① 月例給与として変動が大きすぎる 給与が受注状況によって大きく変動するため、社員にとって安定した生活の基盤がつくりづらくなります。また、企業にとっても、収益が不安定となり、経営上のリスクが高まることになります。 ② 給与決定の際の経営者の負担が大きい 勘案したり調整したりする事項が多々ある上、社員への説明も必要となり、経営者に過大な精神的・時間的負担がかかっています。 ③ 完全歩合制や既往労働分の繰り越し払いなど、法的に不透明な点がある 完全歩合制の給与となっており、少なくとも制度上は基本給ゼロもあり得ることから、「出来高払制の保障給」を定める労働基準法や最低賃金法に違反するおそれがあります。また、本来、所定の期の給与に反映すべき営業実績を次期以降に繰り越すのは、労基法の「全額払いの原則」に反するおそれがあります。
① 合理性の確保 給与決定の際に考慮する事項を合理的に説明できるようにする。 ② 安定性の確保 給与は、社員が安心して生活をするための基盤であることを踏まえ、一定レベルを確保するとともに激しい変動のないようにする。 ③ 簡易性の確保 勘案事項や調整事項を整理するとともに、基準を明確化し、容易に給与決定ができるようにする。 ④ 合法性の確保 労働法上の問題点をクリアし、労務リスクの発生を抑制できる制度にする。 ⑤ 納得性の確保 以上により、社員の納得性を高め、意欲的に働くことのできる労働環境を確保する。
なお、課題を実践する上で、次の3点に留意しながら進めていきました。
① 既得権を考慮しながら実践すること ア)現状の支給額をベースにする。 イ)過去の実績(持ち越し分)をうやむやにせず、何らかの保障対策をする。 ② Y社の特性を考慮すること 一般的な賃金制度では、業績に応じた報酬額の変動は賞与で行いますが、Y社では賞与支給がないため、給与に賞与相当分が含まれると考え、ある程度変動性のある仕組みも可とする。 ③ 現行制度のメリットは維持する 現行制度で、社員のモチベーション向上に役立っているなど、労務施策として機能していると考えられるものはできるだけ維持する。
具体的取り組み 以下のように、賃金制度を改定しました。 ① 固定基本給の設定 ・3年間の給与を平均した額を仮月給額とし、そのうちの6割を基本給としました。 ・基本給は、1年に1回の能力評価に基づいて決定します。具体的には、評価によって基本給テーブル上を昇給/降給するようにしました。 ② 変動成果給の設定 ・残りの4割は、業績評価に基づく成果給としました。業績評価指標には、粗利益以外にも、品質管理、工程管理、安全管理、顧客管理等を取り入れました。 ・成果給については、一般の賞与部分を含むと考え、大きく変動するようにしました。これにより、現行制度と同様に、利益に貢献すれば高報酬が得られるという仕組みを残しました。 ③ 営業手当の見直し ・営業手当を時間外労働手当の見合いとして明確化するとともに増額しました。 ④ 持ち越し分の精算 ・貯金として持ち越されていた分は、一時金で支払いました。