクスが評価されている今こそ、一気に改革を進めたいということだろう。
 ここ数年、労働分野に関して経済界の悲願ともいえる労働時間の規制改革が実現するか見ものである。
 
(2013年12月24日)

 
 
労働者派遣制度の見直し案(2013年12月) Column No.102

 労働分野の規制緩和の進展状況について、今回は、12月12日に厚生労働省・労働力需給制度部会から報告された「労働者派遣制度の改正について(報告書骨子案(公益委員案))」を概観してみよう。テーマは全部で11揚げられているが、ポイントと思われる1~3をチェックしてみる。

1 登録型派遣・製造業務派遣
 経済活動や雇用に大きな影響が生じる可能性があることから、禁止しない。

 民主党政権時代に禁止の流れがあった登録型派遣と製造業務派遣だが、完全にストップになったと言ってよいだろう。今後は検討すらされなくなると思う。

2 特定労働者派遣事業
 特定・一般の区別を撤廃し、すべての労働者派遣事業を許可制とする。

 これまで特定労働者派遣は届出でよかったが、特定・一般の区別がなくなることから、すべての労働者派遣事業者は許可を得なければならなくなる。許可要件は定かでないが、既存事業者保護の観点から、雇用管理の適切性や財産・組織・事務所など従来と同様になると思われる。

3 期間制限
(1) 新たな期間制限の考え方
○ 派遣労働が雇用と使用が分離した形態であることによる弊害を防止することが適当。すなわち、派遣労働者自身の雇用の安定やキャリア形成が図られにくいことから、派遣労働を臨時的・一時的な働き方と位置付けるとともに、派遣先の常用労働者との代替が起こらないよう、派遣労働は臨時的・一時的な利用に限ることを原則とする。

○ 26 業務という区分及び業務単位での期間制限は、わかりにくい等の様々な課題があることから撤廃した上で、一定の場合を除き、派遣労働者個人単位と派遣先単位の2つの期間制限を軸とする制度に見直す。

○ その際、期間制限が派遣労働者の雇用機会やキャリア形成に悪影響を与えないよう、必要な措置を講ずる。

※ 現に行われている26 業務への派遣についての経過措置

 派遣労働について、原則的な考え方には変更はないが、専門業務と一般的業務という区分から、派遣労働者個人単位と派遣先単位という区分に大きく転換することになる。業務の区分がなくなるからといって、派遣労働者に契約外の業務をやらせてもよいというわけではないので、その辺りをどう規制するか注意が必要だろう。
 また、最後に注意書きされているように、経過措置が設けられる見込みである。

(2) 個人単位の期間制限について
○ (5)で述べる例外を除き、派遣先の同一の組織単位における同一の派遣労働者の継続した受入は3年を上限とする。

○ 組織単位は、業務のまとまりがあり、かつ、その長が業務の配分及び労務管理上の指揮監督権限を有する単位として派遣契約上明確にしたものとする。

※ 3年を超えて受け入れた場合は労働契約申込みみなし制度の適用

 同一組織単位での同一労働者の派遣受け入れ期間は3年までとなる。派遣労働者の立場から見ると、派遣元と無期雇用契約を結んでいない限り、最長3年で職場の転換が求められる。一般的業務の従事者はこれまでと変わりないが、専門業務従事者にとっては結構な負担が生じることになる。

(3) 派遣労働者に対する雇用安定措置について
○ 派遣元事業主は、(2)の上限に達する派遣労働者に対し、本人が引き続き就業することを希望する場合は、以下の措置のいずれかを講ずるものとする。(「雇用安定措置」)
① 派遣先への直接雇用の依頼
② 新たな就業機会(派遣先)の提供
③ 派遣元事業主において無期雇用
④ その他、安定した雇用の継続が確実に図られる措置
※ ①から④のいずれを講じることも可とする。
①を講じた場合に、直接雇用に至らなかったときは、その後②から④までの措置のいずれかを講ずるものとする。 

○ ①の直接雇用の依頼が、実際に直接雇用に結びつくような措置を講ずる。

  上記の措置で、現実性があるのは①と②だろう。ただし、①は依頼をしても派遣先に受けてもらえる可能性は低いと思われ、派遣労働者が就業を継続させるには②が主流になると考えられる。

(4) 派遣先における期間制限について
○ 派遣先は、(5)で述べる例外を除き、同一の事業所において3年を超えて継続して派遣労働者を受け入れてはならないものとする。

○ 派遣先が、派遣労働者の受入開始から3年を経過するときまでに、当該事業所における過半数労働組合(過半数労働組合がない場合には民主的な手続により選出された過半数代表者)から意見を聴取した場合には、さらに3年間派遣労働者を受け入れることができるものとする。その後さらに3年が経過したときも同様とする。

○ その他、適正な意見聴取のための手続を定める。

 原則3年間だが、労働者の意見聴取により延長可能ということで、事実上、受入期間が無制限になると考えてよいだろう。この規定については、労働者側が強く反対しそうである。

(5) 個人単位及び派遣先単位の期間制限の例外について
○ 以下を(2)から(4)の措置の例外とする。
① 無期雇用の派遣労働者
② 60 歳以上の高齢者
③ 現行制度で期間制限の例外となっている日数限定業務、有期プロジェクト業務、育児休業の代替要員などの業務への派遣
※ 有期プロジェクト業務については、終期が明確である限り派遣期間を制限しない

 ポイントは①の無期雇用の派遣労働者がどれだけ生まれるかだろう。従来の特定派遣労働者でなければ無期雇用は難しいと思う。特に中小の派遣事業者には、無期雇用のリスクは負えないと考えられる。

 厚生労働省では意見をまとめ、年明けの通常国会に改正法案を提出する見込みだ。労使双方の意見を踏まえた公益委員の報告なので、基本的にこの内容で改正法案がつくられると思う。ただ、12月25日の日経の記事によると、労使の隔たりが大きいことから当初目指していた年内のとりまとめは見送りになったとのこと。どのような法案となるか、審議の行方が注目される。

(2014年1月1日)
 
 
 
均等法施行規則の改正(2014年7月施行) Column No.103

 昨年12月24日、雇用の分野における男女格差の縮小や女性の活躍促進を一層推進することを目的に、男女雇用機会均等法施行規則を改正する省令などが公布された。内容は次の4つである。

1. 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則の一部を改正する省令
2. 労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針の一部を改正する件
3. 事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針の一部を改正する件
4. コース等で区分した雇用管理を行うに当たって事業主が留意すべき事項に関する指針

 これらは、12月20日の雇用均等分科会の答申を受けたもので、改正均等則等では、1.間接差別となり得る措置の範囲の見直し、2.性別による差別事例の追加、3.セクシュアルハラスメントの予防・事後対応の徹底、4.コース等別雇用管理についての指針の制定を行うことになる。なお、規則の施行は平成26年7月1日である。

 今回のコラムでは改正内容を確認し、企業に必要な対応を検討してみたい。

1.間接差別となり得る措置の範囲の見直し
 間接差別となるおそれがある措置として省令に定める3つの措置のうち、コース別雇用管理における「総合職」の募集または採用に係る転勤要件について、総合職の限定を削除し、昇進・職種の変更を措置の対象に追加する。
 これにより、すべての労働者の募集・採用、昇進、職種の変更に当たって、合理的な理由なく、転勤要件を設けることは、間接差別に該当することとする。(省令等の改正)
 

 ちなみに、現行省令で定めている間接差別となるおそれがある3つの措置とは、

①労働者の募集または採用に当たって、労働者の身長、体重または体力を要件とするもの (省令第2条第1号)
②コース別雇用管理における「総合職」の労働者の募集または採用に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とするもの(省令第2条第2号)
③労働者の昇進に当たって、転勤の経験があることを要件とするもの(省令第2条第3号)

 であり、このうち②について今回見直すこととなる。

 また、転勤要件を選考基準としていると認められる例として、次の2つが示されている。

①募集もしくは採用又は昇進にあたって、転居を伴う転勤に応じることができる者のみを対象とすること又は複数ある採用又は昇進の基準の中に、転勤要件が含まれていること。
②職種の変更にあたって、転居を伴う転勤に応じることができる者のみを対象とすること又は複数ある職種の変更の基準の中に、転勤要件が含まれていること。たとえば、事業主が新たにコース別雇用管理を導入し、その雇用する労働者を総合職と一般職へ区分する場合に、総合職については、転居を伴う転勤に応じることができる者のみ対象とすること又は複数ある職種の変更の基準の中に、転勤要件が含まれていることなど。

 ここで問題となるのは、転勤要件を設ける際の合理的な理由がない場合だが、これについては特に変更はないようなので、これまで通り、以下の基準が用いられると考えられる。

イ 広域にわたり展開する支店、支社等がなく、かつ、支店、支社等を広域にわたり展開する計画等もない場合
ロ 広域にわたり展開する支店、支社等はあるが、長期間にわたり、家庭の事情その他の特別な事情により本人が転勤を希望した場合を除き、転居を伴う転勤の実態がほとんどない場合
ハ 広域にわたり展開する支店、支社等はあるが、異なる地域の支店、支社等で管理者としての経験を積むこと、生産現場の業務を経験すること、地域の特殊性を経験すること等が幹部としての能力の育成・確保に特に必要であるとは認められず、かつ、組織運営上転居を伴う転勤を含む人事ローテーションを行うことが特に必要であるとは認められない場合

 したがって、従来から適切な運用をしてきた企業ならば、今回の改正で特別な対応が必要になることはないはずである。

2.性別による差別事例の追加
 性別を理由とする差別に該当するものとして、結婚していることを理由に職種の変更や定年の定めについて男女で異なる取扱いをしている事例を追加。(性差別指針の改正)

 具体例として、

①女性労働者についてのみ、婚姻を理由として、一般職から総合職への職種の変更の対象から排除すること
②定年年齢の引上げを行うに際して、既婚の女性労働者についてのみ、異なる定年を定めること

 が示されている。これも、均等法の趣旨からして従来から違法であることは明らかで、このような運用がなされている企業は少ないと考えられ、特別な対応は不要と思われる。

3.セクシュアルハラスメントの予防・事後対応の徹底
①職場におけるセクシュアルハラスメントには、同性に対するものも含まれるものであることを明示。
②セクシュアルハラスメントに関する方針の明確化とその周知・啓発に当たっては、その発生の原因や背景に、性別の役割分担意識に基づく言動があることも考えられる。そのため、こうした言動をなくしていくことがセクシュアルハラスメントの防止の効果を高める上で重要であることを明示。
③セクシュアルハラスメントの相談対応に当たっては、その発生のおそれがある場合や該当するかどうか微妙な場合でも広く相談に応じることとしている。その対象に、放置すれば就業環境を害するおそれがある場合や、性別役割分担意識に基づく言動が原因や背景となってセクシュアルハラスメントが生じるおそれがある場合などが含まれることを明示。
④被害者に対する事後対応の措置の例として、管理監督者または事業場内の産業保健スタッフなどによる被害者のメンタルヘルス不調への相談対応を追加。(セクハラ指針の改正)

 セクハラが多様化・複雑化していることを受けての改正となる。企業の対応として大きな変更はないが、より慎重かつ細やかな対応が求められることになるだろう。
 
4.コース等別雇用管理についての指針の制定
 「コース等で区分した雇用管理についての留意事項」(局長通達)を、より明確な記述とした「コース等で区分した雇用管理を行うに当たって事業主が留意すべき事項に関する指針」を制定。(コース等別雇用管理指針の制定)

 「より明確な記述とした」指針案を見ると、具体化したわけではなく、むしろシンプル化している。ボリュームでいえば以前の半分ほどになっており、また、項目も整理されていて、確かにわかりやすくなった
指針の内容自体に特に変わりはないので、これに関する企業対応に変化はないと考えられる。

 以上、今回の施行規則改正に対しては特別な対応は必要ないと思われるが、「女性が輝く日本」を目指す安倍首相の元で、均等法も含めたさらなる改正も十分に予想されるところである。

(2014年1月6日)

 
 
つわり休業は私傷病欠勤か Column No.104

 つわりの症状が著しいときには会社を休まざるを得ないこともある。
 このとき、よく見られるのが年次有給休暇を使って休業を取るケースである。ただ、症状が長引いたりすると、年休を使い果たしてしまうこともあり、その場合に、普通の欠勤の扱いをするか、それとも私傷病欠勤の扱いをするかという問題が生じる。
 普通欠勤と私傷病欠勤とでは、給与支給の有無や賞与の査定、人事評価、昇進・昇格などの面で違いがでてくることがあり、社員からすると可能であれば私傷病欠勤扱いにしてほしいと思うはずである。
 健康保険では、妊娠は疾病ではないというのが基本的な考え方である。ただし、ひどいつわりで会社を休んだときに、病院の診断書があれば、傷病手当金を受けられる場合もある。
 つわり休業は私傷病欠勤扱いとすべきなのだろうか?

 これについては、厚生労働省から出された「女性労働者の母性健康管理のために」という小冊子の中の母性健康管理Q&Aにて次のように示されている。

問6  妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置において 、措置の中に休業もありますが 、私傷病による休業とは別扱いとなるのでしょうか(事業主)。

【答】 妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置として休業が必要な場合、どのような休暇制度を適用するかについては個々の事業主に任されており、私傷病による休業(病気休暇)で対応することも一つの方法です。
 ただし、妊娠障害休暇等特別の休暇制度を設けている場合には、休業中の賃金支払の有無等については、病気休暇等の休暇制度を利用する場合の条件を下回ることのないよう定めることが望まれます。
 
 
このように行政の考え方では、つわりによる休業を普通欠勤とするか私傷病欠勤(あるいは他の欠勤・休暇制度)とするかは企業の任意ということである。 したがって、現状の就業規則に何も定めがないのであれば、いずれを選択してもかまわないと考えてよいだろう。
 ただ、「妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針(平成9年労働省告示第105号)」において、

(3)妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置について
 事業主は、その雇用する妊娠中又は出産後の女性労働者から、保健指導又は健康診査に基づき、医師等によりその症状等に関して指導を受けた旨の申出があった場合には、当該指導に基づき、作業の制限、勤務時間の短縮、休業等の必要な措置を講ずるものとする。

 と示されており、この指針に基づいて、就業規則に「妊娠中の女性が休業の指導を受けた場合には休業できる」旨の定めを設けている企業が多いのではないかと思う。そして、その際の賃金の支給の有無についても定めがあるはずである。
 実際に対象者が出たときにはこの規定に従うことになるが、上記回答にある後半部分の内容に注意しなければならない。つまり、私傷病欠勤の場合に有給のときは、当該休暇制度もそれ以上の条件にすることが望ましいという点である。これに該当するのならば、規定の改正も検討課題となる。
 女性労働者活用の気運が高まっている今日、地味なことではあるが、このような改正は労働環境の改善を社員にアピールする機会にもなる。ちなみに、上記の小冊子ではモデル規定も掲載されているので、参考にするとよいだろう。 
 また、このような規定を設けていない企業も、上記指針に対応するために、この機会に就業規則を改正することが望まれる。
 なお、いずれの制度にせよ、休業中に無給であり、健康保険の傷病手当金の支給要件を満たすのであれば、まずはその受給を検討してみるのが社員のために適切と考えられる。

(2014年1月14日)

 
 
人員削減にあたっての留意点~その1 Column No.105

 景気回復にともなって過去最高益を生み出す企業もある一方で、いまだに光明が見いだせない企業も多くあり、中にはリストラを迫られているところもある。 リストラの中身は本来多岐にわたるが、本コラムでは人員削減に焦点を当て、その留意点を検討してみよう。

 今回は、留意点を指摘する前提として、人員削減によりどのようなリスクが想定されるかを整理しておく。これにより、何のためにその留意点が求められるかを明確化できるからである。

 人員削減により予想されるリスクは次の5つである。

1.訴訟などの法的リスク
 整理解雇が不当だとして訴訟を起こされることなどが典型例である。最近は、裁判や労働委員会だけではなく、労働審判、個別労働紛争解決制度など、トラブルを持ち込む窓口が多様化し、敷居も低くなっていることに加え、法的な対応に関する労働者の情報量も格段に増していることから、法的なリスクは高まっているといえる。

2.組織風土や人間関係悪化のリスク
 人員削減の対象者と残留できる社員との間に溝が生じ、組織風土が悪化することは容易に想像できる。リストラ終了後も、次のリストラ時に削減対象とならないよう、個人業績を上げることが最優先される一方で、協調や育成は軽視され、殺伐とした雰囲気になる可能性がある。
 また、人事部門への不信・不満などから、評価制度や能力開発制度など、人事の重要施策が機能しなくなる恐れも出てくる。

3.事業パフォーマンス低下のリスク
 営業人員が減れば売り上げは落ちるし、生産人員が減れば生産量は落ちる。また、事務人員が減れば日常業務が回らなくなるリスクも出てくる。規模の経済性が発揮できなくなったり、1人当たりの固定費が増えたりして、かえって非効率になってしまう可能性がある。

4.残留社員のモチベーション低下のリスク
 多かれ少なかれ、人員削減後の社内には動揺が広がり、会社・経営者に対する不信感が募るものである。特に、これまで家族主義経営などを標榜してきた企業ではショックも大きいだろう。
 また、次は自分かもしれないという恐怖感から落ち着いて仕事に取り組めなくなったり、優秀な人材が先を見越して流出したりするリスクも生じる。

5.対外的な影響リスク
 リストラに対して、かつてほどはないにしても、「ヒトに冷たい会社」「経営危機にある会社」との悪いイメージを持つ人は多い。大企業でなければ新聞ネタになったりすることはないだろうが、中小企業であっても、少なくとも取引先には噂が広まるものだ。
 マスコミなどに取り上げられれば、採用に不利になるのも明らかで、下手をするとブラック企業のレッテルを貼られかねない。

 人員削減にあたっては、これらのリスクを少なくするような対応が留意点として必要となる。次の機会に整理していきたい。

(2014年1月20日)

 
 
 人員削減にあたっての留意点~その2 Column No.106

 前回(№105)に続いて、人員削減にあたっての留意点を考えてみる。今回は、前回指摘したリスクに対応するための方策として、以下の5つを挙げる。

1.法的に適切に進めること

 訴訟リスクに対しては、法的に遺漏のないように進めることが重要となる。具体的には下記の整理解雇の4要件を満たすようにすることである。

① 人員削減を行う経営上の必要性があること
② 解雇回避のための努力をしたこと
③ 解雇対象者の人選に合理性があること
④ 労働者・労働組合への説明など手続きが妥当であること

 これらは、訴訟リスクだけでなく、他のリスクにも大きな影響を及ぼす。基本的にこの4要件を守れば、人員削減のリスクはかなりの程度低くなるはずである。

2.社員のケアに配慮することとトップ主導で進めること

 組織風土や人間関係悪化のリスクを低減するには、不満を持つ社員への対応が重要となる。
 そこで、割増退職金や再就職支援など不満の抑制策を充実させるとともに、相談窓口の設置など、不満のはけ口となる場所が必要である。もうじきいなくなるのだからと、ここで手抜きをしたり、コストを惜しんだりすると、不満が爆発して、やっかいなトラブルに発展するおそれがある。
 また、上記に示した「解雇回避のための努力」にも関わるが、経営陣の報酬カットなど、経営者にも痛み伴う措置がとられていることが心理的な面で重要だ。
 もう一つ重要なのは、人事部門にすべてを押し付けずに、トップが矢面に立つことである。もちろん、具体的な作業は人事部門が担当することになるが、人員削減はあくまでトップが判断し計画したもので、人事はその指示を受けて動いているにすぎないことを社員に理解してもらわなければならない。そうしないと、社員の抵抗が激しくなって、手続きが立ち往生してしまうおそれが出てくる。人事の立場からすれば、与えられたミッションを粛々とこなすという割り切りが大切となる。汚れ役となる人事担当者の経営陣によるケアも忘れてはならない。
 
3.組織や事業・業務の見直しも同時に行うこと
 事業パフォーマンスダウンのリスクには、組織編成や事業編成、業務の進め方などの見直しが求められる。これまでと同じことをやって、単に人数だけが減るのであれば、社員への負荷が大きくなり、どこかに無理が生じて、日常業務が回らなくなるのは目に見えている。
 逆にいえば、これらの見直しを前提に人員削減を進めることが重要といえる。また、人材育成、能力開発計画なども併せて提示できれば、残留社員へのアピールにもなって、さらによいだろう。

4.社員への説明をしっかり行うこと

 残留社員のモチベーションダウンのリスクには、社員への説明をしっかり行うことが大切である。自社の置かれた環境や財務状況、これまでの合理化の取り組みなど、人員削減の必要性をトップが丁寧に説明することである。特に今後の再建計画を明示し、将来の展望を示すことが、残留社員のモチベーションにとって重要となる。「今は苦しいが、将来のために協力してほしい」旨を、熱意をもって伝える必要がある。繰り返すが、これは必ず経営トップがやるべきことで、人事部などに任せてはならない。

5.単なる「人減らし」ではなく、競争力強化の一環であることを強調する

 対外的な影響リスクには、会社が強くなるために抜本的に変革しようとしている姿勢を訴えることが大切だ。人員削減は目的ではなく、今後の競争力強化のための一手段であることを示すのである。そのためには、3で指摘したような組織や事業の見直しが同時に実施されていなければならない。
 もう一つ重要なのは、結果(=業績回復)を示すことである。人員削減をやるからには、何が何でも業績回復を達成しなければならない。経営者は、そのような覚悟をもって臨めるかである。くれぐれも、人員削減→企業体力の低下→さらなる業績悪化→さらなる人員削減、という負のスパイラルに陥らないようにしなければならない。

 以上の5つに留意しながら人員削減には取り組みたい。ポイントとなるのは社員の感情への配慮である。コスト削減だけを目的に実施をすると、組織が荒廃して、取り返しのつかない事態に陥る可能性があることを十分に認識しておいてほしい。

(2014年1月27日)
 
 
 
 試用期間の延長について Column No.107

 企業が労働者を雇用したとき、3ヶ月あるいは6ヶ月といった試用期間を設けるのが一般的である。今回は、その試用期間の延長ができるかどうかを検討してみたい。

 試用期間の延長について、具体的な法律の定めはないが、試用期間中は、

 ・解雇の自由が比較的認められやすくなる
 ・賃金を抑制されやすくなる

 など、労働者に大きな不利益をもたすので、その延長は企業の都合で簡単にできるものではない。

 まず、試用期間を延長する根拠として、就業規則の定めが求められる。 就業規則に試用期間の延長の定めがないのであれば、原則として延長はできない。
 ただし、労働者の承諾がある場合や、試用期間中に労働者の適性を判断できない合理的な事由がある場合などは延長できる可能性はある。

 次に、試用期間の延長の定めがあっても、この規定だけを根拠に一方的に延長が認められるわけではない。 試用期間を延長するには、やはり合理的な事由が必要となる。
 この点は、就業規則の定めがない場合と同じだが、就業規則の定めがある場合には、求められる合理性のレベルが多少低くなると考えればよいだろう。
 判例においても、試用期間の延長は、「これを必要とする特別の事情がない限り一方的にすることを許されない(「大阪読売新聞社事件」大阪高1970.7.10)」、あるいは「延長を必要とする合理的事由がなければ許されない(「上原製作所事件」長野地諏訪支1973.5.31)」というのが一般的な考え方である。

 では、合理的事由とはどういうものかだが、本来、試用期間とは労働者の適性や能力を判定する期間であり、それを延長するということは、

 ①何らかの事情により判定できなかったので、もう少し様子を見る時間を確保する
 ②不適格と判定され、本来は解雇すべきところだが、再度チャレンジの機会を与える

 のどちらかと考えられる。
  ①の場合は、労働者の出勤日が不足しているなど、労働者の都合によるものであれば合理性があると考えられるが、単純に期間中の判定ができなかったといった理由では、合理性は認められないだろう。
 ②の場合、不適格の内容が問題となるが、それが妥当であれば、労働者を救済しようという会社の措置に合理性はあると考えられる。
 いずれにしても、どのような事由により延長となるのか、労働者への説明があるべきで、一方的に延長を通告するというようなやり方では問題がある。
 
 以上から、試用期間を延長するには、

 ①就業規則の定めがあること
 ②合理的な事由があること
 ③延長する事由について、労働者にきちんと説明すること

 が必要である。①から③のいずれか、特に②が欠ければ、トラブルが生じる可能性が高いと認識しておきたい。

(2014年2月3日)

 
 
 事業所閉鎖時の社員の雇用~その1 Column No.108

 会社再建や経営合理化にあたって、工場や営業所の統廃合は基本的な方策の1つだが、このとき、問題となるのは当該事業所で雇用されている社員の処遇である。以下、対応の仕方について整理してみよう。

 対応の仕方でポイントとなるのは、

 1.事業所閉鎖の理由に応じた対応
 2.雇用形態に応じた対応

 が求められるということである。今回は、1について検討する。

1.事業所閉鎖の理由に応じた対応
 事業所閉鎖のパターンは、その理由から、大きく次の3つに分けられ、各パターンに応じた対応の仕方が必要となる。
 ① 全社的な経営不振による事業所閉鎖
 ② 経営合理化を目的とする事業所閉鎖
 ③ 戦略的な事業統合や採算性向上を目的とする事業所閉鎖

 ①は、閉鎖もやむを得ないことから、社員に対する雇用上の配慮は、②③ほど必要としない。
 ②③は、閉鎖は会社の都合によるもので、企業体力もあることから、社員に対する一定レベルでの雇用上の配慮が求められる。当然、②よりも③の方が要求レベルは高くなる。

 では、どのような雇用上の配慮が必要かといえば、事業所の閉鎖は最終的に整理解雇につながる可能性があることから、「整理解雇の4要件」を充たす取り組みが後々トラブル防止のために重要となる。

 判例でも、

 企業の業績不振または業務縮小に伴う人員削減が、希望退職、出向、配置転換、自然減による欠員の不補充などの任意的手段で行われるのでなく、解雇という方法で行われるときは、労働者はその責任のない事由により意に反して職を失い、生活上重大な不利益を受けることになるので、そのような事態が肯認され得るには、解雇時点において使用者側に合理的かつ客観的に首肯し得る程度の人員削減の必要性があり、解雇に至るまでに解雇を回避するための諸措置をはかる努力が十分なされたこと、経営危機の実態や人員整理の必要等について労働者側に十分な説明をし、協議が尽くされたこと等の条件が満たされなければならないと解される。・・・(中略)・・・使用者側における業務縮小に伴い、ある時期に一定の職種の労働者の労働力が不要になったからといって、直ちにその者の解雇がなんらの制約なしに許容されるものではなく、当該企業の規模、業績、人員削減の必要性・緊急性の程度、希望退職や自然減による他の職種・職場における欠員の可能性、本人の職種転換の能力、職種転換に要する訓練等の費用・時間などを総合勘案し、その者を雇用し続けることが企業経営上なお相当に困難であり、その者の解雇が労働契約上の信義則を考慮してもやむを得ないと認められる場合であれば格別、右要件に該当しない解雇は、前記のいわゆる整理解雇の要件を欠くものであり、解雇権を濫用するものとして無効となると解せられる。(「千代田化工建設事件」東京高1993.3.31)

 とあり、事業所がなくなるからといって、いきなりの解雇が認められるわけでなく、整理解雇の4要件に則った手続きを要求している。

 では、4要件に即して考えてみよう。

 <整理解雇の4要件>
 ① 整理解雇の必要性があること
 ② 人選に合理性があること
 ③ 解雇回避努力をしたこと
 ④ 手続きの相当性(労働組合との協議や社員への説明)があること

 ①の要件については、事業所閉鎖により就業場所がなくなることから必要性は高い。 なお、その前提として、事業所閉鎖の必要性であるが、組合つぶし等の不当な目的ではなく、経営判断として合理性があればよい。
 ②は、当該事業所に勤務する者全員であるから、必然的に合理性は高い。
 問題は要件③④で、特に③である。事業所閉鎖の場合は、解雇回避努力と手続きの相当性に留意しながら進めることが必要と考えられる。

 それでは、解雇回避努力はどのようにすべきか、雇用形態に応じた具体的な対応を次回見ていくことにしたい。

(2014年2月17日)

 
 
 事業所閉鎖時の社員の雇用~その2 Column No.109

 事業所閉鎖にあたって、社員の雇用をどうするかという問題について、前回は1つ目のポイントである「事業所閉鎖の理由に応じた対応」を整理した。今回は、2つ目のポイント「雇用形態に応じた対応」を検討してみよう。

2.雇用形態に応じた対応
 雇用形態は、大きく正社員と契約社員・パートタイマーの2つに分けて考える必要がある。

(1)正社員
 正社員は、可能なかぎり解雇回避努力を行うことがポイントであるが、さらに総合職と一般職とに分けて考えてみよう。

①総合職  
 総合職社員への対応としては、次のア~ウの3つつが基本となる。

  ア.他の事業所への配置転換
 イ.本人が配転を受け入れなければ退職
 ウ.配転も退職も拒否する場合は整理解雇
  
 イの場合、割増退職金等は原則として不要だが、会社都合による退職とする必要性は高い。また、地元採用等で生活が現地に根付いており、配置転換が社員に著しい不利益を与えるような場合は、割増退職金等の措置も必要と考えられる。

②一般職
 一般職社員への対応としては、次のア~エの4つが基本となる。

 ア.代替業務の創設⇒事業所閉鎖後も従事できる業務の創設
 イ.退職
 ウ.本人が受け入れれば、他の事業所へ配置転換も可能
 エ.上記のいずれも拒否する場合は整理解雇

 アは、たとえば、小規模な営業支所の設置や在宅勤務で雇用の存続を図るケースなどである。
 イにおいて、会社都合による退職とするほか、雇用先の紹介や再就職支援会社の利用等の再就職支援や割増退職金支給等の配慮が望まれる。割増退職金はたとえば給与1年分などである。

 総合職・一般職いずれにしても、「手続きの相当性」の観点から、早目に通知・説明をすることにも留意しなければならない。

(2)契約社員・パートタイマー
 契約社員・パートタイマーは、解雇(雇止め)は避けられないため、いかに穏便に済ませるかがポイントである。

①期間満了時の雇止め
 事業所閉鎖は、雇止めの理由としては一定の説得力はある。 ただし、契約更新を繰り返している社員には、勤続年数に応じた慰労金などの金銭的配慮が望まれる。
 いずれにしろ、とにかく早目に通知・説明をすることが必要である。

②期間満了前に契約解除
 期間満了前の契約解除は、「やむを得ない事由がある場合」でなければ認められない(労働契約法第17条)。
  「やむを得ない事由」とは、労働契約を維持できないような重大な事由で、一般的な解雇事由よりも狭くなる。たとえば、労働者側に重大な非違行為があるときや、天災事変によって事業の継続が困難なとき、受注減少により著しく業績が悪化したときなど、切迫した事情が必要となる。企業経営に重大な影響を及ぼすような事由でなければ認められないと考えられ、可能な限り避けるのが適当である。
 避けられないのであれば、少なくとも契約残余期間に対する休業手当(賃金の6割以上)相当分の補償をしたうえで、できれば、上記の金銭的配慮も望まれる。
 なお、これも、早目に通知・説明をすることが求められる。

 以上2回にわたって事業所閉鎖にあたっての社員の処遇の仕方を整理してきた。ポイントをまとめると次のとおりである。

1.事業所閉鎖の理由に基づいて、社員に対して一定レベルの雇用上の配慮をすること
2.雇用上の配慮は、雇用形態に応じた対応が必要であること
3.解雇回避努力と社員への説明を誠実に行うことがトラブル防止のカギとなること

(2014年2月24日)

 
 
 年次有給休暇の取り方と会社側の対応 Column No.110

 先日、ある会社員から年次有給休暇の件で相談を受けた。家庭の事情で年次有給休暇を取ったところ、「この忙しいときに無責任だ!」と上司から叱責され、自分の年休の取得の仕方に問題があったのかという内容だ。
 非は全面的に上司の方にあったのだが、このような不合理な目に合っている方も多いのではないかと思う。原因は上司の年休に対する理解不足ということに尽きる。今回は年休の取り方や会社側の対応についてポイントを整理してみたい。

 まず確認しておきたいのは、労働基準法上、労働者が年休を取得する権利はかなり強いということだ。

 その1つが労働者の時季請求権に対する使用者の時季変更権である。
 労働者が年休の申請をしたとき、会社は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限って取得時季を変更することができる。 「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、年休を取る日の仕事が業務運営に不可欠であり、代わりの労働者の確保が困難な状態をいう。
 判例では、具体的判断基準として、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮すべきとしている。 このうち特にポイントなるのは「代行者の配置の難易」で、代替要員の確保ができるのであれば、時季変更権は行使できないと考えるのが妥当である。
 ただし、慢性的な人手不足は、「事業の正常な運営を妨げる場合」には該当しないとされているので、そのような理由で代替要員が確保できないからといって、時季変更権の行使はできない。

 これ以前の問題として、会社は労働者が年休を取得できるよう、勤務予定を変更したり、代替勤務者を確保したりするなどの配慮が求められ、このような努力をしないで、時季変更をすることは認めらないという点にも注意が必要である。
 労働者の側から言えば、会社がそのような配慮をできるよう、早目に申請しておくことが大切ということになる。直前の申請では、会社側が配慮しなくても、そのことに不備の指摘はできない可能性があるからだ。

 また、年休をどのように使用するかは労働者の自由である。会社は、取得理由によって、休暇を与えたり、与えなかったりすることはできない。

 さらに、年休を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取り扱いをすることもできない(労働基準法136条)。これ自体は努力義務であるが、最高裁の判例でも、年休取得に対する不利益な取り扱いは、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、年休取得に対する事実上の抑止力の強弱などを考慮して、年休権の行使を抑制し、労基法が労働者に年休を保障した趣旨を実質的に失わせる場合には違法になるとしている。

 ところで、いったん認められた年休がその後時季変更されることで、社員に損害が発生する場合もありうる。このとき、もしその変更が不当であるときには、会社が損害賠償請求責任を負わなければならないケースも出てくる。
 判例では、不当な年休の時季変更により旅行をキャンセルすることになった労働者に対し、会社にキャンセル料の支払いを命じたものもある(「全日本空輸事件」大阪地1998.9.30)。

 冠婚葬祭や受験など、社員の立場からすると時季変更が困難な場合もある。そのようなときには、休暇日の業務運営に大きな支障が出ないよう、社員の側で仕事を前倒しで進めておくことや、同僚・代替者への引き継ぎをしっかりしておくこと、上司等にどうしても休まなければならない旨の理解を得ておくことなど、事前の準備・調整を可能な限りしておき、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当しないようしておくことが大切となるだろう。
 また、こういったことをスムースに進められるよう、日ごろから積極的に他者を支援したり、互いに協力し合う雰囲気を職場で醸成したりしておくことも重要と考えられる。

 いろいろと書いたが、結局のところ、仕事もプライベートも大切であり、そのために互いに配慮し合うという意識が浸透している職場であれば、年休取得に伴うトラブルが起きる可能性は低いはずである。

(2014年3月17日)

 
 
 第三者行為災害による労災~その1 Column No.111

 社員が取引先に向かう途中、クルマに接触してケガをした—。
  当然、労災保険の給付対象となるわけだが、相手の自動車保険からも賠償を受けられるはずである。 このとき、2つの保険から二重に保険金を受け取れるのか、それとも何らかの形で支給調整されるのか?
 これは「第三者行為災害」の問題で、どのように対応すればよいかについては、「第三者行為災害のしおり」という厚生労働省が出している小冊子に詳しく述べられている。
 当コラムでは2回に分けてその要点をまとめてみる。今回は、第三者行為災害の概要と手続きである。

 まずは第三者行為災害の定義である。
 「第三者行為災害」とは、労災保険給付の原因である災害が第三者の行為などによって生じたもので、労災保険の受給権者である被災労働者または遺族(以下「被災者等」)に対して、第三者が損害賠償の義務を有しているものだ。
 ここで「第三者」とは、当該災害に関する労災保険の保険関係の当事者(政府、事業主および労災保険の受給権者)以外の者をいう。したがって、製造部門の社員が子会社の倉庫部門の社員の運転するフォークリフトに接触して負傷したケースなど関連会社間の事故であっても、事業主が異なるので第三者行為災害ということになる。また、ある社員が業務上の事由に起因して他の社員に暴力をふるい、ケガをさせた場合なども該当する。

 第三者行為災害に該当する場合には、被災者等は第三者に対し民事上の損害賠償請求権を取得すると同時に、労災保険に対しても給付請求権を取得することとなる。
 この場合、同一の事由で両者から損害のてん補を受けるとすると、実際の損害額よりも多い額が支払われ不合理であり、また、本来被災者への損害のてん補は、政府によってではなく、災害を引き起こした第三者が最終的に負担すべきと考えるのが合理的である。 そこで、第三者行為災害の場合は、労災保険の給付と民事上の損害賠償とは支給調整が行われる。

 
では、どのように調整するかだが、労働者災害補償保険法では、第三者行為災害に関する労災保険給付と民事損害賠償との支給調整を次のように定めている(第12条の4)。
 
① 被災者等が第三者から先に損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で労災保険給付をしないことができる。
② 先に政府が労災保険給付をしたときは、政府は、被災者等が第三者に対して有する損害賠償請求権を労災保険給付の価額の限度で取得する。

 ①は後述する「控除」のことであり、②は「求償」のことである。

 このような調整があるため、労働基準監督署としては事故が“第三者行為災害”であることを認識する必要がある。そこで、第三者行為災害による労災保険給付の請求にあたっては、労災保険給付請求書に加えて以下の書類を提出することになる。提出を怠ると、保険給付が差し止められることもあるので注意したい。

●被災者が提出する書類

・第三者行為災害届
 被災者の所属する事業場を管轄する労基署に、「第三者行為災害届」を2部提出する。この届けは、支給調整を適正に行うために必要なものなので、原則として労災保険給付に関する請求書に先立って、または請求書と同時に提出しなければならない。

・念書(兼同意書)
 労災給付を受けるにあたって遵守事項や、被災者等が第三者に対して持っている損害賠償請求権を政府が取得すること、個人情報の取り扱いなどの念書・同意書である。この書類は、必ず労災保険給付を受ける本人が署名しなければならない。

・交通事故証明書または交通事故発生届
 交通事故証明書は、自動車安全運転センターにおいて交付証明を受けたものを提出する必要がある。なお、警察署へ届け出ていないなどの理由により証明書の提出ができない場合には、「交通事故発生届」を提出する。
 また、交通事故以外の災害で公的機関の証明書などが得られるときは、その証明書などを提出する。

 他の書類も含め、被災者が提出する書類を一覧にすると次のようになる。

書類
交通事故による災害
交通事故以外による災害
部数
備考
交通事故証明書または
交通事故発生届
 
 
念書(兼同意書)
 3
 
示談書の謄本
 1
示談が行われた場合(写しでも可)
自賠責保険等の損害賠償金等支払証明書または保険金支払通知書
 1
仮渡金または賠償金を受け ている場合(写しでも可)
死体検案書または死亡診断書
 1
死亡の場合(写しでも可)
戸籍謄本
 1
死亡の場合(写しでも可)

●第三者が提出する書類

・第三者行為災害報告書(調査書)
  「第三者行為災害報告書(調査書)」は、第三者に関する事項、災害発生状況および損害賠償金の支払状況などを確認するために必要な書類なので、提出を求められた場合には速やかに提出しなければならない。

 これらの書類の書き方は「第三者行為災害のしおり」P12以降に記載されているので、それを参考にしてほしい。

(2014年3月31日)

 
 
 戦略特区の雇用指針について~その1 Column No.112

 2014年4月1日、厚生労働省から「雇用指針」が公表された。
 「雇用指針」は、国家戦略特区法37条2項に基づき、新規開業直後の企業やグローバル企業等が、わが国の雇用ルールを的確に理解し、予見可能性を高めるとともに、労働関係の紛争を生じることなく事業展開することが容易となるよう定められたものだ。
 この「雇用指針」は、国家戦略特別区域(以下、戦略特区)に設置される「雇用労働相談センター」において、グローバル企業等や労働者からの雇用管理や労働契約に関する相談にあたって活用されることになる。

 医療や農業などとともに“岩盤規制”の1つといわれる雇用分野の改革策として、昨年から議論され、注目されてきたものが1つ完成したわけである。
 当初に打ち上げた改革案からすると随分小粒になったとも指摘され、内容的にも以前のコラム(No.95)で予見した通り、あたりさわりのないものとなった。基本的に従来の常識的な考え方を繰り返しただけで、戦略特区用に特別な扱いを示したものはあまり見られないように思える。アベノミクスの第3の矢として政府が力を入れる戦略特区だけに、ドラスティックな雇用改革が期待できるのではと考えていた人は拍子抜けするかもしれない。

  ともかく、本コラムにて、その内容をチェックしてみたい。今回は全体の概要である。

 中身は40ページ弱で、指針としてはかなりのボリュームである。
 大きく総論と各論に分かれており、総論では、適用される雇用ルールについて、裁判所は個々の判断に際して典型的な日本企業に多くみられる「内部労働市場型」の人事労務管理と、外資系企業や長期雇用システムを前提としない新規開業直後の企業に多くみられる「外部労働市場型」の人事労務管理の相違を考慮することがある点を指摘している。
 雇用指針においては、この考え方に基づいて、戦略特区の企業として「外部労働市場型」を念頭に置き、日本的な「内部労働市場型」の雇用管理に加えて、「外部労働市場型」に特有な雇用管理のあり方を例示すしようというわけである。

 
各論では、グローバル企業等の関心の高い項目、紛争が生じやすい項目を中心に裁判例を類型化するとともに、関連する法制度や裁例について紹介している。特に、最もトラブルとなりやすいと考えられる解雇について多くの解説を行っている。
 そして、主要な項目において、「紛争を未然に防止するために」という欄を設け、「外部労働市場型」に特有な人事労務管理の留意事項を示している。
 これが本指針のポイントとなるはずだが、全部で5箇所しかない。ページ数にすると2ページくらいである。しかも、そのうち3つは解雇に関してほぼ同様の内容で、「・・・これだけ?」と正直思わざるを得ない。

 本指針の良い点をいえば、雇用の主要な場面で争点になりそうな事項について、代表的な判例を要領よく整理しており、どのように対処すべきかを確認するためのテキストとしては有効と思える。その意味で、戦略特区の企業だけでなく、一般企業の人事労務担当者にも役に立つのではないかと思う。

 ただ、今回の雇用指針の元々の趣旨は、雇用分野の規制改革であったはずである。それが、特区に参入する外資系企業等が日本で雇用トラブルを起こさないためのマニュアルにすり変わってしまっており、竜頭蛇尾となった感が否めない。確かに、特区参入企業の雇用条件の明確化という意味では、多少の進歩はあるのかもしれないが、大半は従来の日本のルール・慣行の指摘にすぎない。まあ、「解雇特区」や「ブラック企業特区」になるとの懸念の声もあり、落としどころとしてはこんなものかとも思えるが・・・。

 次回は、どのような「落としどころ」となったのか、各論について具体的にみていきたい。

(2014年4月14日)

 
 
 戦略特区の雇用指針について~その2 Column No.113

 前回は「雇用指針」の各論に、外部労働市場型の人事労務管理の留意事項となる「紛争を未然に防止するために」という記述が全部で5か所あることを指摘した。 今回は、これに焦点を当てながら雇用指針の各論をみていこう。

 各論は、1.労働契約の成立、2.労働契約の展開、3.労働契約の終了の3つに分かれている。それぞれさらに個別の項目を設け、日本の法制度や慣行、特徴を指摘するとともに、紛争防止のうえでポイントとなる事項や参考となる判例を示している。

1.労働契約の成立
 労働契約の成立は、(1)採用の自由、(2)採用内定の取消し、(3)試用期間、の3項目で構成されており、(1)採用の自由に関し、「紛争を未然に防止するために」の1つ目が示されている。

 外部労働市場型企業の人事労務管理を行う企業において、試用期間(新規学卒者等を除く)について紛争を未然に防止するために、管理職または相当程度高度な専門職であって相応の待遇を得て即戦力として採用された労働者であり、労働者の保護に欠けることがない場合には、例えば、以下のような内容を労働契約書や就業規則に定め、それに沿った運用実態とすることが考えられる。

◇試用期間は長期にわたらない期間(例えば、3ヶ月程度とし、労働者の同意を得て6ヶ月まで延長することができことする)こと。
◇労働者が従事する職務と期待する業績等をできるだけ具体的に記載すること。
◇試用期間終了後または試用期間中に、業績等を判断して解雇することがあることを明記すること。
◇試用期間中は定期的に勤務評価を行い、それを労働者に通知するとともに、業績に問題があれば、そのことを指摘すること。
◇解雇をする場合には、予告期間を置くとともに、雇用期間その他の事情を考慮して一定の手当を支払うこと。
 
 内容としては、企業にとってかなりレベルの高い要件を求めている。特に最後の手当の支払いは、解雇手当とは別の金銭的補償を求めており、試用期間中の労働者にそこまで考慮しなければならないかとの疑問はある。
 ただ、アメリカではレイオフの際、次のような支払いを行う慣行があり、このような制度を参照したとも考えられる。

勤続期間
支給額
4週間以下
なし
4週間から6ヶ月
1週間分の賃金
6ヶ月から2年
2週間分の賃金
※支給額は代表的な例

 日本企業の場合は退職金制度があるのでそれによるのもよいが、勤続期間の短い試用期間中は無支給が一般的だと思うので、そのような際の補償額の参考となるかもしれない。

2.労働契約の展開
 労働契約の展開は、(1)労働条件の設定・変更、(2)配転、(3)出向、(4)懲戒、(5)懲戒解雇、の5項目から構成されている。 この分野については、(1)労働条件の設定・変更において、2つ目の「紛争を未然に防止するために」が示されている。

 外部労働市場型企業の人事労務管理を行う企業において、例えば、年俸制における時間外労働・休日に対する賃金について紛争を未然に防止するために、相当程度高度な専門職であって高額の報酬を得て即戦力として採用された労働者であり、業務の性質上自己の裁量で業務を遂行することができるなど労働者の保護に欠けることがない場合には、以下のような内容を労働契約書や就業規則に定め、それに沿った運用実態とすることが考えられる。

◇時間外労働・休日労働に対する手当の支払い方法
◇報酬に時間外労働に対する手当が含まれる場合は、その旨 (割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とを明確に区分するか、または明確に区別していないが、前年度実績等からみて一定の時間外労働・休日労働が生じることが想定され、その分の割増賃金を含めて年俸額が決められていることを労使双方が認識していることが必要であることに留意。)
 
 注目すべきは、最後のカッコ書きの部分だ。
 年俸者の割増賃金は、従来の解釈では、「割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区分することができること(平成12.3.8基収78号)」が求められてきたが、外部労働市場型であれば、一定要件のもと、明確に区別していなくてもよいというのである。
 念頭にあるのは、為替ディーラーなど年収1,000万円を超えるような一部の労働者であろうが、年俸制に限らず基本給や手当に時間外割増賃金を含める場合には、その区分を明確にするというルールがあっただけに、ある意味、画期的な内容ではある。

3.労働契約の終了
 労働契約の終了は、(1)解雇、(2)普通解雇、(3)整理解雇、(4)特別な事由による解雇制限等、(5)退職勧奨、(6)雇止め、(7)退職願の撤回、(8)退職後の競業避止義務、という構成となっている。 これに関しては、(2)普通解雇の中の、①労働者の労務提供の不能による解雇、②能力不足・成績不良・勤務態度不良・適格性欠如による解雇、(3)整理解雇の3点において、「紛争を未然に防止するために」の記述が見られる。

①労働者の労務提供の不能による解雇
 外部労働市場型の人事労務管理を行う企業においては、紛争を未然に防止するために、管理職または相当程度高度な専門職であって相応の待遇を得て即戦力として採用された労働者であり、労働者の保護に欠けることがない場合には、例えば、以下のような内容を労働契約書や就業規則に定め、それに沿った運用実態とすることが考えられる。

◇労働者が健康上の理由により労働契約書等に記載された職責を相当期間果たすことができない場合には解雇することがあることを記載すること。
◇地位、功績、雇用期間その他の事情に応じて一定の手当を支払うこと。
 
②能力不足・成績不良・勤務態度不良・適格性欠如による解雇
 (前段同じ)
◇労働者の担う職務や果たすべき職責、職務の遂行や職責に必要な能力を労働契約書等にできる限り具体的に記載すること。また、記載された職務・職責を相当程度に果たすことができない場合、または一定期間、期待される評価に比して相当程度低い評価しか得られない場合には解雇することがあることを記載すること。
◇定期的に業績評価を行い、その内容を労働者に通知すること。
◇地位、功績、雇用期間その他の事情に応じて一定の手当を支払うこと。
 
(3)整理解雇
(前段同じ)
◇経営上の理由や組織の改編等による人員削減やポストの廃止など、労働者の責めに帰すべき事由以外の事由により解雇する場合があること。
◇地位、功績、雇用期間その他の事情に応じて相応の退職パッケージの提供を行うこと。

 退職パッケージとは、金銭的な補償や再就職支援などを意味している。 解雇に関して、厳しい要件を課すことに変わりはないものの、一定の場合に認めるとしたのは規制緩和の面からは多少の進歩はあったといえる。

 
これら3つを通じてポイントとなるのは、労働契約の時点で、このような解雇がありうることを労働者に認識しておいてもらうことだ。これにより、実際に解雇となった場合のトラブルは確実に減ると考えられる。
 また、これらの解雇だけでなく先に指摘した試用期間中の解雇、年俸制での割増賃金、さらにはその他の労働条件についても、外部労働市場型企業に特徴的なものがあれば、労働契約の段階で労働者としっかり話し合い、書面化しておくことが紛争を避けることの重要な手段となるはずである。

(2014年4月21日)

 
 
 戦略特区の雇用指針について~その3 Column No.114

 2回にわたって戦略特区における「雇用指針」のポイントを、外部労働市場型企業の留意点を中心に整理してきた。最後に論点をあらためて3つ提示したい。

 1つ目は、雇用指針の作成目的である、戦略特区のグローバル企業等や労働者からの雇用管理や労働契約に関する相談に実際に活用できるかという点だ。
 確かに、わが国の雇用ルールを的確に理解し、予見可能性を高めるという点では、コンパクトにまとめており、それなりに役立つという感じはする。ただ、「紛争を未然に防止するために」で示された留意事項は、画一的であいまいな点が多く、これらを企業や労働者がどのように咀嚼するかによって見解の相違が出てくると思われ、紛争は少なからず発生する懸念はある。
 解雇しうる場合について契約段階で労使が認識し合っておくことなど、一定の効果が見込めるものもあるが、雇用管理の実践や労働契約の締結にあたっての活用性は限定的ではないかと思う。

 2つ目は、今後、戦略特区以外にも活用できるかという点である。
 本指針は、あくまで戦略特区法に基づくものであるため、絶対的な根拠とまではいえないが、有力な指針にはなると考えられる。指針で示されていることは、これまでの判例を整理・類型化したものであって、戦略特区という物理的な場所だけに限定されるわけではないからである。
 したがって、戦略特区でなくても、外部労働市場型の人事労務管理を行う企業であれば、当該雇用指針に示された考え方に拠ることは問題ないと思われる。もっとも「外部労働市場型」の基準が明確にあるわけではないので、その点は注意しなければならない。

 3つ目は、もっと大胆な規制緩和を含む指針はできないかという点である。
 2回にわたって確認してきたように、本指針は、戦略特区の雇用管理について、従来とは大きく異なる取り扱いをするというものではない。元々、厚生労働省では特区の労働者だけに他と違う扱いをするのは反対という考えがあり、このような「大人しい」内容になったのだと思う。
 確かに、他分野の規制緩和と違って、ヒトに直接関わることなので大胆な改革が困難なことは理解できる。中でも、今回の雇用指針は労働者個々人の契約の問題なので、特に変えにくい点があったと思う。
 そもそも、今回の指針はトラブル防止を主眼に策定されたものであり、指針に大胆な規制緩和を期待するのは無理があるのかもしれない。 
 そのような事情を踏まえると、変えられるとすれば、労働時間など労働者に共通する労働条件について、指針というよりは法改正を伴った新たな仕組みによることが適切となるだろう。
 昨年来、規制改革会議や産業競争力会議で、労働時間除外制度や裁量労働制の見直し、労働時間貯蓄制度などの案が出ていた。
 こういったことこそ特区で試行してみれば・・・と書こうとした矢先、4月22日の政府合同会議にて、産業競争力会議から、「労働時間上限要件型」と「高収入・ハイパフォーマー型」という新たな労働時間制度が示された。その中で、早期に全国一律での展開が不可能な場合には、国家戦略特区などで速やかに検討を行うことも一案であると述べられている。
 6月発表予定の成長戦略に盛り込まれるとのことで、特区での雇用改革が進展する可能性は高まったといえる。ただし、報道によれば今回も反発は大きいようで、どうなることか行方を注目しておきたい。

(2014年4月28日)

 
 
 パートタイム労働法の改正(2014年) Column No.115

 2014年4月23日、改正パートタイム労働法が公布された。

 大改正というわけではないが、パートタイマーを雇用する企業では対応が必要となる部分もあるので、内容を整理しておきたい。

 主な改正点は次の5つである。

1.正社員と差別的取扱いが禁止されるパート労働者の対象範囲の拡大
2.「短時間労働者の待遇の原則」の新設
3.パート労働者を雇い入れたときの事業主による説明義務の新設
4.パート労働者からの相談に対応するための事業主による体制整備の義務の新設
5.その他(雇用管理改善措置違反者の公表など)
 
1.正社員と差別的取扱いが禁止されるパート労働者の対象範囲の拡大
 通常の労働者と差別的取扱いが禁止される「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」の範囲を拡大することになった(法9条)。

 現行では、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」というのは、
(1)職務の内容が通常の労働者と同一
(2)人材活用の仕組みが通常の労働者と同一
(3)無期労働契約を締結している
 の3つに該当する場合であったが、(3)の要件がなくなり、(1)(2)が同一であれば、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」に該当し、差別的取扱いが禁止されることになった。

 同一性を判断する要件について変更はないので、改正前と同様に、
①職務の内容は、実際に従事する中核的な業務が実質的に同じか、また、業務に伴う責任の程度は総合的に比較し、著しく異ならないか
②人材活用の仕組みは、人事異動の有無や範囲(転勤の有無、転勤の範囲、職務内容の変更・配置の変更の有無、職務内容の変更・配置の変更の範囲)を比較して、異ならないか
 という2点から判断することになる。

 ちなみに、平成23年9月の労政審議会・雇用均等分科会に提出された「今後のパートタイム労働対策に関する研究会報告書」によると、改正後の2要件に該当する事業所は、パート労働者を雇用している事業所の3.2%、パート労働者総数に占める割合は0.4%である。
 改正前(それぞれ1.3%、0.1%)に比べて拡大しているとはいえ、全体でみると少数であり、大半の企業には影響はないと思われる。

2.「短時間労働者の待遇の原則」の新設
 短時間労働者の待遇について、通常の労働者の待遇と相違させる場合には、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないというパート労働者の待遇に関する一般原則が創設された(法8条)。

 このような考え方を念頭に、パート労働者の雇用管理の改善を図るのが趣旨のようだが、具体的な内容や合理性の目安は定かではなく、企業としてどのような対応をとればよいか今ひとつ判断しがたい。 後でも述べるが、指針等である程度の具体的内容を示さないと、実効性は低いと思われる。

3.パート労働者を雇い入れたときの事業主による説明義務の新設
 
パート労働者を雇用したときは、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する措置の内容について、事業主が説明する義務を導入する(法14条)。

 改正にあたって厚生労働省が出したリーフレットでは、【事業主が説明することとされる雇用管理の改善措置の内容の例】として、
 ○賃金制度はどうなっているか
 ○どのような教育訓練や福利厚生施設の利用の機会があるか
 ○どのような正社員転換推進措置があるか など
 を挙げている。

 
これまでも法13条にて、「雇用管理の改善等に関する措置の決定にあたって考慮した事項」について説明義務があった。まぎらわしいので、相違点を整理すると下記のようになる。

 
旧13条の規定
新14条の規定
誰に
求めがあったパート労働者
雇用したパート労働者全員
何を
雇用管理の改善等に関する措置の決定にあたって考慮した事項
雇用管理の改善等に関する措置の内容
具体的内容
・労働条件の文書交付等
・就業規則の作成手続
・待遇の差別的取扱い禁止
・賃金の決定方法
・教育訓練
・福利厚生施設
・正社員への転換推進措置
・待遇の差別的取扱い禁止
・賃金の決定方法
・教育訓練
・福利厚生施設
・正社員への転換推進措置
 
 今般、雇用時の説明として求められることになったのは「内容」である。また、労働条件の文書交付や就業規則の作成手続に関しては、雇用時の説明義務には含まれないことに注意したい。

 どこまで説明すればよいかだが、「考慮した事項」と同様、パート労働者が納得するまで説明することは求めていないと考えられる。
 
 なお、旧13条の説明義務は、新14条第2項として存続する。

4.パート労働者からの相談に対応するための事業主による体制整備の義務の新設
 事業主は、パート労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければならないこととなる(法16条)。

 リーフレットによれば、【相談に対応するための体制整備の例】として、
 ○相談担当者を決め、相談に対応させる
 ○事業主自身が相談担当者となり、相談対応を行う など
 が挙げられている。

 パート労働者からの相談については、これまでは「何かあったら上司に」と、直属の上司が窓口になっているケースが多かったのではないかと思う。今後も日常的な仕事の相談などは、それで構わないのだが、雇用管理などより根本的な事項の相談のために、公式の窓口を明確化する必要が出てきたということである。
 体制整備というからには、ある程度権限・責任のある者に窓口を一本化することが求められるだろう。
たとえば人事部長とか総務課長、小規模企業であれば社長自らを担当者とするなど、企業の実態に応じて設置すればよいと考えられる。もちろん、「まずは直属の上司を通して」という形でも問題はないだろう。

5.その他
① 雇用管理の改善等に関する措置の規定に違反している事業主に対して、厚生労働大臣が是正の勧告をした場合に、事業主がこれに従わなかったときは、事業主名を公表することができる規定を創設した(法18条)。
② 虚偽報告等に対する過料  雇用管理の改善等に関して厚生労働大臣から報告を求められた事業主が、報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした場合には、20万円以下の過料が科せられることになった(法30条)。

 
施行は、公布の日(平成26年4月23日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日となっており、過去の例からすると、本年10月1日か来年の4月1日といったところだろう。

 
以上、改正のポイントを整理してきたが、企業の対応について、今一つはっきりしないという印象である。
 リーフレットでは、
 ・通勤手当を一律に均衡確保の努力義務の対象外とすることは適当でない旨を明らかにすること
  ・事業主は、パートタイム労働者が事業主に説明を求めたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと 
 など、省令または指針等で対応する予定である旨を記している。
 そのような指針等が示されれば、企業の具体的な対応の仕方もある程度明確になるのではないかと思う。

(2014年5月5日)

 
 
 第三者行為災害による労災~その2 Column No.116

 コラム(No.111)にて、第三者行為災害の概要と申請の仕方について整理をした。少し間が空いてしまったが、今回は具体的な調整の仕方とその他の留意事項をまとめてみたい。

 1.具体的な調整の仕方
  第三者行為災害における損害賠償と労災保険給付の支給調整方法については、「求償」「控除」の2種類がある。

 「求償」とは、政府が労災保険給付と引き換えに被災者等が第三者に対して持っている損害賠償請求権を取得し、この権利を第三者(交通事故の場合は保険会社など)に直接行使することである。
 被災者等への損害のてん補は、政府によってではなく、災害の原因となった加害行為などに基づき損害賠償責任を負う第三者が最終的には行うべきだからである。
 これらのことから、労災保険給付が第三者の損害賠償より先に行われると第三者の行うべき損害賠償を結果的に政府が肩代わりした形となるので、労災保険法第12条の4第1項の規定によって、政府は労災保険給付に相当する額を第三者(交通事故の場合は保険会社など)に請求することになる。

 
一方、「控除」とは、同一の事由により第三者の損害賠償が労災保険給付より先に行われていた場合に、政府がその価額の限度で労災保険給付をしないことをいう。
 同一の事由により、第三者から損害賠償を受け、さらに労災保険給付が行われると、損害が二重にてん補され、被災者等は実際の損害額よりも多くの支払いを受けることになる。そのため、損害賠償を先に受けた場合、労災保険給付については、同一の事由に相当する損害賠償額を差し引いて給付を行い、損害の二重てん補が生じないようにしている。
 ここでいう同一の事由とは、労災保険給付の対象となる損害項目(治療費、休業による損失、傷害による損失、介護費用、労働者の死亡による損失、葬祭費)のことで、慰謝料や修理費等は同一の事由とはならないため、支給調整は行われない。つまり、これらについては自賠責保険等への請求が可能ということである。
 なお、休業(補償)給付と同時に支払われる特別支給金(給付基礎日額の20%)は保険給付ではないので、支給調整の対象とはならず、満額支給される。
 
2.その他の留意事項
 次にいくつか留意事項を示しておく。

●自賠責保険等への請求権がある場合
 自動車事故の場合、労災保険給付と自賠責保険等(自動車損害賠償責任保険または自動車損害賠償責任共済)による保険金支払いのどちらか一方を先に受けることになる。どちらを先に受けるかについては、被災者等が自由に選べる。
 自賠責保険等からの保険金を先に受けた場合(自賠先行)には、自賠責保険等から支払われた保険金のうち、同一の事由によるものについては労災保険給付から控除される。
 また、労災保険給付を先に受けた場合(労災先行)には、同一の事由について自賠責保険等から支払いを受けることはできなくなる。

●示談を行う場合
 示談とは、当事者同士が損害賠償額について双方の合意に基づいて早期に解決するため、話し合いにより互いに譲歩し、互いに納得し得る損害賠償額に折り合うために行われるものである。
 
被災者等と第三者との間で、被災者等が受け取る全ての損害賠償についての示談(いわゆる全部示談)が、真正に(錯誤や強迫などではなく両当事者の真意によること)成立し、被災者等が示談内容以外の損害賠償の請求権を放棄した場合、政府は、原則として示談成立以後の労災保険給付を行わない。
 たとえば、労災保険への請求を行う前に100万円の損害額で以後の全ての損害についての請求権を放棄する旨の示談が真正に成立したとする。その後、被災者等が労災保険給付の請求を行い、仮に労災保険の給付額が将来100万円を超えることが見込まれたとしても、真正な全部示談が成立しているため、労災保険からは原則として給付が行なわれないので注意しなければならない。
 災害やケガの状況にもよるが、一見有利な条件に思われても、性急に示談に応じるのは絶対に避けるべきといえる。

●派遣労働者に係る第三者行為災害
 派遣労働者に発生した労働災害では、第三者の直接の加害行為がない場合でも、以下の①・②の両方に該当するときは、派遣先事業主を第三者とする第三者行為災害として取り扱われる。このため、労働基準監督署から第三者行為災害届など必要な書類の提出を求められることもある。

 ① 派遣労働者の被った災害について、派遣先事業主の安全衛生法令違反が認められる場合
 ② 上記①の安全衛生法令違反が、災害の直接原因となったと認められる場合

●政府が求償権の行使を控える場合
 次の3つのいずれかに該当する場合、政府は求償権を行使しないとされる。

 ① 同一事業主に雇用される同僚労働者の加害行為による災害
 ② 同一事業主の事業場を異にする労働者の加害行為による災害
 ③ 同一作業場で作業を行う使用者を異にする労働者の加害行為による災害
 
 ①②は事業主が労災保険料と損害賠償の二重負担するのは不合理だからである。③は、常に立場が逆転する可能性があり、相互に損害賠償責任を負う危険性を共有していると考えられるからである。したがって、③の適用を受けるには、単に場所的に同一の場所にいるだけでなく、相互に危険性を共有しているという実態が具備されなければならないとされている。

 以上2回にわたって第三者行為災害の要点をまとめてきた。
 たたでさえ厄介なことが多い労働災害に、第三者が関係することで事態はますます複雑化する。担当者としては、上記を参考に冷静な判断を行い、自社の社員が被害者・加害者いずれになったにしても、できるだけ損失を減らすよう対応をしてほしい。

(2014年5月12日)

 
 
 ハラスメント対応は初動が大切~その1 Column No.117

 労務管理で問題となるハラスメントには、主にセクシュアルハラスメントとパワーハラスメントの2つがある。
 ハラスメントが起きると、被害者はもちろんのこと、職場全体の生産性が低下したり、対外的なイメージが低下したりして、企業にも大きな損失を与える。
 このため、今日ではハラスメントへの対応は、人事労務管理の重要課題の1つとなっており、大企業はもちろん、中堅・中小企業でもハラスメントが発生したときの対応枠組みを整備するところが増えている。

 ハラスメントが起きたときのプロセスとして基本的なのは、

 (1)相談・苦情の受付
 (2)事実関係の調査・確認
 (3)事実の判定
 (4)解決策の決定と通知
 (5)再発防止措置の実施

 である。いずれも重要な事項だが、特に大事なのは(1)の相談・苦情の受付である。なぜなら、(1)での対応を誤ると、申立者の望まぬ方向へ事態が進んだり、プライバシーが守られなかったりして、トラブルが拡大するリスクが大きくなるからだ。ハラスメントが起きたときには初動が重要になるということだ。

 筆者の経験した例を2つ紹介しよう。

 男性社員Aさんから、上司からパワハラを受けたとの申告が受付窓口である人事部長にあった。その男性社員は、かつて同僚とトラブルを起こしたことがある「問題社員」であった。ヒアリングをした人事部長は、それが頭にあることから、あなたにも落ち度があるのではという態度で接し、Aさんの言い分を否定したり、加害者とされる上司をかばう発言をしたりした。迷った末に申告したのにそのような扱いを受け、会社に対する不信感を抱いたAさんは、以降、この件に関して会社に敵対的な態度で臨むことになった。
 
 女性社員Bさんから、先輩社員からセクハラを受けたと申告があった。Bさんとしては、内密に、ことを荒立てずに進めてほしかったのに、窓口となった人事課長は、その意向を確認せず、面談後すぐに先輩社員を呼び、事実関係のヒアリングを行った。先輩社員は事実を否定するとともに、「無実を晴らす」ため、申告書に書かれた内容を独自に調査し始めた。このため、Bさんがセクハラの申告をしたことが社内に知れ渡り、さらにウソの申出をしたとの噂が広まった。

 いずれのケースも、申立て後のヒアリングが不適切であったといえる。Aさんには、まず、相手の言うことを丁寧に聴くというカウンセリング的な対応が必要であったし、Bさんには、今後どういう方向で解決してほしいのかを確認する必要があった。また、プライバシー保護には万全を図るべきであった。

 最初の段階でどう対応すべきか、基本的なことを理解していれば、その後のトラブルは防げたはずである。では、どのような対応をすべきか、次の機会に整理してみたい。

(2014年6月2日)

 
 
 ハラスメント対応は初動が大切~その2 Column No.118

 ハラスメント対応において、初動で必要な事項をあらためて確認しておこう。

1.申立て者のケア
 まずは申し立てた社員のケアを最優先することが重要である。
 社員からハラスメントの訴えがあると、「あなたにも問題があるとのでは?」とか、「神経質になりすぎでは?」というような発言をするケースがある。中には、「会社なのだからそのくらい我慢しなきゃ」と自分の考えを押し付けたり、「私の若いころはもっとひどかった」と的外れの経験談を語り始めたりすることもある。
 これでは不安な気持ちを抱いている申立て者のメンタルをますます悪化させるおそれがある。 このような2次被害を防ぐために、まずは申立て者の気持ちを受けとめるとともに、心身の状態を確認することに注力すべきである。
精神的に不安定な状態となっていれば、医療機関などへの受診を促すことも必要となる。
 なお、対応はなるべく複数の者で行い、申立て者と同性の人を対応者に含めることが望まれる。

2.申し立てのあったハラスメントの確認

 プライバシーには十分に配慮すること、申立てにより不利益な取扱いをしないことを説明したうえで、申し立てのあったハラスメントの確認を行う。
 確認するのは、ハラスメントの内容、被害の程度、証拠の有無、誰かに相談したか、管理者の対応、職場の状況などである。
 このとき、申立て者の言い分に疑義をはさんだり、否定したりせず、まずはしっかりと耳を傾ける姿勢が求められる。質問をするときも、詰問調になったり、無理に聞き出したりしないようにする。

3.解決に向けての意向の確認  
 どのような解決の仕方を望むか、申立て者の意向を確認する。
 ハラスメント対応をきちんと整備している企業では、通知、調整、調停、調査といった解決パターンを設けていると思うので、それに従って、いずれの方法を選ぶか、申立て者と一緒に検討する。
 解決方法をパターン化していないのであれば、下図のように申立て者の匿名性、事実確認の有無、解決の仕方という3つの観点から、方向性を考えるとよいだろう。このとき、とりあえずⅠで対応し、改善が見られなければ、ⅡやⅢに移行するという進め方でもOKだ。また、被害が深刻と考えられる場合は、申立て者を休業させるなど臨機応変の対応が求められる。

 
申立て者の匿名性
事実確認の有無
解決の仕方
確保
基本的にしない
加害者に注意を促す
加害者に公開
加害者に行う
注意、謝罪、配転等
必要な範囲で公開
加害者・関係者に行う
謝罪、配転、懲戒処分等

 ハラスメントの初動においては、このようにまずは申立て者の立場に立った対応が必要である。もちろん、これは最初の申立て者からのヒアリングにおいてのことであり、その後の加害者とされる社員への事実確認等では、加害者と決めつけず客観的な態度で進めるのはいうまでもない。

(2014年6月9日)

 
 
 退職勧奨にあたっての留意事項 Column No.119

 退職勧奨とは、会社が労働者に退職の働きかけを行うことであり、経営上の必要性から会社が退職勧奨をすること自体は認められている。ただし、

 (1)対象者の基準に問題がある場合
 (2)退職勧奨のやり方に問題がある場合

 には、違法となるケースがある。このとき、会社は不法行為を行ったとして損害賠償責任を負うことになる。

 
(1)の典型的な例は、女性だけ、あるいは労働組合員だけを対象に退職勧奨をするといった差別的な取扱いをするケースである。また、育児・介護休業を取得した者や妊娠した者などに対して、これを理由とする退職勧奨も不利益取扱いとして禁じられる。能力や業績などを理由にすることは認められるが、他者や過去の例と比べて退職勧奨を受けるほど劣っていない場合には問題が生じる可能性もある。
 なお、労災休業期間と産前産後休業期間およびその後の30日間は、解雇は制限されるが退職勧奨は可能である。

 
(2)は、退職勧奨の域を超えて「退職強要」となっている場合である。典型的な例としては、労働者が退職を受け入れるまで、多数回かつ長時間にわたって執拗に説得を繰り返すようなケースだ。また、多人数で取り囲んで説得する、名誉感情を傷つけるような発言をするなどの例も挙げられる。 このように、説得の内容、態様、回数、時間などが社会的常識の範囲から逸脱するものであり、労働者が精神的な苦痛を受けると容易に考えられる退職勧奨は違法となる。
 また、直接的な説得以外にも、近年話題となった「追い出し部屋」のように、対象者から仕事を取り上げて精神的に追い詰めるなど、退職に向けて外堀を埋めるようなやり方も違法性が高い。

 
なお、退職勧奨を拒否した労働者に、嫌がらせの配転を行ったり、昇給をしなかったりするなどの不利益取り扱いも違法となる。

 
退職勧奨においては、労働者は勧奨に応ずるかどうかを自由に意思決定することができ、勧奨に応ずる義務はない。そのことを踏まえて、退職勧奨を実施する必要がある。

 強圧的な言動や人格を傷つけるような言動はパワーハラスメントに該当したり、メンタルヘルス障害を発生させたりするおそれも出てくる。そうなると、勧奨する社員が懲戒の対象となったり、提訴され損害賠償請求の対象となったりしかねない。行き過ぎた退職勧奨は、勧奨する側にもリスクがあることを認識すべきである。

 
実際に退職勧奨を行うのは人事部長や部門長が多いと思うが、人事部長はともかく、部門長は上記のような留意点・リスクをよく理解していない可能性が高い。不用意な言動でトラブルを惹起しないよう、実施にあたっては事前に留意事項の打ち合わせを行ったり、マニュアル化したりしておくことも重要となるだろう。

(2014年6月16日)

 
 
 労働安全衛生法の改正(2014年) Column No.120

 6月19日、ストレスチェックの義務づけなどを柱とする「労働安全衛生法の一部を改正する法律」が、衆議院本会議にて全会一致で可決・成立した。この法案は、2011年の旧政権時に提出され、一時は廃案となったものの、いくつかの修正を受けて今国会に再提出され、ようやく日の目を見たことになる。

 ともかく、改正のポイントを確認しておきたい。主要な改正点は次の5つである。

1.化学物質管理のあり方の見直し
 
一定の危険性・有害性が確認されている化学物質(安全データシート(SDS)の交付が義務づけられている640物質)について、事業者に危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)を義務付ける。

 SDSの交付義務がある物質は640あるが、そのうち116物質は特にリスクが高いものとして特別規則による個別規制が行われている。今回の法改正は、個別規制のない524物質にもリスクアセスメントを義務づけることで、安全性を高めようとするものである。大阪の印刷会社で起きた胆管がんの問題が契機となった改正事項である。

2.メンタルヘルス対策の充実・強化

●労働者の心理的な負担の程度を把握するための、医師又は保健師による検査(ストレスチェック)の実施を事業者に義務づける。
●事業者は、検査結果を通知された労働者の希望に応じて医師による面接指導を実施し、その結果、医師の意見を聴いた上で、必要な場合には、作業の転換、労働時間の短縮その他の適切な就業上の措置を講じなければならないこととする。

 今回改正の目玉となる事項で、今後、マスコミ等で取り上げられることになるだろう。ストレスチェックの流れとしては以下のようになる。

 ① 医師・保健師がストレスチェックを実施
 ② 労働者に結果を通知
 ③ 労働者が事業者に医師による面接指導の申出
 ④ 事業者が医師に面接実施を依頼
 ⑤ 医師による面接指導の実施
 ⑥ 事業者は医師から意見聴取
 ⑦ 事後措置の実施

 
本規定は、従業員50人未満の事業場については当分の間努力義務とされた。メンタルヘルスについては、元々小規模企業での取り組みが遅れていることから、労働団体などはその点の不備を指摘している。

3.受動喫煙防止対策の推進

●受動喫煙を防止するため、事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずることを事業者の努力義務とする。 
●受動喫煙防止対策に取り組む事業者に対し、国は、喫煙専用室の設置の促進等の必要な援助に努めるものとする。

 3年前の当初の法案は「義務化」であったが、今回の法案では「努力義務」いう形で落ち着いた。努力義務とはいえ、この規定は全事業所が対象となるため、受動喫煙防止対策が遅れている中小企業では一定の効果が見込め、受動喫煙に悩む労働者には朗報となるだろう。

4.重大な労働災害を繰り返す企業への対応

●安全衛生関係法令に違反し、一定期間内に同様の重大な労働災害を複数の事業場で繰り返し発生させた企業に対し、改善計画の作成等を指示できる仕組みを創設する。 ※具体的な要件は省令等で定める予定
●企業が計画の作成指示や変更指示に従わない場合や計画を実施しない場合は勧告を行い、勧告に従わない場合に企業名を公表する仕組みを創設する。

 これまでも事業所レベルでは、安衛法78条に基づき、都道府県労働局長が安全衛生改善計画の作成を指示することができたが、その上位版として、厚生労働省大臣が全社的な改善計画を求めることができるようになった。同様の重大な労災が同一企業の別の事業場で繰り返し発生する事案が散見されることを受け、新規に追加されることになった規定である。

5.外国に立地する検査機関等への対応

ボイラーなど特に危険性が高い機械を製造等する際に受けなければならないこととされている検査等を行う機関(登録検査・検定機関)のうち、日本国内に事務所のない外国に立地する機関についても登録を受けられることとする。

6.規制・届出の見直し等

●規模の大きい工場等で、建設物、機械等の設置・移転等(生産ライン等の新設・変更)を行う場合の事前届出を廃止する。 
●特に粉じん濃度が高くなる作業に従事する際に使用が義務づけられている電動ファン付き呼吸用保護具を型式検定・譲渡制限の対象に追加する。

 施行期日は、公布日から、6は6月、3・4・5は1年、2は1年6月、1は2年を超えない範囲内において政令で定める日となっている。
 ストレスチェックは施行まで1年6月の猶予があるが、具体的にどのような仕組みで実施すべきか、企業として対応しなければならないことは多い。今後、行政からも情報提供がなされると思うので、本コラムでもフォローしていきたい。

(2014年6月23日)

 
 
 過労死防止法が成立 Column No.121

 過労死等防止対策推進法が6月20日の参議院本会議にて全会一致で可決、成立した。

 当初は、より総合的・計画的な推進を企図する「基本法」として野党主導で提出されたものの、これは撤回され、「推進法」に形を変えて与党から再提出されたものである。
 どのような経緯でそうなったのかは不明だが、法案の内容はそれほど大差なく、「基本法」とするにはテーマとして小さすぎるということかもしれない。もっと勘ぐれば、現在政府が進めている労働時間規制の緩和との兼ね合いから、基本法という形で大々的に取り上げるには支障があったということかもしれない。
 実際、このタイミングで成立させたのは、労働者や世間に向けてアピールの意図があるとの見方もできる。労働時間の長さと賃金とのリンクを切り離そうとする新たな労働時間制度で最も懸念されるのは、際限のない長時間労働で、労働団体などからは「過労死促進制度」と反発を受けている。そういった反応に対して、過労死防止法を制定したことで、「労働者のこともきちんと考えていますよ」と訴えられるからである。

 
それはともかく、主な内容は次の通り。

● 「過労死等」の定義(第2条)
● 過労死等防止対策を効果的に推進する責務が国にあること(第4条)
● 地方公共団体や事業主は過労死等防止対策への協力に努めること(第4条)
● 11月を過労死等防止啓発月間とすること(第5条) 
● 政府は、過労死等防止対策の効果的推進のため、過労死等防止対策の大綱を策定し、国会に報告するとともに国民に公表すること(第7条)
● 国は、過労死等の調査・研究等を行うこと(第8条)
● 国・地方公共団体は、過労死等を防止するための国民啓発活動、過労死等の相談体制の整備等を行うものとすること(第9・10条)
● 厚生労働省に過労死等防止対策推進協議会を設置すること(第12条) 
● 政府は、過労死等に関する調査研究等の結果を踏まえ、過労死等の防止のために必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずること(第14条)
 
 ご覧のように、内容的には「○○基本法」によくあるパターンである。
 企業の視点から見ると、何らかの規制や義務が生じるわけではない。事業主の責務といえは、第4条の「国及び地方公共団体が実施する過労死等の防止のための対策に協力するよう努めるものとする」ことだけで、要するにとりあえずは何もしなくてもよいということである。
 第14条により、「過労死等の防止のために必要な法制上の措置」がとられる可能性はあるが、実施されるとしても先の話である。

 ということで、法としての実効性は今のところ不明である。
 立法の推進役となった「全国過労死を考える家族の会」など関係者の悲願がかなったのは喜ばしいが、実際に1人でも被害者を減らせるよう、この法律が形ばかりのものにならないことを願う。もっとも過労死が日本社会からなくなり、もはや防止法は不要となったという意味で形骸化するのならばうれしいのだが。

(2014年7月7日)

 
 
 裁量労働制に関する調査(事業場編) Column No.122

 6月に閣議決定された成長戦略(「日本再興戦略」)において、雇用制度改革の1つとして「裁量労働制の新たな枠組みの構築」が挙げられている。
 そこでは、「現行の裁量労働制が十分に普及せず、労働者が結果的に自律的に働くことができていないという指摘を踏まえ、裁量労働制の本来の趣旨に沿って、労働者が真に裁量を持って働くことができるよう、見直しを行う」と述べられている。
 確かに、裁量労働制を実施している企業はあまり見かけない(特に企画業務型)が、実際、現状の裁量労働制は企業にどのように受け入れられているのだろうか。
 ちょうどよいタイミングで、6月30日にJIL(労働政策研究・研修機構)から、裁量労働制に関する調査結果が公表されたので、それを見てみよう。調査は事業場調査労働者調査の2つがあり、今回は事業場調査のポイントを5つ概観してみる。

1.「みなし時間数」と「平均実労働時間数」の実態

● 専門業務型も企画業務型も、「みなし時間数」と「平均実労働時間数」が一致している業務はほとんど見られない。
 
 どのような不一致が生じているかといえば、いずれの業務においても「みなし時間数」よりも「平均実労働時間数」が多い傾向にある。たとえば、「みなし時間数」を8時間と定めてはいるものの、実際の労働時間は9時間超という実態がうかがえ、ある意味、予想通りの結果といえる。

2.特別手当の有無と金額
 
● 裁量労働制適用者に対してのみ支払われる特別な手当制度があるのは57.5%となっている。

 これは、思ったより少ないという印象である。

● 特別手当の金額設定基準は、複数回答で、「通常の所定労働時間を超える残業代相当分」が圧倒的に多く75.7%であり、次いで、「業務遂行の結果や成果」が25.3%となっている。
● 平均額は、専門業務型で64,600 円、企画業務型で78,300 円となっている。
● また、中央値では、専門業務型で58,000 円、企画業務型では78,000 円である。
 
 企画業務型の方が高めであるのは、適用者に大企業が多いことや中堅ベテラン社員が多いことなどが影響しているのではないかと思われる。

3.導入手続きの負担感
 
● 法令上定められている諸手続について、専門業務型は、「現行制度でよい」が最も高い割合の74.0%を示しているものの、「有用でない手続があり、煩雑である」との回答も13.7%ある。
● 企画業務型は、「不明」回答が多い点で専門業務型の回答とは異なるものの、「現行制度でよい」が38.2%と比較的高く、次いで、「有用でない手続があり、煩雑である」が28.9%となっている。

 やはり、専門業務型に比べて企画業務型の負担感が相当に高いことがうかがえるが、それでも「意外と低いな」という印象である。企画業務型の導入・運用手続きの煩雑さは結構なものと思うが、慣れてしまえばそうでもないということだろうか。

4.対象業務の範囲の広さ
 
● 対象業務の範囲の広さについて、専門業務型、企画業務型ともに、「現行制度のままでよい」が最も高い割合で、それぞれ、67.9%、40.8%となっている。
● しかし、「不明」回答を除き、「狭い」と回答した割合も、専門業務型では17.0%、企画業務型では21.6%みられる。
● ちなみに「広い」は、それぞれ1.3%と1.4%である。 

 これを見るかぎり、対象業務の範囲に対する不満は思ったより少ないようだ。専門業務型はともかく、企画業務型は「狭い」が7割~8割くらいに達するのではないかと考えていたが。
 政府の改革の狙いもここにあるはずで、「現行制度のままでよい」<「狭い」という結果が出てほしかったのが本音だろう。逆に、労働者団体などは、このデータをもって反対することは十分に考えられる。

5.導入の効果
 
● 導入の効果としては、複数回答で、「効率よく仕事を進めるように従業員の意識が変わった」が最も割合が高く57.6%、次いで、「従業員のモチベーションが向上した」が27.8%、「労働時間短縮につながった」が19.5%、「人件費の抑制につながった」が18.8%、 「多様な人材の活用につながった」が15.5%などとなっている。
● 「特に効果として感じていることはない」は13.8%である。

 今回は会社側の意見なので当然好意的な回答が多い。これに対して労働者側は効果をどのようにとらえているかは次の機会に見てみたい。

(2014年7月14日)

 
 
 裁量労働制に関する調査(労働者編) Column No.123

 裁量労働制の調査について、前回は事業場調査を確認した。今回は労働者調査のポイントを概観してみる。


1.1 ヵ月の実労働時間

● 「専門業務型」は、「企画業務型」「通常の労働時間制」に比べて「150 時間以上200 時間未満」の割合が低く、「200 時間以上250 時間未満」「250 時間以上」といった長い労働時間の割合が高い。
● 「企画業務型」も「通常の労働時間制」と比較すれば労働時間が200 時間以上の割合が高い。

 裁量労働制といえば長時間労働というイメージがあるが、それを裏付けている。データを詳細に見ると、事業場調査と同様、定められたみなし労働時間よりも実際の労働時間の方が長い傾向にあることがわかる。

2.裁量労働制適用者の働き方
 
● 「専門業務型」は、「企画業務型」や「通常の労働時間制」に比べて、「深夜の時間帯に勤 務」「土曜日に勤務」「日曜日や祝日に勤務」「自宅で仕事」「勤務時間外の連絡」「休日が週に1日もない」について「よくある」割合が高い。
● 「企画業務型」の働き方は、それぞれの項目についての「よくある」割合を見る限り、「専門業務型」よりも「通常の労働時間制」の働き方に近い。
● 日々の出退勤について見ると、「一律の出退勤時刻がある」割合が、「専門業務型」では42.5%、「企画業務型」では49.0%となっており、9割を超える「通常の労働時間制」と比較した場合には低い割合であるものの、裁量労働のみなし労働時間制が適用されていることを考えれば必ずしも低いとは言えない。
● 「専門業務型」「企画業務型」では、「出退勤の時刻は自由だが、出勤の必要はある」割合が37.4%、34.9%と「通常の労働時間制」に比べて高い。

 「専門業務型」の方が「企画業務型」よりも、深夜労働や休日労働が多く、労働時間に関しては、労働条件が過酷であることがうかがえる。
 「一律の出退勤時刻がある」割合が40~50%を占めているのは意外である。裁量労働制の趣旨からすれば、「出退勤の時刻は自由」が大半を占めるのが本筋なはずである。

3.仕事による家庭生活
 
● 健康への影響を見ると、「仕事に熱中して時間を忘れてしまう」「仕事に区切りをつけられない」「退社後は何もやる気になれない」「時間に追われている感覚がある」「自分自身や家庭のことを行う時間がない」「家庭や自身の用事中も仕事が気になる」「仕事上の考え事・悩みでよく眠れない」「この働き方を続けていけるか不安」などの状況について、「専門業務型」では、「企画業務型」「通常の労働時間制」と比べて、「よくある」割合、「よくある」「ときどきある」を合わせた割合が高い。
● 「企画業務型」は、「よくある」割合を見る限り、こうした状況について「通常の労働時間制」と大きな違いはない。

 この結果からも、「専門業務型」の方が「企画業務型」よりもハードワークであることがうかがえる。

4.裁量労働制適用者の収入
 
● 「企画業務型」において、「300 万円未満」「300~500 万円未満」の割合が低く、「700~900 万円未満」「900 万円以上」など、収入レベルの高い者の割合が高い。
● 「専門業務型」も、「通常の労働時間制」と比較すれば500 万円以上の割合が高い。

 「企画業務型」の方が高収入なのは、事業場調査の回にも指摘したように、大企業が多いことや中堅ベテラン社員が多いためと思われる。

5.対象業務の範囲
 
● 「専門業務型」で66.8%、「企画業務型」で69.3%が「現行制度でよい」と回答している。
● 「狭い」は、「専門業務型」で4.9%、「企画業務型」で7.5%、「範囲が不明確」は、「専門業務型」で17.8%、「企画業務型」で12.5%である。

 事業場調査と比べると、「現行制度でよい」は「専門業務型」ではほぼ同じだが、「企画業務型」では30ポイントほど高めである。「専門業務型」の対象業務については、会社も労働者も現状のままでよいという意見が大勢を占めており、見直しがどうなるか注目したい。

6.裁量労働制の適用者となった理由
 
● 「専門業務型」「企画業務型」とも、「部門または職種全体が適用されることとなっている」の割合が高いが(それぞれ73.6%、59.1%)、「仕事の裁量が与えられるので、仕事がやりやすくなる」「自らの能力の有効発揮に役立つと思った」といった他の理由も挙げられている。
● こうした理由が挙げられる割合は、企画業務型の方がやや高い。

 企画業務型は労働者の同意が必要とされており、適用の諾否は労働者が決められることになっているが、事実上、従わざるを得ない雰囲気があることがうかがえる。

7.裁量労働制適用の期待実現度
 
● 「仕事の裁量が与えられるので仕事がやりやすくなる」については「専門業務型」40.7%、「企画業務型」45.1%が、「概ね期待どおり」としている。
● 「仕事を効率的に進められるので、労働時間を短くできる」については、「専門業務型」49.1%、「企画業務型」38.3%が、「あまり期待どおりとなっていない」と回答しているなど、裁量労働制の適用に際して、期待した内容によって適用後の期待実現度には違いが見られる。
● 適用の満足度については、「満足」「やや満足」を合わせると、「専門業務型」で7 割弱、「企画業務型」で8 割弱が満足と感じている。
● 「やや不満」「不満」と回答した人の不満の点をみると、「労働時間(在社時間)が長い」(専門業務型51.9%、企画業務型45.1%)、「業務量が過大」(専門業務型49.4%、企画業務型40.0%)、「給与が低い」(専門業務型44.8%、企画業務型31.1%)などが挙げられている。

 結果だけを見ると、意外に満足度は高いと感じる。この点は、裁量労働制拡大論の味方になりそうである。ただ、前回紹介した会社側の結果に比べれば満足度合いは低く、その辺りは労使間のギャップがあるようだ。
 裁量労働制を機能させ、自律的に働いてもらうという制度本来の目的を実現するには、労働者の不満を解消させる取り組みが重要となるのは間違いない。

(2014年7月14日)

 
 
 再離職後の雇用保険の基本手当 Column No.124

 先日ある方から、退職後しばらくして再就職したものの社風が合わず、再度辞めたいと思っているが、雇用保険はもらえるのだろうかというご相談があった。
 この方の場合は、前職の基本手当の残額を受給できるという結論だったが、前職での被保険者期間、退職の理由、求職の申し込みの有無、基本手当受給の有無、再就職までの期間、再就職後の被保険者期間など、さまざまな条件によって結果は変わってくる。
 今回はいくつかチェックポイントを確認することで、再離職後の基本手当がどうなるのかを整理してみたい。

 
まず、前提として確認しておきたいのは受給資格の原則である。基本手当を受給する資格を得るには、次のいずれかの要件を満たさなければならない。

(1)算定対象期間(原則として離職の日以前2年間)に、被保険者期間が通算して12 カ月以上あること。
(2)特定受給資格者または特定理由離職者は、離職の日以前1年間に被保険者期間が6カ月ある場合も認められる。

 なお、疾病や負傷による受給要件の緩和などの例外があるが、説明をシンプルにするためそれらは省略する。

 
次に、受給資格でもう1つ押さえておきたいのは受給期間の原則である。

 受給期間(原則として離職日の翌日から1年間)を経過した者には、受給資格はない。

 つまり、被保険者期間が何十年あろうと、退職して1年以上経てば、受給資格はなくなるということである。これも、一定年齢の就職困難者・・定受給資格者の例外や、妊娠、出産、育児等の理由による受給期間の延長があるが、詳細は省略する。

 
以上を踏まえ、再就職した場合の確認事項で主要なものを指摘しよう。

(1)算定対象期間は、離職と再就職を繰り返した場合も原則としてそれぞれ通算される。ただし、次の場合は通算されず、算定対象期間は再就職後の期間だけとなる。
① 前職から再就職までに1年以上の期間が空いている場合
② 受給資格の決定の際、前職離職時に求職の申し込みがあった場合(基本手当の受給の有無は問わない)

(2)算定基礎期間は、離職と再就職を繰り返した場合も原則としてそれぞれ通算される。ただし、次の場合は通算されず、算定基礎期間は再就職後の期間だけとなる。
① 前職から再就職までに1年以上の期間が空いている場合
② 前職離職時に基本手当を1日分でも受給した場合

 ここで、(1)の「算定対象期間」と(2)の「算定基礎期間」の違いに注意してほしい。「算定対象期間」とは、受給資格を判断する際の被保険者期間のことであり、「算定基礎期間」とは、基本手当の給付日数を決定する際に用いる被保険者期間のことである。

(3)受給資格者が、受給期間内に再就職し、新たに受給資格を得た後に離職したときは、前職の受給期間は消滅し、再就職後の受給資格に基づいて新たな受給期間が設定されるが、この場合、前職の受給資格に基づく基本手当は支給されない。

(4)受給資格者が受給期間内に再就職し、その期間内に受給資格を得ずに再び離職した場合は、前職の受給期間に係る受給資格に基づいて基本手当を受給できる。

 再就職後に受給資格を得たかどうかで、対応が違ってくることに留意したい。(4)は、冒頭に記した事例のケースである。

(5)受給資格は再就職後の離職理由に基づいて決定される。

 たとえば、自己都合で退職して一般受給資格者となった者が再就職し、受給資格を得て整理解雇となったときは特定受給者となる。

(6)待期は1受給期間内に1回をもって足り、受給期間内に再就職して新たな受給資格を取得することなく再び失業した場合で、最初の離職後において既に待期を満了している者は待期をしなくてよい。

(7)受給資格者が受給期間内に再就職し、受給資格を得ることなく再離職し、前職の受給資格により基本手当の支給を受けようとする場合、再離職に係る離職理由による給付制限は行わない。

 最後に給付制限について次のルールもある。待機が満了せずに再就職した場合なので、実際にはレアケースになると思うが念のため示しておく。
 
(8)受給資格者が( 当該離職理由が自己の責めに帰すべき重大な理由 によって解雇された場合及び正当な理由なく自己の都合により退職した場合に限る) 、待期が満了しないまま再就職し、2カ月以上経過した後、新たな受給資格を取得することなく再離職した場合については、給付制限の期間を1カ月とする。
 また、2回以上再離職を繰り返し、かつ、新たな受給資格を取得することがない場合においては、当該事業所に被保険者として雇用されていた期問を合算して2カ月以上あるときには、給付制限の期間を1カ月とする。

 これらのルールを当てはめれば、たいていのケースにおいて、基本手当の受給の可否は確認できるはずなので、参考にしてほしい。

(2014年8月11日)

 
 
 育児休業復帰者の配置転換 Column No.125

 変化の激しい今日、育児休業を終えて社員が会社に復帰する際、元の業務がなくなっていたり、人員に余剰が出ていたりするケースがままある。このとき、復帰社員を配置転換することはできるだろうか? もし、可能であるならばどのような要件が求められるだろうか?

 これについては、

1.配転命令に有効性があるか?
2.育児休業復帰者として配転可能か?

 の2段階に分けて検討する必要がある。以下、確認してみよう。

1.配転命令に有効性があるか?
 まずは、自社の労働者として一般的に配転が可能かどうかの検討になる。育児休業復帰云々の前に、たとえば、労働契約上、勤務場所や職種が限定されていれば配転は困難となる。配転命令が有効かどうかの要件については、本コラムNo.97「配転命令の有効性」を参照していただきたい。

2.育児休業復帰者として配転可能か?
 育児介護休業法では、育休終了後における就業が円滑に行われるよう、労働者の配置その他の雇用管理等に関して必要な措置を講ずるよう事業主の努力義務を定めている(法22条)。

 必要な措置の具体的内容は、育休法に基づく「指針」に示しており、その7(1)に、育休後においては原則として原職または原職相当職に復帰させることを配慮するよう求めている。
 したがって、原則的には配転はすべきできないということになる。ただし、原職復帰を法的に義務づけているわけではないので、配転命令に合理性があれば配転は認められると考えられる。

 
配転命令の合理性については、

① 配転の必要性
② 就業規則等の定め
③ 配転による社員の不利益の程度

 などを検討すべきだろう。たとえば、

 ①について、全社的な経営合理化を行っており、原職に復帰の余地がない
 ②について、育児休業規程に「復帰の際、別の職場・職務に就けることがある」旨を定めている
 ③について、配転先は、通勤や仕事内容について配慮している
 などの事実があれば、配転命令には合理性があると考えられる。

 
また、法10条により、育児休業者に対する不利益取扱いは禁止されているが、指針11(3)ホでは、配置の変更が不利益な取扱いに該当するかの判断要素を次のように述べている。

 
配置の変更前後の賃金その他の労働条件、通勤事情、当人の将来に及ぼす影響等諸般の事情について総合的に比較考量の上、判断すべきものであるが、例えば、通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務又は就業の場所の変更を行うことにより、当該労働者に相当程度経済的又は精神的な不利益を生じさせることは、(2)ヌの「不利益な配置の変更を行うこと」に該当すること。

 先の配転命令の合理性をクリアすれば、不利益な配転にも該当しないと考えられるが、念のためにこの観点からのチェックもしておく必要がある。

 
なお、法26条では、配置の変更で就業場所の変更を伴う場合は、子の養育が困難とならないように配慮する義務を定めている。指針14において、当該労働者の子の養育の状況を把握する等の具体例を示しているが、育休復帰者の場合は、よほどの事情がない限り転勤は避けるべきだろう。

(2014年9月8日)

 
 
 就業規則に関する調査 Column No.126

 先日、労働政策研究・研修機構から「労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査」の結果が公表された。この調査で興味深いのは、就業規則に関する調査が行われている点である。
 就業規則というのは、少なくとも人事部門では日常的なものと思うが、これについての調査はあまり見たことがない。したがって、人事パーソンも他社がどのように就業規則を作成しているのかなど、知らないケースも多いと思われ、関心もあるのではないだろうか。
 ということで、今回はJIL調査結果のうち、就業規則に関連する事項を概観してみたい。なお、調査対象は、常用労働者50人以上を雇用している全国の民間企業約5,800社である。

1.就業規則の作成状況

・就業規則の作成は、「企業全体として共通で作成している」との回答が93.0%と多数を占める。

 個々の事業所ごとは6.1%と少数である。その中にも、実質的に本社と同じものが多数あるだろうから、よほど大規模な事業所でない限りは、全社共通の就業規則を使っているというのが実態と考えられる。

2.就業規則の周知

・周知方法としては、(複数回答)、「入社時に説明している」が52.5%と最も高く、次いで「各職場に掲示したり、備え付けたりして従業員が自由に見られるようにしている」が50.7%、「パソコンでいつでも見られるようにしている」が37.7%などとなっている。

 今の時代、電子閲覧がかなりの割合になるのではと思っていたが、そうでもないようだ。中小企業などでは職場に1部置いておけばよく、わざわざ電子化する必要性もないということだろう。

3.非正規社員の就業規則

・パートタイマーなど非正規従業員の就業規則については、「パートタイマー等非正規従業員専用の就業規則を作成している」は53.8%、「一般の就業規則の中にパートタイマー向けの規定を設けている」は14.2%である。

 これも、意外と少ないという印象である。正社員と非正規社員の就業規則を明確に区別していないと思われる30%ほどの企業は大丈夫なのだろうか。たとえば、パート社員から、就業規則にの規定に基づいて数百万円の退職金を求められたという話も聞く。非正規社員用の就業規則を定めないのは非常に危険である。

・規定作成の際にパートタイマー代表などの意見を聴いたかを尋ねたところ、「パートタイマー代表の意見聴取あり」(「パートタイマー代表の意見、一般の従業員代表の意見いずれも聴いた」22.7%と「パートタイマー代表の意見だけを聴いた」6.0%の合計)は、28.7%となっている。

 労働基準法では、一般の従業員代表の意見があればよいので、こういう結果となるだろう。ただし、パート労働法では、パートタイマーの意見聴取をする努力義務を定めている。パートタイマーの職場参加意識を高めるためにも、これは実施すべきと思う。
 
4.就業規則による労働条件の変更

・労働条件の変更が「あった」企業に対して、どのような手続きをとったか尋ねたところ(複数回答)、「就業規則(社内規程含む)を変更した」が92.6%と最も高く、次いで「労使協定を締結又は変更した」が40.9%などとなっている。

 労働条件の変更には、主に、個別労働者との協議、労働協約、就業規則の3つがあるが、ほとんどは就業規則によってなされていることがわかる。ちなみに、個別労働者との協議は14.5%、労働協約は13.6%である。

5.就業規則改訂の意見聴取

・意見聴取方法については、「従業員の過半数を代表する者の意見を聴いた」が74.9%、「過半数組合の意見を聴いた」が12.6%となっている。

 過半数組合があればその意見を聴くはずなので、過半数組合がいかに少ないかを物語っている。

・過半数組合や従業員の過半数代表者から、就業規則の改訂案に対して、意見や希望が表明されたことがあるかを尋ねたところ、「就業規則の内容について意見が表明されたことがある」は23.8%、「就業規則自体については意見がなかったが、就業規則に規定のない労働条件や就業環境について希望が表明されたことがある」が11.3%だった。「特段の意見・希望が表明されたことはない」は62.6%となっている。

 就業規則に対する一般社員の無関心さがうかがえる。そもそも、このような意見聴取がなされていることすら、多くの社員は知らないのではないかと思う。手続きを進める人事部門からすると、形ばかりの作業になっているケースが大半だろうと推測する。

6.就業規則の変更をめぐる紛争

・ここ5年間において就業規則の改訂に関して、労働組合との間で意見が異なり紛争になったことがあるかを尋ねたところ、「もともと労働組合はない」、無回答を除き集計すると、紛争が「あった」との回答は2.9%だった。

・ここ5年間において就業規則を変更した企業に対して、就業規則で変更した事項について、個別の従業員との間で紛争が起こったことがあるかを尋ねたところ、紛争が「あった」のは1.6%だった。

 これもまた、無関心ぶりというか無抵抗ぶりがうかがえる。5年間で2%前後なのだから、紛争が起きるのはレアケースということである。
 別の見方をすると、もし、5年の間に数件も紛争があるようならば、労働条件あるいは変更の仕方に関して何らかの問題があるといえるかもしれない。

(2014年10月7日)

 
 
 ストレスチェックに関するQ&A Column No.127

 労働安全衛生法の改正により、2015年12月から従業員50人以上の企業にストレスチェックが義務づけられることになった。
 これに関して、厚生労働省からQ&A集が出されている。安衛法改正のQ&Aなのだが、全部で84項目あるうちの36項目をストレスチェックが占めており、世間や企業、労働者の関心が高いことを踏まえての対応と思われる。
 本コラムでは、それらの中で、実務において重要となりそうなものや興味深いものをいくつかとりあげて解説したい。なお、クエスチョン番号はQ&A集の番号である。

Q1.ストレスチェック制度により、労働者がうつ病か否かが事業者に把握されてしまうのでしょうか?
 
 ストレスチェック制度(ストレスチェック及び面接指導)は、労働者のストレスの程度を把握することにより、労働者自身のストレスへの気付きを促すとともに、職場改善につなげていく一次予防を主目的とした制度であり、精神疾患の早期発見を行うことを一義的な 目的とした制度ではありません。このため、ストレスチェックの内容も、あくまで労働者のストレスの程度を把握するための内容とする予定であり、精神疾患かどうかを把握する検査内容とすること想定していません。

 労働者にとって、今回の制度の懸念事項の1つだろう。厚労省の回答では、目的が違うと言っているが、ストレスの度合いを測るものとはいえ、度合いが高ければ精神疾患の可能性も高くなるわけで、労働者や会社側が「自分(あるいは社員)がうつ病」との認識を持つことは十分にありうる。この点は、精神疾患についての理解が一般社会でまだまだ不足しているなか、時間をかけて制度の趣旨が浸透していくのを待つしかないのかもしれない。

Q2.ストレスチェックの結果を解雇理由に使うなど、事業者が悪用するおそれはないのでしょうか?

 ストレスチェック制度では、ストレスチェックの結果は、労働者の同意なく事業者に伝えてはならいこととされおり、ストレスチェックの実施者や実施事務に従事した者に対しては守秘義務が課されています。また、ストレスチェックの結果を通知された労働者が面接指導を申し出ことを理由とした不利益な取扱いを禁止する旨の規定が設けられているなど、事業者による不合理な不利益取扱いがなされないような仕組みとしています。

 この点は、労働者にとってストレスチェックの受診をためらわせる最大の理由となるだろう。男女雇用均等法などの法律でも見られるように、不利益取扱いを禁止しているわけだが、これだけでは悪用を防止できず、実際に不利益取り扱いをする企業は出てくると思われる。もちろん、あからさまにストレスチェックの結果を理由とすることはないにしても、結果を元に、さまざまな理由をつけることは考えられる。また、不利益取扱いといかないまでも、ストレス度の高い社員に対して、経営者などがマイナスの印象を抱くケースは少なからずあると思う。

Q5.店舗の従業員数は50人未満なのですが、法人全体で従業員数50人を超える場合には義務となるのでしょうか?
 
 法人単位ではなく、事業場ごとの従員数が50人未満か否を確認しますので、法人全体で従業員数50人を超える場合であっても、事業単位みたときに従員数が50人未満であれば、義務とはなりません。この考え方は、現行の産業医の選任義務の対象事業場と同様です。

 安衛法の原則に従い、適用はあくまで事業場単位ということである。ただ、同一の企業で実施するところと実施しないところが出てくるのは、社員の公平性のためにも避けた方がよいだろう。Q&Aでも、「義務とならない小規模事業場の中でも、例えば、大企業の支店などであって、本社による統括管理等により実施体制が十分整っている場合には、そのような事業場についてはストレスチェックを実施していただくことが望ましい」としている。

Q6.全ての労働者が対象となるでしょうか?

 ストレスチェックの対象労働者は、一般健康診断の対象労働者と同じく、常時使用する労働者とする予定です。具体的には、期間の定めのない契約により使用される者(期間の定めのある契約により使用される者の場合は、1年以上使用されることが予定されている者、及び更新により1年以上使用されている者)であって、その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であれば対象労働者となります。 なお、派遣労働者については一般定期健康診断と同じく派遣元事業主においてストレスチェックを実施していただくことになります。

 対象者は、一般健康診断の対象労働者と同じということである。また、派遣
労働者は派遣元で実施するとのことで、これらは特に問題ないといえる。

Q8.事業者は、希望する労働者にだけストレスチェックを実施すれば良いのでしょうか?

 労働者にストレチェックを受ける義務は課されていませんが、労働者のセルフケアを促進していくためにも、労働者が希望するか否かにかかわらず、事業者は、対象となる労働者全員にストレスチェックを受ける機会を提供する必要があります。

 YESなのかNOなのか、わかりづらい回答である。結局のところ希望する労働者にだけ実施すればよいのだが、要は実施の仕方が問題になるということだろう。つまり、 「ストレスチェックの実施を希望する方は申し込んでください」という希望者募集方式ではなく、「ストレスチェックを実施しますので受診をしてください。ただし、希望しない方は受診しなくてもかまいません」という原則全員受診方式が望ましいということではないかと思う。

Q26.面接指導の結果は、労働者の同意なく事業者が把握しても構わないのですか?

 面接指導は、労働者の申出に基づくものであり、面接指導の結果、事業者は必要に応じて労働者の健康を確保するため就業上の措置を講じなければならないため、面接指導を実施した医師からその結果を入手することとなっており 、労働者の同意なく、その結果を把握することができます。

 改正法66条の10第3項で、ストレスチェックの結果、労働者が医師による面接指導を希望した場合に企業に実施義務があることを定めたが、この場合は、結果を事業者が把握できるということである。
 結果の認識について整理をすると次のようになる。
①原則として、ストレスチェックの結果は事業者に知られることはない。
②ただし、医師による面接指導を希望した場合は、結果を事業者に知られる。
 トラブルを避けるためにも、この2点は、労働者にしっかりと周知しておく必要があるだろう。

(2014年10月14日)

 
 
 長時間労働削減の政府要請 Column No.128

 10月9日、塩崎厚生労働大臣が日本経済団体連合会等の経済団体に、「長時間労働削減をはじめとする『働き方改革』に向けた取組に関する要請書」を送った。

 内容としては、長時間労働の抑制や休暇取得促進のためには、これまでの働き方を見直し、効率的な働き方を進めていくことが必要であり、各々の企業において、長時間労働を前提としたこれまでの労働慣行を変え、定時退社や年次有給休暇の取得促進等、それぞれの実情に応じた取り組みを行うことを望むというものである。 

 これに対して、経団連がどのように対応したかをHPで確認してみると、

会員各位におかれましては、競争力の源泉である人材が意欲と能力を十分発揮できる環境整備に向け、すでに様々な取組みを進められていることと存じますが、改めて、別添要請書をご確認いただき、恒常的な長時間労働の見直しや年休取得促進などの取組みを推進していただきますようお願い申しあげます。

 という”
業務的”な書面を会員企業に送ったにすぎない。 最近盛り上がっている「女性の活用」に比べると、随分温度差があるようだ。
 ちなみに女性活用に関して経団連では、「女性の活躍・推進に関する企業の取り組み事例集(13年9月)」「女性活躍アクションプラン(14年4月)」「女性の役員・管理職登用に関する自主行動計画(14年7月)」など、2013年から立て続けに提言・報告を行っている。これらは安倍首相の方針をくみ取っての対応であることは明らかだ。今後、長時間労働削減に対して何らかのアクションを起こす可能性もあるが、どうも期待薄という感じである。

 このような温度差が生じるのは、今回の要請が首相ではなく厚労大臣から出されたこともあるだろうが、背景には、長時間労働削減に対して政府が女性活用ほど熱心に取り組んではいないことがある。
 もちろん、民主党政権を含め、これまでのどの内閣よりも長時間労働削減をアピールし、行動に移していることは認める。元々は野党主導であったとはいえ、「過労死防止推進法」を成立させ、11月から施行されることにもなった。
 だが、本質的な目的はどちらかといえば、労働時間改革などの「働き方改革」にあることは間違いない。長時間労働削減はその付属品であり、うがった見方をすれば、アメとムチのアメの方だと思える。

 長
時間労働は労働者だけでなく、企業にも次のようなデメリットがある。

・社員のモチベーションの低下
・業務効率の低下
・社員の定着率の低下
・企業イメージの低下(下手をするとブラック企業のレッテルを貼られる)

 それにもかかわらず、長時間労働がなくならないのは、

・企業側は、雇用量を柔軟に調整できないため、ミニマムの業務量に合わせて雇用している
・労働者側には、少々の無理を言われても忍耐強く取り組んでしまう国民性がある

 という労使双方の特性がうまくマッチしているからだと思う。

 
このように“日本の文化”となっている長時間労働に風穴を開けるには何が必要か? まずは経営者の問題意識を高めることだ。
 人事労務の多くの制度にいえることだか、特に長時間労働の削減は、トップが本気で取り組まなければうまく進まない。時短に成功している企業の話しを見聞すると、必ずと言っていいほどトップ主導で進められている。中には、社長自らが消灯し、強制的に仕事を終わらせて回ったという話もある。
 だが、残念ながら、時短に関心を持つ経営者は少なく、むしろ時短というのは売上や利益を減らすものとみなす傾向がある。

 そのようなトップに、少なくとも時短に関心をもってもらうための1つの方策が、社会的なムーブメントである。その意味で、今回の経済団体への政府要請は意味があるのだが、いかんせんインパクトに欠けている。マスコミの取扱いも非常に小さい。
 女性活用のように、首相自らがもっと積極的にアピールをしてほしいものである。確かに地味なテーマで内閣支持率の上昇にもほとんど役立たないかもしれないけれど、救われる社員は多いと思うのだが。

(2014年10月20日)

 
 
 育児介護休業に関する労使協定 Column No.129

 育児介護休業法では、その対象者などについて、①原則、②例外、③労使協定により除外できる者、の3つが混在しており、内容も似ているので、混乱しがちである。誤った規定を作成したり、運用をしたりしないよう、項目ごとにここで整理しておきたい。

1.育児休業の対象者(第2条・第5条・第6条)
<原則>
 育児のために休業することを希望する労働者であって、1歳に満たない子と同居し、養育する者
<例外>
(1)日雇労働者
(2)期間雇用者は、次のいずれも満たす者が対象
① 入社1年以上であること
② 子が1歳に達する日を超えて雇用関係が継続することが見込まれること
③ 子が1歳に達する日から1年を経過する日までに労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと
<労使協定により除外できる者>
(1)入社1年未満の労働者
(2)申出の日から1年以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者
(3)1週間の所定労働日数が2日以下の労働者

2.介護休業の対象者(第2条・第11条・第12条)
<原則>
 要介護状態にある家族を介護する労働者
<例外>
(1)日雇労働者
(2)期間雇用者は、次のいずれも満たす者のみ対象
① 入社1 年以上であること
② 介護休業を開始しようとする日(以下「介護休業開始予定日」という。)から 93日を経過する日(93日経過日)を超えて雇用関係が継続することが見込まれること
③ 93日経過日から1年を経過する日までに労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと
<労使協定により除外できる者> 
(1)入社1年未満の労働者
(2)申出の日から93日以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者
(3)1週間の所定労働日数が2日以下の労働者

3.子の看護休暇の対象者(第16条の2・第16条の3)
<原則>
 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者
<例外>
日雇労働者
<労使協定により除外できる者>
(1)入社6か月未満の労働者
(2)1 週間の所定労働日数が2日以下の労働者

4.介護休暇の対象者(第16条の5・第16条の6)
<原則>
 要介護状態にある家族の介護その他の世話をする労働者
<例外>
日雇労働者
<労使協定により除外できる者>
(1)入社6か月未満の労働者
(2)1週間の所定労働日数が2日以下の労働者

5.所定外労働の免除の対象者(第16条の8) 
<原則>
 3歳に満たない子を養育する労働者
<例外>
 ・日雇労働者
<労使協定により除外できる者>
(1)入社1年未満の労働者
(2)1週間の所定労働日数が2日以下の労働者

6.時間外労働の制限の対象者(第17条・第18条)
<原則>
 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者又は要介護状態にある家族を介護する労働者
<例外>
(1)日雇労働者
(2)入社1年未満の労働者
(3)1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
<労使協定により除外できる者>
 なし

7.深夜業の制限の対象者(第19条・第20条)
<原則>
 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者又は要介護状態にある家族を介護する労働者
<例外>
(1)日雇労働者
(2)入社1 年未満の労働者
(3)申出に係る家族の16 歳以上の同居の家族が次のいずれにも該当する労働者
 ① 深夜において就業していない者(1か月について深夜における就業が3日以下の者を含 む)であること
 ② 心身の状況が申出に係る子の保育又は家族の介護をすることができる者であること
 ③ 6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産予定でなく、かつ産後8週間以内でない者であること
(4)1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
(5)所定労働時間の全部が深夜にある労働者
<労使協定により除外できる者>
  なし

8.育児短時間勤務の対象者(第23条)
<原則>
 3歳に満たない子を養育する労働者
<例外>
(1)日雇労働者
(2)1日の所定労働時間が6時間以下である労働者
<労使協定により除外できる者>
(1)入社1年未満の労働者
(2)週の所定労働日数が2日以下の労働者
(3) 業務の性質又は業務の実施体制に照らして所定労働時間の短縮措置を講ずることが困難と認められる業務として別に定める業務に従事する労働者

9.介護短時間勤務の対象者(第23条)
<原則>
 要介護状態にある家族を介護する労働者
<例外>
・日雇労働者
<労使協定により除外できる者>
 なし

 ご覧のとおり、日雇労働者はすべて対象外である。なお、
これらの労使協定の労基署への届出は不要である。

(2014年10月27日)

 
 
 女性活躍推進法案で大切なこと Column No.130

 10月17日、政府は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」を閣議決定し、臨時国会での成立を目指すことになった。

 
法案の主な柱は次の2つ。

① 301人以上の企業への女性の活躍に関する行動計画の策定と公表の義務付け
② 行動計画の内容が一定基準以上の場合に、認定を付与する制度の創設

 施行は、平成28年4月1日で、平成38年3月までの10年間の時限立法とされている。

 ①については、数値目標は一律でなく、女性の採用比率や勤続年数、労働時間状況などを分析したうえで、それぞれが独自に定める。
 ②は、次世代法における「くるみんマーク」の付与のようなものと考えられる。

 
女性活用は、業種や業態による違いや企業ごとの差もあり、法律で一律的な規制をかけることには異論もあるが、女性の活用がなかなか進まない現状にあって、実質的に差別的扱いを受けているケースも多いことから、このような法による推進もあってよいと思う。

 
具体的な内容については、実際に法律が成立したとこにあらためて検討するとして、今回指摘したいのは、法律を制定するのもよいが、根本的にもっと大切な事項があるのではないかということである。

 それは何かといえば、女性の活用は男性の理解と協力なしでは成り立たないということである。 ここでいう”男性”には2つの内容があり、1つは企業でともに働く男性であり、もう1つは夫である。ここでは、後者について考えてみたい。

 企業の中で女性が活躍するには、今回の法の対象となる業務体制や業務内容だけでなく、プライベートも重要となる。端的に言えば、家事負担をいかに少なくするかである。

 公益財団法人家経済研究所の「第21回消費生活に関するパネル調査」では、妻の仕事時間が増えても、夫の家事・育児時間は増えていないことが報告されている。

 
仕事時間
家事・育児時間
仕事時間
家事・育児時間
2012年
6時間39分
4時間18分
9時間50分
43分
2013年
7時間51分
3時間59分
9時間53分
41分
増減
1時間12分
-19分
3分
-2分

 原因として1つ考えられるのは、夫に家事・育児をする時間的余裕がないということだろう。家事をしようにも、会社に縛られて身動きがとれないのだ。妻は夫に比べれば、まだ余裕があるので、結局、妻が負担せざるを得ない。
 これに加えて、「男は仕事・女は家事」という役割意識の問題も依然あると思われる。同じように正社員で働いていても、家事をするのは妻という話はよく耳にする。

 
近年はイクメンが注目されていることもあって、夫の育児への関与は高まっているようだが、第18回同調査では、子どもの成長とともに家事をしなくなるとの報告もなされている。

 
平日・休日ともに関与
休日のみ関与
無関与
未就学
63%
32%
5%
小学生
52%
29%
18%
中学生
31%
37%
31%

 これも、1つは企業内での地位や役割が高まって仕事一辺倒になってしまうことと、もう1つは夫の役割意識の表れだろう。

 女性を活用することになれば、当然労働時間も増える。女性の労働時間が増えたからといって、その分男性の労働時間が減るとは思えず、家事時間もそんなに減らせず、結局負担するのは女性ということになるのは明らかである。
 この辺りのことを放置して、女性活用はありえない。

 
政治とカネの問題で国会は紛糾しているが、地方創生とともに重要法案と位置づけられている女性活躍推進法は成立しそうである。法案が通れば、政権支持率回復へのアピール材料となるし、派遣法改正などと違って野党も反対はしにくい。
 ただ、形式だけを整えて「女性が輝く社会」の実績をアピールするのは勘弁してほしい。法は推進のための手段にすぎず、本丸は男性の意識と行動を変えることである。企業でともに働く男性、そして家庭での夫の意識をどれだけ変えられるかだ。
 これについては法律でどうこうする問題ではない。政府には、その点をもっと強調してほしい。正直、世の中の男性を敵に回すくらい言ってほしいものだ。それくらいの言動が伴えば、この法案をもっと評価できるのだが。

(2014年11月4日)

 
 
 会社は社員の配転希望に沿う必要があるか Column No.131

 多くの企業では、社員からの自己申告などを通じて、現在の職務・勤務地を継続したいか、それとも配置転換を希望するかの確認をしている。
 この情報は、人事異動の際の参考となるが、希望をしたからといって願いがかなえられるわけではない。大半の社員はそのことを了解し、たいした期待もしていない。
 ところが、中には、職場の人間関係や家庭の事情などから、配転を切望するケースもある。
 このとき、会社はそのような社員の希望に配慮する必要はあるのだろうか。万一、配転が行われないことで何らかのトラブルが生じた場合、法的な責任を負う必要があるのだろうか。今回は、これについて検討してみたい。

 
まず、確認しておきたいのは、企業には経営上、広範な人事権があることだ。
 配置転換もその1つで、一般的には配転にあたって必ずしも社員の希望に沿う必要はない。社員の希望に沿わなければならないとすると、会社として適正な人員配置ができなくなるからだ。これは原則論として理解できるだろう。

 
とは言え、社員の希望を全く無視して人員配置ができるわけではないと考えられる。

 1つは、法の定めによるものである。
 
 まず、労働契約法第3条では、労働契約は労働者および使用者が仕事と生活の調和に配慮して締結すべきことを定めている。
 もっと具体的なものとしては育児・介護休業法第26条で、労働者の配置転換にあたっては育児・介護の状況に配慮するよう義務付けており、法に基づく指針では、「労働者本人の意向を斟酌すること」を求めている。想定しているのは、「会社が配置転換をさせる場合」であるが、法の趣旨からして、「社員が希望する場合」も含まれると考えられる。
 さらに、労契法第5条や労働安全衛生法第3条の安全配慮義務から、健康上の問題やセクハラ・パワハラなどがあるときには、被害者の希望があれば配置転換の配慮は求められるだろう。
 こういった特殊な事情がある場合には、社員の配転希望を考慮しなければ、企業に法的な責任が生じる可能性が出てくる。

 もう1つは、権利の濫用である。

 あくまで配置転換命令についてであるが、判例では、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を及ぼすような配転命令は、権利の濫用として無効となるとされている。
 この考え方を応用すれば、社員の配転希望を考慮しないことが、社員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を及ぼす場合は、会社の対応に問題が生じる可能性がある。

 ちなみに、配置転換命令に関する判例では、

・病気の家族3人の面倒を自ら見ていた場合
・病気の子ども2人と近隣の体調不良の両親の面倒を妻と2人で見ていた場合
・子ども2人を共稼ぎの配偶者とともに看護していた場合

 などが「著しい不利益を負わせる」と判断されている。

 逆に、配転によって、

・単身赴任せざるを得なくなる
・子供の送迎等に支障が生じる

 などは「著しい不利益とまではいえない」とされている。
 ここで検討しているのは、社員から異動したいという希望であることから、「労働者が甘受すべき程度」は配転命令のときに比べて高くなるのは確かだろう。

 
それはともかく、配転希望に沿うかどうかは、

・配転希望の理由
・現在の職場の実態
・希望先の状況や適性
・現在の職場での勤務期間
・いつから希望をしているか

 などから、「不利益の程度」と「労働者が甘受すべき程度」を比較検討することになる。 会社の対応に法的な問題が生じるかどうかは、さらに会社の規模、組織体制、会社の配転の実態なども判断要素となるだろう。

 
いずれにしても、会社としては、配転希望に相応の理由があるのであれば、実際に配転するかどうかはともかく、何らかの考慮は必要と考えられる。
 たとえば、次善の策として、希望地に近い勤務場所への異動や、特別の休暇や帰省の費用負担を認めるなどの措置も検討すべきかもしれない。
 こうした対応は、法的な責任を免れるとともに社員の理解も得られ、モチベーションの観点からも望ましいといえるだろう。

(2014年11月25日)

 
 
 パートへの年次有給休暇の計画的付与 Column No.132

 年次有給休暇の計画的付与は、労使協定を結ぶことにより、年休のうち5日を超える部分について、労使間で定めた特定の時季に年休を取得させるものである。

 具体的な方法には、事業場全体での一斉休暇、班別の交替休暇、計画表による個人別休暇などがある。 このうち、事業場全体での一斉休暇は夏季休暇などに使われたりするが、パートタイマーに適用するときには注意が必要である。
 なぜなら、パートタイマーは、年休の権利がない、あるいは権利はあっても「5日を超える」という計画的付与の日数に満たない場合があるからだ。
 もちろん、これは正社員にも当てはまるが、パートタイマーは、

① 週の労働日数や労働時間が少なく、当該ケースが生じやすい
② 時給制の場合が多い

 ことから、要注意となるのである。以下、説明したい。

 
まず押さえておきたいのは、事業場全体での一斉休暇の場合、年休の権利のない者を休業させたときには、休業手当を支払う(昭和63.1.1基発第1号)か、付与日数を増やす等の措置が必要(昭和63.3.14基発第150号)となることである。つまり、無権利者にとって年休の計画的付与は、会社都合による休業と同様であり、賃金補償が求められるのである。

 
具体的事例で考えてみよう。
 
 ● 夏季休暇として、お盆の時期に土日を挟んだ5日間を計画的付与とする。
 ● 週3日勤務で、まだ年休の権利がないパートAさんがいるとする。

 このとき、Aさんには、

① 休業手当として賃金の6割以上を支給する
② 有休の特別休暇を付与する

 のいずれかが必要ということになる。この点をあらかじめ労使協定で定めておかなければならない。

 
大半のパートタイマーは時給制なので、本来であれば、ノーワークノーペイの原則から、その日の賃金は無支給となるはずだが、この場合は、少なくとも6割以上を支給しなくてはならないのである。完全月給制の正社員ならともかく、パートタイマーの場合はどうも納得がいかないという使用者もいるのではないかと思う。

 
それを避けたいのであれば、少し裏技的になるが、パートタイマーについてはあらかじめ休日としておくことである。 すなわち、パート就業規則で、
 
 ● 夏季休暇5日間・・・日程は3月末までにカレンダーで明示する。

 等の規定を設けておき、計画的付与の日程が決まったときに、同時にカレンダーを示すのである。
 なお、この場合、パートタイマーには労働義務がなくなるので、万一、何かの都合で計画的付与の時季が変更となったりしても出勤義務はない。出勤させるには、休日振替等の措置が必要となってくる。

 
パートタイマーに関しては、週の労働日数の問題もある。つまり、週3日勤務など正社員よりも週の労働日が少ない者に連続5日間の計画的付与をした場合、年休の消化日数は何日になるかという問題である。
 常識的に考えれば、5日のうち2日は労働義務がないのだから、消化日数は3日ということになるが、誤って5日消化してしまうケースがあるかもしれない。この点を明確にしておくため、労使協定上に、
 
 ● 週の所定労働日数が5日に満たない場合は、週の所定労働日数を夏季休暇に充当するものとする。

 といった条項を設けておくことも一法である。

(2014年12月22日)

 
 
 始末書未提出への対応 Column No.133

 懲戒処分の1つに譴責(けんせき)がある。譴責とは、始末書を提出させ、将来を戒めるものである。企業によっては戒告という場合もある。
 譴責は、一般的に処分の中では一番軽いものだが、社員が処分を不服に思うなどして始末書を提出しなかったとき、企業はどう対応すべきだろうか。まずは、それを理由に懲戒処分を行うことができるか考えてみたい。

 判例では、

 「個人の意思の自由は最大限に尊重されるべき」との理由から、始末書提出拒否をもって懲戒処分を行うことはできない(「豊橋木工事件」名古屋地1973年3月14日)

 といった否定説が多数である。

 「労働者の人格を無視し、意思決定ないし良心の自由を不当に制限するものでない限り、使用者は非違行為をなした労働者に対し、謝罪の意思を表明する内容を含む始末書等の提出を命じることができ」、これに従わない場合は、懲戒処分を行うこともできる(「西福岡自動車学校事件」福岡地1995年9月20日)

 との肯定説もあるが、少数派である。

 
以上から、 未提出をもって新たな懲戒処分を行うことはリスクが高く、避けた方がよいと考えられる。
 また、執拗な提出の督促等もしない方がよい。 労働者は使用者から身分的、人格的支配を受けるものでなく、提出の強制は、個人の意思の自由の尊重を侵害するおそれがあるからだ。

 
未提出は労働者側にも以下のリスクがあり、未提出により労働者が一方的に得をすることもないと考えられる。

・未提出の事実は残り、今回の件は反省をしていない、あるいは反省が不足しているとの判断になること
・昇進・昇格等の際のマイナス材料になること
・今後、同様の事態が発生したとき、提出したときと比べて、重い処分を科される可能性があること

 ちなみに、譴責処分4回とそれに伴う始末書の未提出による解雇を認めた判例もある(「カジマ・リノベイト事件」東京高2002年9月30日)。

 
ただ、未提出のまま事態を放置し、うやむやにするのは好ましくないので、賞罰委員会などできちんと対処し、記録を残しておく必要がある。
 具体的には、委員会を招集し、

・状況や経緯を報告する
・判例の調査や弁護士、社労士等の専門家の意見を聴取する
・今後の対応を決定する

 ことなどである。そして、決定内容にかかわらず、委員会として督促の文書を送ることも必要である。督促の内容は提出を強制するような内容にならないよう配慮したい。また、送付は1度でよいだろう。

(2015年1月6日)

 
 
 ホワイトカラーエグゼンプションの具体的内容 Column No.134

 一定要件を満たす労働者を対象に、労働基準法上の労働時間規制を除外するホワイトカラーエグゼンプション制度の具体的内容が固まってきた。

 
1月16日、労働政策審議会の労働条件分科会が会合を開き、今後の労働時間法制の在り方について、報告書骨子案をもとに議論した。

 報告書骨子案は、

1.働き過ぎ防止のための法制度の整備等
2.フレックスタイム制の見直し
3.裁量労働制の見直し
4.特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル労働制)の創設
5.その他
6.制度改正以外の事項

 からなるが、最も注目されるのは、4の「高度プロフェッショナル労働制」の創設である。いわゆるホワイトカラーエグゼンプションであるが、骨子案に基づいてあらためて定義をすると、

「一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、長時間労働を防止するための措置を講じつつ、時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外した新たな労働時間制度」

 ということだ。特に注意したいのは「深夜」の部分である。
 労働時間の適用除外者として、これまで代表的なのは管理監督者だったが、管理監督者にも深夜労働割増賃金の支払いは必要とされていた。新制度では、これも除外されるということで、ある意味画期的な制度である。

 以下、骨子案に述べられた項目ごとに内容を見てみよう。

(1) 対象業務
 対象業務は、「高度の専門的知識等を要する」や「業務に従事した時間と成果との関連性が強くない」といった性質を満たすものとし、具体的に、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究開発業務の5つを例示した。
 「研究開発業務」は広範にわたる可能性はあるものの、労働者全体からみれば、対象はかなり限定的といえる。使用者側はもっと広げたいであろうが、これくらい限定しないと労働者側の同意は得られないだろう。ただ、新聞報道によれば、対象業務の追加も検討されるとのことである。

2) 対象労働者
 対象労働者に関しては2つの要件を示している。
 1つは、使用者との間の書面による合意に基づき職務の範囲が明確に定められ、その職務の範囲内で労働する労働者であることだ。職務範囲が明確でなければ、なし崩し的に対象が拡大してしまう恐れがあるからだろう。
 もう1つは、1075 万円の年収要件である。なぜ、1075 万円かといえば、労働基準法第14 条で定められている、5年の労働契約が認められる「高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者」の基準の1つに年収1075 万円があるからだ。
 このように、対象業務に加えて、サラリーマンとしては高額の年収基準も設けることで、対象者は相当に絞られるはずだ。
 
(3) 健康管理時間、長時間労働防止措置(選択的措置)、面接指導の強化等
 健康管理時間とは、「事業場内に所在していた時間」と「事業場外で業務に従事した場合における労働時間」との合計で、これを把握し、長時間労働防止措置や健康・福祉確保措置を講じることを求めている。
 このうち、長時間労働防止措置として、以下のような措置を労使委員会の決議で定めることを提案している。

① 労働者に24 時間について継続した一定の時間以上の休息時間を与えること
② 健康管理時間が1か月について一定の時間を超えないようにすること
③ 4週間を通じ4日以上かつ1年間を通じ104 日以上の休日を与えること

 面接指導については、時間外労働が月100時間超の労働者には、医師による面接指導の実施を法律上義務付け、違反には罰則を付すとしている。
 このように対象者の健康管理にかなりの配慮を見せているのは、「過労死推進法案」の批判を受けることへのけん制とも考えられる。
 
(4) 対象労働者の同意
 対象労働者の範囲に属する労働者ごとに、職務記述書等に署名する形で職務の内容及び制度適用についての同意を得なければならないとし、これにより、希望しない労働者に制度が適用されないようにしている。
 
(5) 労使委員会決議
 制度導入に際しての要件として、労使委員会を設置し、以下の事項を5分の4以上の多数により決議し、行政官庁に届け出なければならないとしている。

① 対象業務の範囲
② 対象労働者の範囲
③ 対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間を使用者が把握すること及びその把握方法
④ 長時間労働防止措置の実施
⑤ 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
⑥ 苦情処理措置の実施
⑦ 対象労働者の不同意に対する不利益取扱の禁止
 
 企画業務型裁量労働制にも同様の要件があり、これに倣ったのだろう。 
 
(6) 制度の履行確保
 対象労働者の適切な労働条件の確保を図るため、厚生労働大臣が指針を定めることや、長時間労働防止措置及び健康・福祉確保措置の実施状況を6か月後に報告することなどを求めている。この点も、裁量労働制と同様である。
 
(7) 年少者への適用
 制度は年少者には適用しないことが適当としている。年収基準などから実際にはありえないが、念のためということだろう。

 
以上はあくまで骨子案であるが、概ねこの内容で正式な報告がなされる可能性が高い。報告書に基づいて法案が提出されれば、成立する見込みであり、2016年4月の施行が予想される。対象者が少ないとはいえ、労働時間法制が大きな転換期を迎えることになるのは間違いない。

(2015年1月26日)

 
 
 マタハラ裁判と通達の改正 Column No.135

 2015年1月23日、厚生労働省から男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法の解釈通達の改正版(雇児発0123第1号)が示された。
 男女雇用機会均等法第9条第3項の適用に関する、昨年10月23日の最高裁判所の判決を受けての改正である。
 どのような裁判であったかを振り返っておくと、以下のとおりである。

① 医療法人が経営する介護施設で副主任を務める理学療法士が、妊娠に伴い軽易な業務への転換を申し出た。
② これを受け、法人側は傘下の病院に異動させるとともに、副主任を免じた。
③ 育児休業後、理学療法士は介護施設に職場復帰したものの、副主任は免じられたままであった。
④ 以上の取り扱いが、男女雇用機会均等法9条の不利益取扱いの禁止等に違反するとして訴訟提起した。
⑤ 地裁・高裁は使用者側勝訴判決を言い渡したが、最高裁は原判決を破棄し、高裁に差し戻した。

 
「マタハラ裁判」として新聞等でも大きく報道されたため、承知の方も多いと思う。
 中でも経営者や人事担当者は、軽易業務への転換に際して役職を外したことが「違法」とされたことに、違和感を覚えたのではないだろうか。軽易な業務に転換したならば、役職から降りるのもやむを得ないと考えるのは自然だからである。
 この点について、具体的にどのよう場合に違法となるかは、今後の取り扱いのうえで大きな関心となるはずだ(なお、念のために言っておくと、最高裁は「違法」の判断をしたわけでなく、判断基準を示すので、これに従って再度審理せよと高裁にやり直しを命じたにすぎない)。厚労省もそのように考えたのか、通達を改正し迅速な対応を見せた。

 通達のポイントは以下のとおり。

●まず、原則として、妊娠・出産、育児休業等を契機として不利益取扱いを行った場合は、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法に違反となる。このとき、「契機として」は基本的に時間的に近接しているか否かで判断される。

●ただし、次の2つの例外がある。

① 円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障があるため当該不利益取扱いを行わざるを得ない場合において、その業務上の必要性の内容や程度が、法の規定の趣旨に実質的に反しないものと認められるほどに、当該不利益取扱いにより受ける影響の内容や程度を上回ると認められる特段の事情が存在するとき

② 契機とした事由又は当該取扱いにより受ける有利な影響が存在し、かつ、当該労働者が当該取扱いに同意している場合において、有利な影響の内容や程度が当該取扱いによる不利な影響の内容や程度を上回り、事業主から適切に説明がなされる等、一般的な労働者であれば同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき

 
内容は、ほとんど判例そのままで、趣旨はわかるものの、どのような取扱いをすればセーフなのかは判断しづらい。
 ①は、「業務上の必要性の内容や程度>不利益により受ける影響の内容や程度」となる特段の事情があればよいとのことだが、どのような事情ならば認められるかは不明である。
 ②も、「有利な影響の内容や程度>不利な影響の内容や程度」が必要としているが、今一つピンと来ない。そもそもそのような取扱いであれば不利益変更ではないではないかとツッコミを入れたくなる。
 まあ、具体的な事例は、今後の判例の積み重ねを待つしかないというところだろう。

 とにかく、会社としては、妊娠や育児に伴う処遇で不利益取扱いの可能性がある場合には、取扱いの事由を合理的に説明できるようにしておくことと、取扱いの影響を労働者に説明しておくことは、確実に実施しておきたい。

(2015年2月2日)

 
 
 裁量労働制の見直し Column No.136

 2月14日、労政審議会の労働条件分科会から、「今後の労働時間法制等の在り方について」の報告がなされた。

 当日はたまたま、会議が行われた厚生労働省の前を通ったのだが、労働団体が反対のアピール活動をするなど、ちょっとものものしい雰囲気があった。報告書にも、労働者代表委員の反対意見が随所に付されており、喧々諤々の議論があったことをうかがわせる。

 報告書の内容自体は、本コラム№134で述べた報告書案と大きな変わりはない。そのときは、最も注目を集めているホワイトカラーエグゼンプション(高度プロフェッショナル制度)について述べたが、今回は、次いで関心の高い裁量労働制の見直しのポイントを報告書に沿って整理してみたい。

 
見直しの最大のポイントは、企画業務型裁量労働制が認められる労働者の拡大で、対象業務に次の2つを追加することである。

① 法人顧客の事業の運営に関する事項についての企画立案調査分析と一体的に行う商品やサービス内容に係る課題解決型提案営業の業務(具体的には、例えば「取引先企業のニーズを聴取し、社内で新商品開発の企画立案を行い、当該ニーズに応じた課題解決型商品を開発の上、販売する業務」等を想定)

② 事業の運営に関する事項の実施の管理と、その実施状況の検証結果に基づく事業の運営に関する事項の企画立案調査分析を一体的に行う業務(具体的には、例えば「全社レベルの品質管理の取組計画を企画立案するとともに、当該計画に基づく調達や監査の改善を行い、各工場に展開するとともに、その過程で示された意見等をみて、さらなる改善の取組計画を企画立案する業務」等を想定)

 なお、新たに追加する類型の対象業務範囲の詳細に関しては、法定指針で具体的に示すことが適当であるとして、「店頭販売やルートセールス等、単純な営業の業務である場合や、そうした業務と組み合わせる場合は、対象業務とはなり得ない」、「企画立案調査分析業務と組み合わせる業務が、個別の製造業務や備品等の物品購入業務、庶務経理業務等である場合は、対象業務とはなり得ない」などを例示している。

 
①について、対象に営業業務を含めたのは、使用者側にとっては大きな収穫といえるだろう。
 ただ、内容は相当に限定されており、単なる法人向け提案営業だけでなく、商品の企画立案、開発に従事することも求められる。どの程度関与するかの問題もあろうが、大企業などでは、そのような業務は分業化されているのが普通なので、適用対象は少ないかもしれない。
 
 ②については、これまでの対象業務の範囲内のようにも見える。しいて言えば、従来は「企画立案」のみ対象であったが、これからは、「実施」の業務を行っていても認められるということだろうか。

 
今後のつめ方次第だが、示された業務内容からすると、対象労働者は基本的にはそれほど増えないと予想される。

 
他のポイントとしては、以下の3つである。

1.健康・福祉確保措置の追加

 企画業務型裁量労働制の対象労働者の健康確保を図るための健康・福祉確保措置について、現行の法定指針に例示されている代償休日又は特別な休暇の付与等に加えて、長時間労働を行った場合の面接指導、深夜業の回数の制限、勤務間インターバル、一定期間における労働時間の上限の設定等を追加すること。

2.手続の簡素化

 ①労使委員会決議の本社一括届出を認めるとともに、②定期報告は6か月後に行い、その後は健康・福祉確保措置の実施状況に関する書類の保存を義務づけること。

3.裁量労働制の本旨の徹底

・ 始業・終業の時刻その他の時間配分の決定を労働者に委ねる制度であることを法定し、明確化すること。
・ 所定労働時間相当働いても明らかに処理できない分量の業務を与えながら、相応の処遇の担保策を講じないのは不適当である旨を指針に規定すること。

 
この報告書を基に法案がつくられ、2016年4月の施行を目指して国会審議にかけられることになるが、争点は対象業務の拡大であることは間違いない。
 ただ、世間の注目は高度プロフェッショナル制度の方に集まっており、反対する野党もそちらの阻止に注力すると思われる。その見返りというわけではないが、裁量労働制の見直し案はこのまますんなりと通るかもしれない。

(2015年2月16日)

 
 
 厚生労働省のポータルサイト Column No.137

 最近、厚生労働省がネットでの情報発信を活発に行っており、いくつかのポータルサイトが開設・リニューアルされている。利用の仕方によっては有効なものもあると思うので、今回はそのうちの4つを紹介しよう。

1.「確かめよう 労働条件」 (http://www.check-roudou.mhlw.go.jp/
 労働条件に関する総合情報サイトである。

【主なコンテンツ】
 ●Q&A
 ●法令・制度のご紹介
 ●相談窓口のご紹介
 ●行政の取組
 ●裁判例 など

 この中でQ&Aは、対象を労働者と事業主・労務管理担当者の2つに分け、労働条件や労務管理に関するよくある質問と解説を掲載しており、法的知識の少ない人にはわかりやすいと思う。特に、「会社とトラブルになりそうなとき、なったときに相談したり、手助けをしたりしてくれるところがあるのでしょうか?」という質問に対する回答は、体系的に整理されていて”使える”ものだった。
 昨年11月に開設されたばかりで、裁判例などコンテンツはまだもの足りないところもあるが、今後、充実されれば結構重宝するかもしれない。

2.「パート労働ポータルサイト」http://part-tanjikan.mhlw.go.jp/
 パートタイム労働者や短時間正社員が、いきいきと働ける職場環境づくりに役立つ総合情報サイトである。

【主なコンテンツ】
 ●パートタイム労働法とは?
 ●パート指標で診断しよう!
 ●パート活躍企業宣言!
 ●他社の事例を参考にしてみよう
 ●職務評価をやってみよう
 ●短時間正社員制度を導入しよう
 ●パートタイム労働者の方へ あなたのキャリアアップを応援します! など

 
2015年4月の改正パート労働法の施行に向けて、つい最近リニューアルされたサイトである。
 それぞれのコンテンツが1つのサイトとなっており、特に「キャリアアップ」は独立したサイトと呼べるくらいボリュームがある。
 パート指標診断は、自社のパートタイム労働者の雇用管理状況をレーダーチャート等で示すことで、自社のパートタイム労働者の活躍推進の取組状況や同じ業界内(同業種、同規模等)での位置づけ等を把握できる。また、改善に向けたアドバイスや参考となる企業の取組事例も見ることができる。
 職務評価は、付属のマニュアル等を利用すれば、かなり高レベルの職務分析や評価ができる。パートだけでなく正社員にも活用でき、人事評価制度構築にも使えると思う。

3.「あかるい職場応援団」 (http://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/
 職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けたポータルサイトである。

【主なコンテンツ】
 ●動画で学ぶパワハラ
 ●他社事例
 ●裁判事例
 ●対策Q&A
 ●研修用資料 など

 
2012年10月の開設と「歴史」があることもあって、厚労省のポータルサイトの中では最も充実度が高い。更新も頻繁に行われており、相当に力を入れているようだ。
 動画で学ぶパワハラは、民間研修会社ならば有料で提供するものだろう。裁判事例も件数が多く、その上、弁護士による具体的な解説が示されていてわかりやすい。研修用資料は、社内での研修にそのまま十分に使える内容である。

4.「働き方・休み方改善ポータルサイト」 (http://work-holiday.mhlw.go.jp/
 企業が自社の社員の働き方・休み方の見直しや、改善に役立つ情報を提供するサイトである。

【主なコンテンツ】
 ●自己診断
 ●取組・参考事例
 ●政府の施策・対策
 ●トピックス など

 
昨年、閣議決定された日本再興戦略に「働き過ぎ防止のための取組強化」が盛り込まれたことを受け、その具体策の1つとして、今年の1月に開設されたばかりのサイトである。
 自己診断は、働き方や休み方の問題・課題がポジションマップやレーダーチャートで視覚的に示されるものだ。結果がパターン化されているため、実態に即した具体的な対応策は期待できないかもしれないが、現状を客観視し、改善のヒントを得る機会にはなるだろう。取組・参考事例は、今後の充実次第で活用性が高まると思われる。
 当サイトで一番重宝しそうなのは、トピックス内の関係法令等に関する資料である。厚労省が作成した労基法関連等のパンフレットが一覧でき、用途に応じた活用ができそうある。

(2015年3月3日)

 
 
 有期雇用特別措置法の概要 Column No.138

 労働契約法の改正により、平成25年4月から、同一の使用者との有期労働契約が5年を超えて繰り返し更新された場合に、労働者の申込みにより、無期労働契約に転換するという「無期転換ルール」が導入された。
  前民主党政権の置き土産のようになったこの改正は、専門労働者からパートタイマーまで一律的に適用することの問題が指摘され、すでに大学の教授や研究者などは「10年を超えて」となっているが、今般、新たに例外措置が追加された。

 具体的には、昨年11月に公布され、本年4月1日に施行される「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」(有期雇用特別措置法)」により、

① 専門的知識等を有する有期雇用労働者(以下「高度専門職」)
② 定年に達した後引き続いて雇用される有期雇用労働者(以下「継続雇用の高齢者」) 

 については、その特性に応じた雇用管理に関する特別の措置が講じられる場合に、無期転換申込権発生までの期間について特例が適用されることになった

 
今回は、法の施行にあたって、制度の概要を整理してみたい。また、別の機会に、特例の適用に必要な認定申請に関する手続や特例の適用を受ける際の留意事項等もまとめるつもりだ。

 
有期雇用特別措置法の基本的な仕組みは以下のとおりである。

① 特例の適用を希望する事業主は、対象労働者の能力が有効に発揮されるような雇用管理に関する措置についての計画を作成する。
② 事業主は、作成した計画を管轄の都道府県労働局に提出する。
③ 都道府県労働局は、事業主から申請された計画の認定を行う。
④ 認定を受けた事業主に雇用される特例の対象労働者に特例が適用される。

 このように特別措置法は、要件を満たせばOKというわけではなく、雇用管理措置について都道府県労働局の認定を受けなければならない点がポイントである。

 以下、概要を高度専門職の特例と継続雇用の高齢者の特例とに分けて整理しよう。

1.高度専門職の特例
 高度専門職の年収要件と範囲については、次のとおりである。

●年収要件
 有期労働契約の契約期間に、事業主から支払われると見込まれる賃金の額を、1年間あたりの賃金の額に換算した額が1,075万円以上であること。
 このとき、時間外労働手当や労働者の勤務成績等に応じて支払われる賞与、業務給等その支給額があらかじめ確定されていないものは含まれないことに注意が必要である。ただし、賞与や業績給でも、最低保障額が定められている場合には、その最低保障額は含まれる。

● 高度専門職の範囲
 次のいずれかにあてはまる労働者である。

① 博士の学位を有する者
② 公認会計士、医師、歯科医師、獣医師、弁護士、一級建築士、税理士、薬剤師、 社会保険労務士、不動産鑑定士、技術士または弁理士
③ ITストラテジスト、システムアナリスト、アクチュアリーの資格試験に合格している者
④ 特許発明の発明者、登録意匠の創作者、登録品種の育成者
⑤ 大学卒で5年、短大・高専卒で6年、高卒で7年以上の実務経験を有する農林水産業・ 鉱工業・機械・電気・建築・土木の技術者、システムエンジニアまたはデザイナー
⑥ システムエンジニアとしての実務経験5年以上を有するシステムコンサルタント
⑦ 国等によって知識等が優れたものであると認定され、上記①から⑥までに掲げる者に準ずるものとして厚生労働省労働基準局長が認める者

●特例の内容
 5年を超える一定の期間内に完了する業務(プロジェクト業務)に従事している期間は、無期転換申込権が発生しない。ただし、無期転換申込権が発生しない期間の上限は10年である。
 対象となるのは、「プロジェクト」なので、毎年度行われる業務など恒常的に継続する業務は該当しない。となると、該当するケースは相当に限られると思う。

 なお、
以下の場合は、その時点で通常の無期転換ルールが適用され、通算契約期間が5年を超えていれば、無期転換申込権が発生する。

 ・プロジェクトに従事しなくなった場合
 ・年収要件(1,075万円)を満たさなくなった場合 ・計画の認定が取り消された場合

2.継続雇用の高齢者の特例
●特例の内容
 その事業主に定年後引き続いて雇用される期間は、無期転換申込権が発生しない。
 継続雇用の高齢者の場合は、このように極めてシンプルである。

3.その他主なルール
 特例の効果は、事業主が認定を受けた時点がいずれの場合であっても発生する。具体的には、

・高度専門職については、プロジェクトの開始後に認定を受けた場合であっても、プロジェクトの開始前に認定を受けた場合と同様に、特例の効果が発生する。
・継続雇用の高齢者については、定年を既に迎えている者を雇用している事業主が認定を受けた場合、そうした方も特例の対象となる。
・ただし、いずれも、労働者が既に無期転換申込権を行使している場合は除かれる。

 
概要については以上である。

 繰り返しになるが、認定を受けなければ、特例措置が適用できないのが重要なところだ。
 プロジェクト業務に従事する高度専門職は、実質大企業で対象者も限られるだろうが、継続雇用の高齢者は、中小企業も含めかなりの数に登るはずである。
 中小企業などでは、認定漏れの企業が多く出ると思われ、そうなると再雇用の高齢労働者などから無期転換を申し込まれれば受けざるを得ない。とはいえ、いったん受け入れると、もう定年はないから、労働者が自発的に辞めるまで雇用を続けなければならないので、そう簡単には受け入れられない・・・。
 そのようなトラブルを避けるためにも、継続雇用の高齢者については、自動的に例外措置となる仕組みの方が適切ではないかというのが正直な感想である。

(2015年3月23日)

 
 
 短時間労働者対策基本方針について Column No.139

 3月26日、厚生労働省から「短時間労働者対策基本方針」という告示が出された。

 パートタイム労働法第5条の規定に基づき、短時間労働者の福祉の増進を図るため、短時間労働者の雇用管理の改善などの促進や、業能力の開発・向上などに関する施策の基本となるべき方針を定めるものである。4月1日からの改正法施行に合わせて打ち出された指針で、運営期間は平成31年度までの5年間とのことだ。

 
概要は以下のとおり。
  
短時間労働者の現状
1.短時間労働者数は増加傾向で、基幹的役割を担う人も増加。
2.通常の労働者(正社員)と短時間労働者(パートタイム労働者)の待遇は異なる。
3.ワーク・ライフ・バランスを実現しやすい働き方である一方、正社員としての就職機会を得られず、やむを得ず選択する人も存在。
 
短時間労働者をめぐる課題
1.待遇が働き・貢献に見合っていない場合があるため、通常の労働者との均等・均衡待遇の一層の確保が必要。
2.労働条件が不明確になりやすく、通常の労働者と待遇が異なる理由が分からない場合もあるため、短時間労働者の納得性の向上が必要。
3.希望する人に通常の労働者への転換の機会が与えられること、希望に応じてキャリアアップが図られることが必要。

施策の方向性・具体的施策
1.均等・均衡待遇の確保、納得性の向上
 ○ 「パート労働ポータルサイト」などによる法律や相談窓口設置義務の新規規定などの積極的な周知
 ○ 「短時間労働者の待遇の原則」に沿った雇用管理の改善促進、労使の取組・裁判例の動向などの情報収集
 ○ 的確な行政指導の実施による法の履行確保
 ○ 雇用管理改善などに積極的に取り組む事業主を社会的に評価するための取組の推進など
2.短時間労働者の希望に応じた通常の労働者への転換・キャリアアップの推進
 ○ 通常の労働者への転換を推進する措置義務の履行確保
 ○ 短時間正社員など「多様な正社員」の普及など
3.労働者に適用される基本的な法令の履行確保

 厚労省の指針というと、法の規制内容を具体化したものを想起するが、本指針はそうではなく、いわば対策実施に向けての決意表明という印象である。

 今回のパート法の改正は結構大がかりのものだが、企業側へのインパクトは思いのほか弱く、行政としては肩透かしを食らった感じではないだろうか。少なくとも、安衛法改正によるストレスチェックの導入に比べて、はるかに認知度は低い。

 理由の1つに、正社員と差別的取り扱いが禁止されるパート労働者など、法の内容があいまいでわかりづらいことがあると思う。多くの企業は、「よくわからないけど、
人材活用の仕組みが正社員と全く同一ということはないから、待遇が違っても大丈夫じゃないの?」という程度の認識である。

 もう1つの理由として、労基法や安衛法であれば労働基準監督署の管轄のため、それなりに親近感(?)もあるのだが、パート労働法の管轄は都道府県労働局の雇用均等室のため、あまりなじみがないことも指摘できる。よくも悪くも、パート労働法は縁遠いのである。

 上記の具体的施策の中に「的確な行政指導の実施による法の履行確保」がある。今回の指針で、厚生労働省がどこまで腰を据えて対策に取り組むかはわからないが、これまでより強化するのは間違いないだろう。
 大企業はともかく、中小企業、特に零細企業などでは、パート労働者が正社員と同様、というか正社員以上に戦力化しているケースもある。そういう労働者が、少しでも適正な待遇を得られるよう期待している。

(2015年3月31日)

 
  
 有期雇用特別措置法の手続きと留意事項 Column No.140

 前々回のコラム№138にて、4月1日に施行された有期雇用特別措置法の概要を述べた。今回は認定申請に関する手続、特例の適用を受ける際の留意事項を整理してみたい。

1.認定申請に関する手続
(1)申請書の提出
 有期雇用特別措置法による無期転換ルールの特例の適用を受けるためには、事業主が、雇用管理措置の計画を作成した上で、都道府県労働局長の認定を受けることが必要である。このとき、高度専門職と継続雇用の高齢者について、それぞれ別の計画の認定を受けることが求められる。
  なお、高度専門職について、複数のプロジェクトについて特例の適用を希望する場合には、それぞれのプロジェクトで計画の認定申請が必要となる。
 計画の申請は、本社・本店を管轄する都道府県労働局(労働基準部監督課)に提出する。事業場ごとに作成する必要はなく、本社・本店で一括して作成すればよい。

(2)特例の対象者に行うべき適切な雇用管理上の措置
①高度専門職
● 教育訓練に係る休暇の付与 高度専門職がその職業生活を通じて発揮することができる能力の維持向上を自主的に図るための教育訓練を受けるための
 ・有給休暇
 ・または長期にわたる休暇
 の付与が必要である。この休暇は、労働基準法の規定による年次有給休暇とは別のものを用意しなければならない。
● 教育訓練に係る時間の確保のための措置
 高度専門職が職業に関する教育訓練を受ける時間を確保するために必要な措置
 (例)勤務時間の短縮、始業または終業時刻の変更
● 教育訓練に係る費用の助成
 高度専門職の自発的な職業能力の開発を支援するための教育訓練に係る費用の助成
 (例)受講料等の金銭的援助
● 業務の遂行の過程外における教育訓練の実施
 高度専門職の業務の遂行の過程外において、
 ・事業主が自らもしくは共同して行う教育訓練を実施すること
 ・または職業能力の開発・向上について適切と認められる事業主以外の機関等の施設により行われる教育訓練を受ける機会を確保すること。
 (例)学会への参加
● 職業能力検定を受ける機会の確保
 ・事業主が自らもしくは共同して行う職業能力検定
 ・または職業能力の開発・向上について適切と認められる他の者の行う職業能力検定を受ける機会の確保
● 情報の提供、相談の機会の確保等の援助
 高度専門職の職業生活設計に即した自発的な職業能力の開発及び向上を促進するための援助
 (例)・業務の遂行に必要な技能・知識の内容・程度などの事項に関する情報提供
    ・キャリアコンサルタント等による相談の機会の確保

②継続雇用の高齢者
 高年齢者雇用安定法に規定する高年齢者雇用確保措置のいずれかを講じるとともに、以下のいずれかの措置を実施することが必要である。
● 高年齢者法第11条の規定による高年齢者雇用推進者の選任
● 職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等
 高年齢者の有する知識、経験等を活用できるようにするための効果的な職業訓練として、業務の遂行の過程外における
 ・教育訓練の実施
 ・または教育訓練の受講機会の確保
● 作業施設・方法の改善
 身体的機能や体力等が低下した高年齢者の職業能力の発揮を可能とするための
 ・作業補助具の導入を含めた機械設備の改善
 ・作業の平易化等作業方法の改善
 ・照明その他の作業環境の改善
 ・福利厚生施設の導入・改善
● 健康管理、安全衛生の配慮
 身体的機能や体力等の低下を踏まえた
 ・職場の安全性の確保
 ・事故防止への配慮
 ・健康状態を踏まえた適正な配置
● 職域の拡大
 身体的機能の低下等の影響が少なく、高年齢者の能力、知識、経験等が十分に活用できる職域を拡大するための企業における労働者の年齢構成の高齢化に対応した職務の再設計などの実施
● 知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進
 ・高年齢者の知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進のための職業能力を評価する仕組み
 ・資格制度、専門職制度 などの整備
● 賃金体系の見直し
 高年齢者の就労の機会を確保するための能力、職務等の要素を重視する賃金制度の整備
● 勤務時間制度の弾力化
 高齢期における就業希望の多様化や体力の個人差に対応するための勤務時間制度の弾力化
 (例)短時間勤務、隔日勤務、フレックスタイム制、ワークシェアリングの活用

2.申請後の留意事項
(1)計画の認定と変更
 申請後は、都道府県労働局において審査のうえ、認定を行う。認定されれば認定通知書が、されなければ不認定通知書が交付される。
 次の場合のように、認定された計画に変更が生じた場合には、計画の変更申請を行う必要がある。
 (例) ◇ プロジェクトの内容や主な事業場に変更が生じた場合(高度専門職)
     ◇ プロジェクトの開始の日または完了の日に変更が生じた場合(高度専門職)

(2)特例に関する労働条件の明示
● 有期雇用特別措置法による特例の適用に当たっては、紛争防止の観点から、事業主は、労働契約の締結・更新時に、特例の対象となる労働者に対して、
 ①高度専門職に対しては、プロジェクトに係る期間(最長10年)が、継続雇用の高齢者に対しては、定年後引き続いて雇用されている期間が、それぞれ無期転換申込権が発生しない期間であることを書面で明示するとともに、②高度専門職に対しては、特例の対象となるプロジェクトの具体的な範囲も書面で明示すること が必要である。
 なお、契約期間の途中で特例の対象となる場合についても、紛争防止の観点から、その旨を明示することが望まれる。

 
以上、一見煩雑な内容に思えるかもしれないが、認定要件は困難なものを要求しておらず、認定のハードルはそれほど高くない。申請書も簡素な様式で作成は容易だ。ただ、一連の手続き自体が面倒という印象である。
 ともあれ、決まったことはやらなければならない。高度専門職はともかく、継続雇用の高齢者は対象企業が多いと思われるので、該当企業は忘れずに対応したい。

(2015年4月6日)

 
 
 改正障害者雇用促進法の2つの指針~その1 Column No.141

 2013年に成立した、障害者に対する差別の禁止などを定めた改正障害者雇用促進法が、来年4月から施行される。

 これに関し、3月25日に厚生労働省から、「障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(障害者差別禁止指針)と、「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針」(合理的配慮指針)という2つの指針が告示された。

 
本コラムでは、2回に分けて、それぞれのポイントをまとめてみたい。今回は、障害者差別禁止指針である。

●障害者差別禁止指針

(1)趣旨
 障害者の募集や採用に関して事業主が適切に対処することができるよう、法の規定により禁止される措置として具体的に明らかにする必要があるものを定めている。

(2)基本的な考え方
○ 対象となる事業主の範囲は、すべての事業主である。
○ 障害者であることを理由とする差別(直接差別)を禁止する(車いす、補助犬その他の支援器具などの利用、介助者の付き添いなどの利用を理由とする不当な不利益取扱いを含む)。
○ 事業主や同じ職場で働く者が、障害特性に関する正しい知識の取得や理解を深めることが重要である。

(3)差別の禁止
○ 募集・採用、賃金、配置、昇進、降格、教育訓練、福利厚生、職種の変更、雇用形態の変更、退職勧奨、定年、解雇、労働契約の更新の各項目において、障害者であることを理由に障害者を排除することや、障害者に対してのみ不利な条件とすることなどが、差別に該当するとし、以下の例のように、各項目において差別の態様を具体的に示している。

例①:募集・採用
 イ.障害者であることを理由として、障害者を募集又は採用の対象から排除すること。
 ロ.募集又は採用に当たって、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと。
 ハ.採用の基準を満たす者の中から障害者でない者を優先して採用すること。

例②:配置
 イ.一定の職務への配置に当たって、障害者であることを理由として、その対象を障害者のみとすること又はその対象から障害者を排除すること。
 ロ.一定の職務への配置に当たって、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと。
 ハ.一定の職務への配置の条件を満たす労働者の中から障害者又は障害者でない者のいずれかを優先して配置すること。

 
例を見てもわかるように、パターンとしては次の3つである。
 イ.障害者であることを理由に○○すること(しないこと)。
 ロ.○○にあたって、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと。
 ハ.障害者(障害者でない者)を優先して○○すること。
 
○ ただし、次の措置を講ずることは、障害者であることを理由とする差別に該当しないとして、4つの類型を示している。

  イ.積極的差別是正措置として、障害者を有利に取り扱うこと。
  ロ.合理的配慮を提供し、労働能力などを適正に評価した結果、異なる取扱いを行うこと。
  ハ.合理的配慮の措置を講ずること。
  ニ.障害者専用の求人の採用選考又は採用後において、仕事をする上での能力及び適性の判断、合理的配慮の提供のためなど、雇用管理上必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者に障害の状況等を確認すること。

 
このうち、重要となるのはロであろう。 障害者であることを理由に不利益取扱いをするのは違法だが、結果的にたまたま障害者が不利益を被るようなケースが違法ではないということだ。
 たとえば、障害者だからという理由で昇進させないのは差別的取扱いとなるが、障害者の人事評価結果が芳しくなかったので昇進させないという取り扱いは問題ないと考えられる。
 もちろん、障害者を排除する目的があるとか、障害者が不利とならざるを得ないような評価をするなど、事実上障害者であることを理由に不利益取扱いをしているのならば、違法性は高くなる。

(2015年4月13日)

 
 
 改正障害者雇用促進法の2つの指針~その2 Column No.142

 厚生労働省から告示された改正障害者雇用促進法に関する2つの指針のうち、今回は「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針(合理的配慮指針)」のポイントを整理してみる。

合理的配慮指針

(1)趣旨
 改正法に定められた事業主が講ずべき措置に関して、適切かつ有効な実施を図るために必要な事項について定めたものである。

(2)基本的な考え方
○ 対象となる事業主の範囲は、すべての事業主である。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。
○ 合理的配慮は、個々の事情を有する障害者と事業主との相互理解の中で提供されるべき性質のものである。

(3)合理的配慮の手続
1 募集及び採用時
○募集・採用段階で合理的配慮が必要な障害者は、事業主に対して、支障となっている事情や改善のために希望する措置を申し出る。
○申し出を受けた事業主が、支障となっている事情を確認した場合は、合理的配慮としてどのような措置を講ずるかについて当該障害者と話合いを行う。
○合理的配慮に関する措置を確定し、講ずることとした措置の内容(過重な負担にあたる場合はその旨)を障害者に説明する。

2.採用後
 採用後は、事業主から障害者に対し、職場で支障となっている事情の有無を確認する。事情が確認された場合の対応は、上記1と同様である。
 なお、合理的配慮の手続において、障害者の意向を確認することが困難な場合は、就労支援機関の職員等に当該障害者を補佐することを求めても差し支えない。

(4)合理的配慮の内容
○合理的配慮の内容
① 募集及び採用時
 障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善するために講ずる障害者の障害の特性に配慮した必要な措置。
② 採用後
 障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置。
 ただし、障害者である労働者の日常生活のために必要となる眼鏡や車いす等の提供などは求められない。

○ 合理的配慮の事例として、多くの事業主が対応できると考えられる措置の例を「別表」として記載している。ただし、これ以外であっても合理的配慮に該当するものがある。

(別表の記載例)
【募集及び採用時】
 ・募集内容について、音声等で提供すること。(視覚障害)
 ・面接を筆談等により行うこと。(聴覚・言語障害) など
【採用後】
 ・机の高さを調節すること等作業を可能にする工夫を行うこと。(肢体不自由)
 ・本人の習熟度に応じて業務量を徐々に増やしていくこと。(知的障害)
 ・出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること。(精神障害ほか) など

 
別表では、視覚障害、聴覚・言語障害、肢体不自由など9つの障害の態様に応じて、募集及び採用時と採用後の例を示しており、具体的な対応がイメージできるのではないかと思う。

(5)過重な負担
○ 合理的配慮の提供の義務は、事業主に対して「過重な負担」を及ぼすこととなる場合を除く。事業主は、過重な負担に当たるか否かについて、次の要素を総合的に勘案しながら個別に判断する。
 ① 事業活動への影響の程度
 ② 実現困難度
 ③ 費用・負担の程度
 ④ 企業の規模
 ⑤ 企業の財務状況
 ⑥ 公的支援の有無

○ 事業主は、過重な負担に当たると判断した場合は、その旨及びその理由を障害者に説明する。その場合でも、事業主は、障害者の意向を十分に尊重した上で、過重な負担にならない範囲で合理的配慮の措置を講ずる。

(6)相談体制の整備
○ 事業主は、障害者からの相談に適切に対応するために、必要な体制の整備や、相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知する。
○事業主は、相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止を定め、当該措置を講じていることについて、労働者に周知する。

 
指針のポイントは以上である。
 企業は社会的存在であり、一定規模の企業が障害者の方に働く場を提供するのは法的な義務でもある。そのような義務感からだけでなく、障害者の活用によって職場が活性化するなどのメリットからも障害者雇用を積極的に検討すべきである。
 とはいえ、安易な受入により失敗する例も見られる。本指針が好事例を増やし、失敗事例を減らすことに役立つよう願っている。

(2015年4月20日)

 
 
 ストレスチェックの指針~その1 Column No.143

 4月15日、厚生労働省から、本年12月1日に施行される改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度の具体的な内容や運用方法を定めた「省令」「告示」「指針」が公表された。

 
「省令」は、ストレスチェックに関する安衛法の定めを具体化したものだが、「指針」はそれをさらに具体的な運用レベルに落とし込んだものである。したがって、企業が認識しておくべきは指針になると思われる。企業担当者の中にも、指針の公表を待ちわびた方がいるのではないかと思う。
 ただ、この指針は全19ページと結構なボリュームがあるので、目を通すのも正直大変だ。そこで本コラムでは、そのポイントを2回に分けて整理してみたい。

 
なお、「告示」は、ストレスチェックの実施者となることができる者のうち、看護師、精神保健福祉士が修了すべき厚生労働大臣が定める研修の科目、時間を定めたもので、一般企業には特に関係ないものである。

 
まず、正式なタイトルは、「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」である。

1.趣旨  
 ストレスチェック及び面接指導の結果に基づき事業者が講ずべき措置が適切かつ有効に実施されるよう、ストレスチェック及び面接指導の具体的な実施方法又は面接指導の結果についての医師からの意見の聴取、就業上の措置の決定、健康情報の適正な取扱い並びに労働者に対する不利益な取扱いの禁止等について定めたものである。

2.ストレスチェック制度の基本的な考え方
 この制度は、労働者のメンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)が目的で、事業場におけるメンタルヘルスケアの総合的な取組の中に位置付けることが望ましい。

3.ストレスチェック制度の実施に当たっての留意事項
① 労働者に受検義務はないが、本制度を効果的なものとするために、全ての労働者がストレスチェックを受検することが望ましい。
② 面接指導を受ける必要があると認められた労働者は、できるだけ申出を行い、医師による面接指導を受けることが望ましい。
③ 努力義務となっているストレスチェック結果の集団ごとの集計・分析及びその結果を踏まえた必要な措置は、できるだけ実施することが望ましい。

4 ストレスチェック制度の手順 
ア.基本方針の表明
 ストレスチェック制度に関する基本方針を表明する。
 
イ ストレスチェック及び面接指導
① 衛生委員会等において、ストレスチェック制度の実施方法等について調査審議を行うとともに、ストレスチェック制度の実施方法等を規程として定める。
② 労働者に対して、医師等によるストレスチェックを行う。
③ ストレスチェックを受けた労働者に対して、医師等の実施者から、その結果を直接本人に通知させる。
④ 通知を受けた労働者のうち、高ストレス者として選定され、面接指導を受ける必要があると実施者が認めた労働者から申出があった場合は、医師による面接指導を実施する。
⑤ 面接指導を実施した医師から、就業上の措置に関する意見を聴取する。
⑥ 医師の意見を勘案し、必要に応じて、適切な措置を講じる。

ウ 集団ごとの集計・分析
① 実施者に、ストレスチェック結果を一定規模の集団ごとに集計・分析させる。
② 集計・分析の結果を勘案し、必要に応じて、適切な措置を講じる。

5.衛生委員会等における調査審議
 ストレスチェック制度の実施にあたっては、その目的・実施体制・実施方法、結果に基づく集団ごとの集計・分析の方法、不利益取扱いの防止などの事項を、衛生委員会等で調査・審議する必要がある。

6.ストレスチェック制度の実施体制の整備
 実施にあたって、実施計画の策定、当該事業場の産業医等の実施者又は委託先の外部機関との連絡調整及び実施計画に基づく実施の管理等の実務を担当する者を指名する等、実施体制を整備することが望ましい。

 以下、「7.ストレスチェックの実施方法等」から「12.その他の留意事項等」までは、次の機会にまとめたい。

(2015年4月27日)

 
 
 ストレスチェックの指針~その2 Column No.144

 4月15日に厚生労働省から示されたストレスチェックに係る指針についての後半部分を整理する。

7.ストレスチェックの実施方法等
(1)実施方法
 ストレスチェックは、次の3つの領域に関する項目により検査を行う。
① 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
② 心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
③ 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目

 ストレスチェックに用いる調査票は、事業者の判断により選択することができるものとするが、「職業性ストレス簡易調査票」(57項目)を用いることが望ましい。
 心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目の評価点数の合計が高い者などを高ストレス者として選定しなければならない。 
 健康診断と同時に実施する場合は、ストレスチェックの調査票と健康診断の問診票を区別する等、労働者が受検・受診義務の有無及び結果の取扱いがそれぞれ異なることを認識できるようにしなければならない。

(2)実施者の役割
 実施者は、ストレスチェックの調査票の選定並びに当該調査票に基づくストレスの程度の評価方法及び高ストレス者の選定基準の決定について事業者に対して専門的な見地から意見を述べるとともに、ストレスチェックの結果に基づき、当該労働者が医師による面接指導を受ける必要があるか否かを確認しなければならない。

(3)受検の勧奨
 事業者は、実施者からストレスチェックを受けた労働者のリストを入手する等の方法により、労働者の受検の有無を把握し、ストレスチェックを受けていない労働者に対して、ストレスチェックの受検を勧奨することができる。

(4)ストレスチェック結果の通知及び通知後の対応
 事業者は、ストレスチェック結果が実施者から、遅滞なく労働者に直接通知されるようにしなければならない。 医師による面接指導が必要とされた者に対して、実施者が申し出の勧奨を行うとともに、結果の通知を受けた労働者が相談しやすい環境を作るため、保健師、看護師または心理職が相談対応を行う体制を整備することが望ましい。

(5)ストレスチェック結果の記録及び保存
 事業者が、労働者から同意を得て、実施者からその結果の提供を受けた場合は、当該ストレスチェック結果の記録を作成し、5年間保存しなければならない。

8.面接指導の実施方法等
 面接指導を実施する医師は、次に掲げる事項について確認する。
① 当該労働者の勤務の状況
② 当該労働者の心理的な負担の状況
③ ②のほか、当該労働者の心身の状況 事業者は、面接指導実施後遅滞なく、就業上の措置の必要性の有無及び講ずべき措置の内容その他の必要な措置に関する意見を聴く。

 面接指導の結果に基づく就業上の措置を決定する場合には、その労働者の了解が得られるよう努めるとともに、不利益取扱いにならないように留意しなければならない。

9.ストレスチェック結果に基づく集団ごとの集計・分析及び職場環境の改善
 事業者は、実施者にストレスチェック結果を一定規模の集団ごとに集計・分析させ、その結果を勘案し、必要に応じて、当該集団の労働者の実情を考慮して、当該集団の労働者の心理的な負担を軽減するための適切な措置を講じるよう努めなければならない。
 分析結果に基づく措置は、管理監督者による日常の職場管理、労働者の意見聴取、産業医などの職場巡視などで得られた情報も勘案し、勤務形態または職場組織の見直しなどの観点から講ずることが望ましい。

10.労働者に対する不利益な取扱いの防止
 労働者が面接指導の申出をしたことを理由とした不利益な取扱いをしてはならない。
 ストレスチェックを受けないこと、結果の提供に同意しないこと、または面接指導の申し出を行わないことを理由とした不利益取扱いを行ってはならない。
 面接指導の結果を理由とした、解雇などの不利益な取扱いを行ってはならない。

11.ストレスチェック制度に関する労働者の健康情報の保護
 ストレスチェックの実施前または実施時に、事業者への結果提供に関する労働者の同意を取得してはならず、結果通知後に個別に同意を取得しなければならない。
 集団ごとの集計・分析の単位が10人を下回る場合には、全ての労働者の同意を取得しない限り、事業者に結果を提供してはならない。

12.その他の留意事項等
 この制度においては、産業医が中心的役割を担うことが望ましいが、必要に応じてストレスチェック又は面接指導の全部又は一部を外部機関に委託することも可能である 派遣労働者に対するストレスチェック及び面接指導については、派遣元事業者が実施する。一方、ストレスチェック結果の集団ごとの集計・分析は、派遣先事業者が、派遣労働者も含めて実施することが望ましい。
 労働者数が50 人未満の小規模事業場においては、当分の間、ストレスチェックの実施は努力義務とされているが、産業保健総合支援センターの地域窓口(地域産業保健センター)等を活用して取り組むことができる。

 
指針のポイントについては以上である。制度実施のイメージが、ある程度つかめたのではないかと思う。

 別添として、職業性ストレス簡易調査票が示されている。おそらく、これに近いものが実際に使われることになるはずだ。
 質問項目をみてみると、「ひどく疲れた」「へとへとだ」「だるい」など同じような意味合いのものがいくつか見られるが、何か特別な意図があるのだろうか? 回答者の性格やその日の気分によっても、結果は違ってきそうである。また、問題はないと思われるよう、作為的な回答をする人も結構いると考えられる。

 まあ、そのようなことを言い出すときりがない。とりあえず、この制度がメンタル不調の未然防止に一定の効果があるのは事実だろう。 会社や人事部門にとって本制度の導入や運用は新たな負担となるが、メンタル不調者の発生は、その負担よりも大きくなるケースもある。ストレスチェックで不調者を1人でも減らすことができるのなら、大きなメリットになるのではないかと思う。

(2015年5月11日)

 
 
 社会保険の適用促進への対応 Column No.145

 先日、筆者の知り合いの経営者の方から、厚生年金・健康保険の適用申請の提出を求める文書が日本年金機構から送られてきたが、どうすればよいかという相談があった。 申請すればその時点から保険料納付が発生するが、立入検査で発覚すると、2年前にさかのぼって徴収するという「脅し文句」が付けられているとのことである。

 これについて、どのような対応がベストかを整理してみたい。

 
まず、「督促に従って、適用申請を出す必要はあるか?」だが、結論からいえばYESである。

 一昨年あたりから、厚生労働省では厚生年金の適用促進を強化しており、特に今年度からは国税庁から情報提供を受けたり、法人登記簿を調べたりして、かなり本気になって取り組んでいる。今回の文書もその一環と思われ、当局としては3年間で集中的に加入指導を行うとしている。
 この点は、厚生労働省のHPも確認してほしい(http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12512000-Nenkinkyoku-Jigyoukanrika/0000070926.pdf)。

 
ただ、必ずしも直ちに適用申請しなければならないというものではない。もちろん、原則論から言えば、適用申請はすぐに行うべきだが、事業者にもいろいろと都合があるだろう。
 年金機構によれば加入指導の流れは次の3段階となる。

① 加入勧奨
 適用調査対象事業所を把握すると、まず、加入勧奨を行い、自主的な加入を促す。加入勧奨は、民間委託により、文書や電話、事業所訪問により行う。
② 加入指導
 加入を勧奨しても自主的に加入しない事業所のうち、一定規模以上の従業員を使用する未適用事業所を中心に、年金事務所の職員による重点的な加入指導を実施する。
③ 立入検査・認定による加入手続き
 重点的な加入指導を行っても加入手続きを行わない事業所に対しては、年金事務所の職員が立入検査を行い、被保険者の資格の有無の事実を確認し、必要に応じて、職員の認定による加入手続きを実施する。 (http://www.nenkin.go.jp/service/kounen/sonota/20150120.html

 
このように段階的に進めることを公示しているため、今回の書面を無視したとしても、いきなり立入検査というのは、まずないといえる。ちなみに、②の加入指導も一定規模以上の従業員を使用する会社から重点的に行われるとされており、零細規模の事業所は後回しになる可能性が高い。そして、立ち入り検査で強制加入となった企業は平成24年度で57社であり、あくまで例外的な措置と考えられる。

 
厚労省のHPで示された予定では、加入指導に入るのは平成28年からとなっている。 ただし、国税庁からの情報提供で源泉徴収義務者と判明された企業は、今年からいきなり加入指導を始めるとしており、知り合いに送られた今回の書面は、その前触れとしてなされた可能性もある。つまり、事業所によっては、②の段階に入っている可能性があるということである。

 
いずれにしても、文書が送られてきた事業所で、社会保険の適用対象事業所であり、活動の実態があるのならば、加入義務があることは間違いない。
 今回の指導を無視しても、当面は問題ないだろうが、いずれまた、文書あるいは電話による加入督促が行われる可能性が高い。放っておけばよいというものではなさそうである。また、それまでに立入検査が絶対にないとは言い切れない。

 厚労省の本気度を見るかぎり、いつかは加入しなければならないと考えられ、いろいろ心配するよりは、早目に入った方がよいというのが筆者の結論である。

(2015年5月18日)

 
 
 コンビニ店長は労働者か Column No.146

 先月16日、東京都労働委員会からファミリーマートに、同社とフランチャイズ契約を締結した加盟店の店長は、労働組合法上の労働者に当たり、店長らが結成する組合との団体交渉に応じていないことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当するとして、命令書が交付された。

 独立した事業主であるはずのコンビニのオーナー店長が労働者に該当するという、ある意味「衝撃的」な命令である。
 
 裁判所の判決ではなく、東京都労働委員会の判断なので、それほど注目されていないが、裁判所が同様の考え方をする可能性もあり、中身を押さえておいて損はないと思う。

 ということで今回は、その中身を整理しておこう。内容については、東京都労働委員会事務局の文書を適宜簡略化した。
 
1.事件の概要
 ファミリーマートとフランチャイズ契約を締結して加盟店の店長を務めるXらは、平成24年8月に組合を結成し、ファミマに対して組合結成を通知するとともに、ファミマが再契約の可否を決定する具体的判断基準に関して団体交渉を申し入れた。

 ファミマは、Xに宛て、再契約を行わない理由を具体的に明示している旨を記載した文書を送付し、団体交渉応諾については明確な回答を行わなかった。

 
組合は、再び団体交渉申入書により、改めて団体交渉に応じられるかについて、Xではなく組合に回答するようファミマに要求したが、同社は、再度、X宛の文書により、加盟者個人との話合いの場を設けるとして、団体交渉に応ずるとの回答をしなかった。

 
そこで本件は、
①本件組合員である加盟者は、労働組合法上の労働者に当たるか否か、
②労組法上の労働者に当たる場合、会社が個々の加盟者と話合いを行うと回答し、団体交渉に応じていないことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か
 が争われた。
 
2.命令の概要
 
<主文(要旨)> 
(1)会社は、組合の組合員と会社とのフランチャイズ契約の再契約の可否を決定する具体的な判断基準についての団体交渉を拒否してはならず、速やかに、かつ、誠実に応じなければならない。

(2)会社は、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
「会社が、組合の申し入れた団体交渉に応じなかったことが不当労働行為であると認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないように留意すること。」

(3)会社は、前各項の履行報告をしなければならない。
 
3.判断のポイント

(1)
フランチャイズ契約であっても、その実態においてフランチャイジーがフランチャイザーに対して労務を提供していると評価できる場合もあり得るから、フランチャイズ契約との形式であることのみをもって、労働組合法上の労働者に該当する余地がないとすることはできない。本件の実態を鑑みると、加盟者は、会社に対して労務を提供していたといえる。

(2)以下のことから、本件における加盟者は、労働組合法上の労働者に当たる。
①本件における加盟者は、会社の事業遂行に不可欠な労働力として組織内に確保され、組み入れられていること
②その契約内容は、会社によってあらかじめ定型的に定められたものであること
③加盟者の得る金員は、労務提供に対する対価又はそれに類する収入としての性格を有するものといえること
④加盟者は、会社からの業務の依頼に応ずべき関係にあること
⑤広い意味での指揮監督の下で労務提供している実態があること
⑥本件における加盟者が顕著な事業者性を備えているとはいえないこと
 
(3)本件の団体交渉申入れ事項であるフランチャイズ契約の再契約の可否の基準は、義務的団体交渉事項に当たると解するのが相当であり、会社が、組合との団体交渉に応じていないことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。

 内容は以上である。

 注目したいのは判断のポイントで、フランチャイジー(店長)がフランチャイザー(コンビニ本社)に実態的に労務を提供していることの根拠として示されている(2)①~⑥である。

 ①~⑤については、確かにその通りといえるが、これをもって労務の提供があると判断するのはどうだろうか。この要件ならば、コンビニのフランチャイズ契約だけでなく、世の中の業務委託契約や顧問契約なども多く該当するのではないかと思う。極論すると、このような要件を満たさない契約は、発注元にとって役に立たないのではないだろうか。⑤の「広い意味での指揮監督・・・」の「広い意味」の取り方にもよるだろうが、指揮監督がなければ、発注者の期待する成果は見込めないと思う。
 それとも、ファミマ側からの店長への関わりが、想像以上に上司ー部下の関係に近かったのだろうか。

 唯一、納得できるのは⑥で、脱サラをした人や個人商店主などであれば、その点については、労働者とみなすのは可能だろう。ただ、本件Xらが、そうであるかどうかは不明で、もしXらが法人の経営者ということであれば、この要件を当てはめるのは明らかにおかしいといえる。

 ちなみに労働委員会のメンバーは、公益委員(弁護士や学者)、労働者委員(組合)、使用者委員(経営者)から成っている。本件について、使用者委員は反対すると思われ、議論は相当に墳叫したのではないかと推察する。

 
ともあれ、命令は下され、公にもなった。今後、別の店長が労働者性を訴えて「残業代請求」の裁判を起こすことも考えられ、コンビニ会社は戦々恐々としているのではないかと思う。

(2015年5月25日)

 
 
 ストレスチェック実施マニュアル Column No.147

 先月、厚生労働省から「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」が出された。
 「実務を担う産業保健スタッフ等向けに各事業場でストレスチェック制度を適切に導入し運用していくための進め方と留意点を示した手引き」である。本文が約120ページ、資料を含めると170ページにもわたる詳細なマニュアルである。

 ストレスチェックの運用に関しては、これまで、指針やQ&Aが示されていたが、このマニュアルは、おそらく現状では最も具体的な解説書・手引書になるだろう。 当局が発行しているものなので、これに従った取り扱いをすれば、違法性を問われることがないのも安心である。

 内容は、法令や指針の解説が中心であるが、硬い表現の法令・指針と違って「ですます調」でソフトにわかりやすく述べられている点が利用者にはありがたい。

 特に運用の参考となる具体的事例が豊富に記載されており、産業医等の実施者だけでなく、企業の実務担当者にも有用ではないかと思う。

 たとえば、「事業場における心の健康づくり計画及びストレスチェック実施計画」(P15~)は、活動方針や実施体制等を網羅的に整理しており、必要な個所を選択したり、修正したりすれば、十分に利用可能である。ストレスチェック制度規程にも応用できるだろう。

 また、「ストレスチェック実施時の文例」(P29)、「ストレスチェックの受検を実施者から催促する場合の文例」(P45)、「面接指導の勧奨文書例」(P56~)など、社員向けのアナウンス文書が、日時等適宜埋めるだけで使えるよう、実用的なものが示されている。

 さらに、集団ごとの集計・分析の結果に基づいて、事業者は職場環境の改善のための取り組みが求められるが、「仕事のストレス判定図等を活用した職場改善の取組み」(P90~)や「職場環境改善のためのツール」(P92~)では、その内容について体系的に示している。 また、「集団的分析の方法と結果の活用方法」(P95~)では、いくつかの企業の具体的事例も掲載している。

 指針では、ストレスチェックや面接指導は、当該事業場の産業医等が実施することが望ましいが、必要に応じて外部機関に委託することも可能であるとしている。実際、産業医が形骸化していたり、実施者として対応できなかったりして、外部機関に頼る企業も多いと思われる。
 その際、外部機関が適切な実施体制を備えているかは重要となるが、「外部機関にストレスチェック及び面接指導の実施を委託する場合のチェックリスト例」(P117)にて確認ができる。

 このように、今回のマニュアルは実務的な利用価値が高いと思われる。全体のボリュームは相当なものがあるが、産業医等の実施者向けの内容も多く、企業スタッフに必要な個所に限ればそれほどではない。「指針」と併せて読めば、実施の流れをかなり押さえることができるはずである。

(2015年6月22日)

 
 
 精神障害による労災 Column No.148

 先月25日、厚生労働省から平成26年度「過労死等の労災補償状況」が公表された。

 内容は、大きく「脳・心臓疾患」によるものと「精神障害」によるものに分けられるが、このうち「精神障害」では、労災請求件が1,456件(前年1,409件)、支給決定件数が497件(前年436件)と、ともに過去最多となった。
 詳細を見てみよう。

〇決定件数
 平成26年度の決定件数(当該年度内に業務上又は業務外の決定を行った件数で、当該年度以前に請求があったものを含む)は1,307件(前年1,193件)となった。
 うち支給決定件数は、既に示したとおり497件である。決定件数に占める支給決定件数(=認定率)は38.0%となった。ちなみに認定率は、この5年間30~40%程度で推移している。
 これらのうち自殺(未遂を含む)は、決定件数210件、支給決定件数99件(認定率47.1%)である。5年間を見ても、自殺の場合の認定率は5~10ポイント高い。なお、自殺の決定件数の9割は男性である。

〇業種別・職種別の状況
 業種別に請求件数の多さを見ると、①その他の事業(291件)、②製造業(245件)、③医療・福祉(236件)、④卸売業・小売業(213件)、⑤運輸業・郵便業(144件)の順番となっており、これらで全体の約7割を占める。
 ちなみに就業者数は、製造業1,040万人、医療・福祉757万人、卸売業・小売業1,059万人、運輸業・郵便業336万人である(2014年「労働力調査」)ことから、特に運輸業・郵便業において、就業者数の割に請求件数者が多いことがわかる。

 職種別では、①専門的・技術的職業従事者(347件)、②事務従事者(336件)、③サービス職業従事者(193件)、④販売従事者(155件)、⑤生産工程従事者(127件)の順で、これらで全体の約8割を占める。

〇年齢別の状況
 年齢別の請求件数では、以下のとおりとなっている。
 
19 歳以下
15
20 ~ 29 歳
297
30 ~ 39 歳
419
40 ~ 49 歳
454
50 ~ 59 歳
217
60 歳以上
54
合計
1,456

 30~49歳の働き盛りが約6割を占め、経営者や部門長と、若手の間で苦悩する中間層の様子が目に浮かぶ。

〇時間外労働時間数別の状況
 支給件数を1ヵ月の時間外労働時間数で見てみると、160時間以上67件(%)とあり、長時間労働が重大な要因となっていることがわかる。ただし、20時間未満でも118件(%)あることから、長時間労働以外の要因も影響を与えていることがうかがえる。

〇就労形態別の状況
 就労形態別の決定件数は、正規職員・従業員が1,099件で圧倒的割合(84%)を占める。一般に正規社員の割合は6割とされていることを考えると、非正規社員に比べて、正規社員のストレスが強いことがうかがえる。

〇出来事別の状況
 出来事別に決定件数を見ると、上位の5つは以下である。

上司とのトラブルがあった 
 221
(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた  
 169
仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった  
 129
悲惨な事故や災害の体験、目撃をした  
101
1か月に80時間以上の時間外労働を行った
89

 一方、支給決定件数で見ると、以下のようになる。

悲惨な事故や災害の体験、目撃をした
 72
(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた  
 69
特別な出来事
 61
1か月に80時間以上の時間外労働を行った  
 55
仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった  
 50

 特別な出来事とは、心理的負荷が極度のもの等で、61件の決定のうちすべてが支給決定されている。決定件数で1位の 「上司とのトラブルがあった」は、21件の9位で、認定率は9.5%となる。同様の「同僚とのトラブルがあった」も認定率は5%(2/40)と低く、逆に「セクシュアルハラスメントを受けた」は57%(27/47)と高いことから、労災認定を受けやすい(受けにくい)事由があることがわかる。

 
請求件数が増えていることの要因について、厚生労働省からのコメントはないが、精神障害そのものが増加していることや、労災請求がより身近になっていることは間違いないだろう。折しも、今年の12月からストレスチェックが義務づけとなる。これが、来年以降のこの調査結果にどのような影響を与えるか興味深い。

(2015年7月13日)

 
 
 副業許可にあたっての留意事項 Column No.149

 これまで副業を認める企業は少なかったが、近年は、業績の低迷による賃金の低下や、仕事の多様化で副業の選択肢が増えたことなどから、副業OKに転換するところも増えてきた。
 本稿では、副業許可にあたっての留意事項を、許可の仕方、社員への周知事項、副業をすることのリスクという観点からまとめてみたい。

1.許可の仕方
 
許可にあたっては、①完全自由、②届出制、③許可制の3つがある。
 ①の完全自由は、文字通り副業を自由化するもので、会社としては基本的に関与しないことになる。ただし、2に述べるような制限を設けることは可能である。
 ②の届出制は、事前に届け出を行ってもらうことにより、副業の際の留意事項を認識させるとともに、副業開始後の社員の状態を確認しやすくし、状況によって副業の制限や禁止などの措置を講ずるものである。
 ③の許可制は、副業をするときには事前に会社の許可を得てから行うことを就業規則に定めるものである。大半の企業は、現状ではこれを採用しているのではないかと思う。許可制といっても、実質は副業禁止の意味合いが強いため、許可の手続き等は定めていないケースが多い。

 副業を認めると、後述のように過重労働や時間外割増賃金などの問題が生じるので、会社としては何らかの関与をしておいた方がよい。したがって、副業を原則認めるにしても、①よりは②の届出制の方が適切である。また、例外的にしか認めないというのであれば、現状の許可制を具体的に制度化するという選択肢もある。

2.社員への周知事項
 ①②の方法を取る場合は、下記について社員に周知すべきである。

 原則として、会社の許可を得ることなく(あるいは、事前届け出により)副業を認めるが、次に揚げる業務への就業や開業は禁止または事前許可を得るものとする。

ア.会社の名誉・信用を損なうおそれのある業務
⇒たとえば、取引先等の信用を得るために会社名や会社での地位、職務内容等を用いるような業務や、社会通念上、社員として関わることを避けるべきと考えられる業務等

イ.会社での就業に支障を生じるおそれのある業務
⇒たとえば、平日深夜にわたるような業務や、所定休日のすべてを使うような業務等

ウ.会社の利益を損なうおそれのある業務
⇒たとえば、会社の業務と競業する業務や同業他社と関係をもつ業務等

エ.会社の業務の適正さを損なうおそれのある業務
⇒たとえば、会社の取引業者と関係をもつ業務等

 なお、これらは③許可制にした場合の許可基準となるものでもある。

3.副業をすることのリスク
 副業をすることによる主なリスクには、

 ① 過重労働による社員の健康の不安
 ② 時間外労働割増賃金の発生と負担
 ③ 他社での労災

 などがある。副業を認めるということは、これらのリスクに対して、会社が一定の責任を負うということだ。
 ちなみに②は、
 ア.時間外労働を発生させた企業が負担する
 イ.後で契約した方が負担する
 という2つの考え方があるが、アの方が有力である。したがって、社員が朝刊配達のアルバイトをしたときなどは、通常勤務をしても時間外労働割増が発生することになる。さらには月60時間超の時間外労働の可能性も出てくる。

 ③に関しては、労災保険の適用は当然他社にあるとして、自社では私傷病の扱いにするのか、その際一定の給与保障をする定めがある場合はどうするのかといった問題がある。

 
こういったリスクにどう対応するかを含めて、副業許可にあたっては慎重な検討が必要であることに留意したい。

(2015年7月21日)

 
 
 時間単位年次有給休暇のポイント Column No.150

 今回は、時間単位年次有給休暇のポイントを整理したい。
 時間単位年休は、2010年4月施行の改正労基法により導入された制度で、労使協定を締結することで、年間5日分を上限に取得可能とするものである。

 労使協定の締結事項は次の4つである。
 
① 時間単位年休を与えることができる労働者の範囲
② 時間単位年休として与える日数(5日以内)
③ 時間単位年休1日の労働時間
④ 1時間以外の時間を単位とする場合の時間数

 
それぞれ留意点を確認しておこう。

 
①は、適用することで事業の正常な運営を妨げることがないかという観点から判断する。 したがって、従事する業務や部署ごとに範囲を決定するのは可だが、休暇を取得する目的・理由で対象者を決定するといった取扱いは不可である。また、フレックスタイム等の勤務形態やパート等の雇用形態から決定することもできない。

 
②は、入社年次や雇用形態に応じて付与日数を変えることは問題ない。
 当該日数は年間で固定されるものであり、枠が未消化だからといって、その分翌年にプラスされたりはしない。たとえば、5日と決めたなら、時間単位年休を使おうが使うまいが、翌年も5日となる。
 なお、時間単位年休の権利そのものは、当然に次年度に繰越可能である。たとえば、1日単位と合わせて5日プラス3時間分残った場合で、翌年に12日間付与されるのなら、合わせて17日プラス3時間の権利を有することになる。
 法定を上回る年休を付与している場合は、その分については、5日を超える時間単位年休としてもかまわない。

 
③は、1日の所定労働時間を下回ってはならない。時間単位年休の単位は時間なので、所定労働時間が8時間の場合は、そのまま8時間をもって1日分とすればよいが、7時間30分の場合は、これを切り上げて8時間とする必要がある。この場合、時間単位年休の付与日数が5日であれば、8×5=40時間の権利を有することになる。7.5×5の37.5時間でないことに注意したい。 もちろん、所定労働時間が6時間のパートには、6×5の30時間でよい。

 
④は、たとえば単位を2時間とするということだ。このとき、1日の所定労働時間数に満たない範囲内で設定しなければならない。たとえば、1日の所定労働時間が6時間のパートタイマーがいる事業場であれば、5時間以内にしなければならないということである。なお、さきに述べたように分単位の設定は不可である。

 その他の留意事項としては以下の3点を押さえておきたい。
 
●時間単位年休も使用者の時季変更権は認められるが、時間単位年休を日単位に変更することや、逆に日単位年休を時間単位年休に変更することは、時季変更にあたらず、認められない。

時間単位年休の計画的付与は不可である。

●従来から
認められてきた半日単位年休とは別の制度である。したがって、時間単位年休制と半日単位年休制とが併存しても問題はない。

(2015年7月27日)