精神障害による労災が増加している。厚生労働省が6月28日に公表した2023年度「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害に関する請求件数は3,575件(前年度比892件増)、支給決定件数は883件(同173件増)となった。支給決定件数は5年連続で過去最高を更新とのことで、5年前に比べて7割以上増えている。
請求件数の多い業種は、社会保険・社会福祉・介護事業(494件)、医療業(391件)、道路貨物運送業(152件)である。支給決定件数の多い業種は、社会保険・社会福祉・介護事業(112件)、医療業(105件)、総合工事業(57件)である。
また、請求件数の多い職種は、一般事務従事者(582件)、保健師・助産師・看護師(224件)、介護サービス職業従事者(206件)である。支給決定件数の多い職種は、一般事務従事者(107件)、保健師・助産師・看護師(77件)、自動車運転従事者(53件)である。一般事務従事者がトップになっているのは、母数が多いからと考えられ、それに対して、医療・介護職の多さが目立つ。これらの職種の精神的負担の大きさがうかがえる。
請求件数を年齢別で見ると、40~49歳(953件)、30~39歳(848件)、50~59歳(795件)、20~29歳(778件)となっている。絶対数では中高年層が多いが、年齢階層別の雇用者数は40~49歳や50~59歳が多いことを踏まえると、割合で言えば若年層の方が高いといえそうだ(2022年の雇用者数は、20~29歳971万人、30~39歳1102万人、40~49歳1409万人、50~59歳1341万人である)。
出来事別の決定件数(※年度内に業務上又は業務外の決定を行った件数)を見ると、「上司とのトラブルがあった」598件が最多で、以下、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」289件、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」265件、「セクシュアルハラスメントを受けた」156件と続く。
一方、出来事別の支給決定件数では、「上司等から身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」157件、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」111件、「セクシュアルハラスメントを受けた」103件、「仕事内容・仕事量の大きな変化」100件の順となっている。請求件数で最多の「上司とのトラブルがあった」は21件で、認定率は3.5%(21件/598件)と低く、労災認定のハードルは高い。
いわゆるカスハラ「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」は、83件の決定で52件が支給決定されており、認定率は高い。カスハラは決定件数83件のうち女性が66件と多いのも特徴だ。
逆に、「業務に関連し、重大な人身事故、重大事故を起こした」「多額の損失を発生させるなど仕事上のミスをした」「新規事業や、大型プロジェクト(情報システム構築等を含む)などの担当になった」「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」などは男性の請求が多い。テーマからはズレるが、任せる仕事に男女間で差があることがわかる。
精神障害による労災が増えているのは、人手不足に伴う業務負担の増加、その中で成果を問われることへのプレッシャーの増加、人間関係の複雑化や希薄化などの側面が大きいと思われる。
一方で、近年は、人的資本経営や社員エンゲージメント向上の観点から、働きやすい職場づくりやメンタルヘルスケアを重視する企業は増えているはずだ。まだ、浸透が足りないのか、それとも、効果が出るまでにはしばらく時間がかかるのか、そもそも効果は期待できないのか。今の時点で判断するのは難しく、来年度以降の状況に注目したいと思う。