コンピテンシー評価

 ここでは、コンピテンシーに基づく評価制度を説明します。

 コンピテンシーとは

 コンピテンシーとは、定義的に言えば「特定の職務において高い業績を継続的に上げている社員に固有に見られる行動特性」のことですが、ごく簡単に言うと「できる社員の行動ノウハウ」あるいは「優秀な社員の行動パターン」です。

 コンピテンシーは、①「~する」という具体的行動で記述されるのが特徴で、そのため、これを評価に用いれば、

 ① 評価者にとって評価しやすい
 ② 被評価者にとって具体的な行動をイメージでき、能力開発しやすい
 ③ 成果に直結するため業績向上が期待できる

 
 といったメリットがあります。

 コンピテンシー評価は、1990年台の終わり頃から、日本の企業に盛んに取り入れられるようになり、今では、一部の自治体でも採用されています(この辺りのことについては、ミニコラム「日本式コンピテンシー」も参照ください)。

 コンピテンシーが重視される理由

 当オフィスでも、評価制度の設計にあたっては、コンピテンシーを1つの柱としています。ただし、「コンピテンシー」という言葉は一般の社員にはわかりにくいため、単に「行動評価」という言い方をすることも多いです。

 評価制度設計でコンピテンシーを重視するのは、次の2つの理由からです。

 ① コンピテンシーが業績により近いこと
 業績を上げるためには、それを効果的に生み出す適切なプロセスが求められます。プロセスとは、端的に言れば、職務上のさまざまな行動のことです。行動は、次に示すように、各社員の能力と意欲(=やる気)が掛け合わされて発揮されると考えられます。
 能力 × 意欲 ⇒ 行動(コンピテンシー) ⇒ 業績
 たとえば、どんなに高い能力を持っていても、意欲がゼロであれば、行動として表れませんし、逆に、どんなに意欲があっても、能力が低ければ、高業績につながる優れた行動は期待できません。行動を評価することで、業績との連動性が高くなるということです。

 ② コンピテンシーが評価しやすいこと
 なぜ、能力や意欲を評価対象としないのかというと、これらは、他者から見てわかりにくく、誤った評価をしてしまうおそれが高いからです。その点、コンピテンシーであれば、基本的に「している」か「していない」ですので、判断が容易となります。また、先に述べたように、能力開発指針として活用することも期待できます。

 コンピテンシーモデルの設計手法

 どのようなコンピテンシーを評価するか、すなわち、コンピテンシーモデルの設計の手法には、モデル対象をどこに設定するかによって、理想モデル型実在モデル型の2つに分けられます。両者の特徴は次のとおりです。

理想モデル型

・自社が必要とする人材像や、実際の業務におけるあるべき姿、取るべき行動をコンピテンシーとして抽出する方法
・比較的簡便に作成できるが、有効なコンピテンシーが設定できるとは限らない
・中小企業向き

実在モデル型

・自社内で高い業績を上げている社員への面接、行動の観察等を通じて、行動特性を抽出する方法
・厳密な形でのコンピテンシーが作成できるが、時間・労力・費用がかかる
・大企業向き

 通常、同部署に社員が多数いて、優秀な社員も存在する大企業以外は、理想モデル型による設計が中心になります。これに適宜、実在モデルの情報を加えていくという手法が実際的と考えられます。

 また、独自にコンピテンシーを抽出するのか、あらかじめ用意されたモデルの中から選択するのかによって、抽出型選択型に分けられます。

抽出型

あるべき人材像や高業績の社員を通じて、独自に行動特性を抽出する方法

選択型

コンサルタントファームや書籍など、あらかじめ体系化されたコンピテンシー・ディクショナリーから自社に適合するものを抽出する方法

 実際には、まったくのゼロから抽出していくのは、困難かつ非効率ですし、選択したモデルをそのまま使うのも非実用的ですので、両者の折衷ということになります。人事のプロフェッショナルがいる企業を別にすれば、選択型を基本に、自社独自の項目を追加したり、アレンジしたりするのが現実的といえます。

 設定するコンピテンシーの数は、10前後が適切です。多すぎると評価のときに大変ですし、少なすぎると肝心の成果が出なくなるおそれがあります。管理職のコンピテンシーは、あれもこれもと特に多くなりがちなので、十分に絞り込むように留意したいです。

 また、ある程度絞り込んだら、全社員にその中でどれが特に重要かとアンケートをとってみるのもよいでしょう。現場の有益な情報が得られると同時に、社員に制度づくりに参加しているという意識が高まり、制度が浸透しやすくなるからです。

 設計したコンピテンシーについては、評価に関する説明会や人事評価研修を実施して、
全体に周知・理解してもらう機会をつくるのが有効となります。


 当オフィスのコンピテンシー・ディクショナリー

 当オフィスでも、コンピテンシー・ディクショナリーを作成しています。コンピテンシーは全部で61項目あり、下記の5つのカテゴリーに分類されます。

組織リード

組織を活性化させ、組織力を高めるためのコンピテンシー 

人間関係構築

人との信頼関係を築き上げるためのコンピテンシー

マネジメント

集団を管理し、業績を上げていくために必要なコンピテンシー

業務遂行

個々人の業務を円滑に進めるために必要なコンピテンシー

マインド

役割責任を果たすために求められる意識面のコンピテンシー

 コンピテンシー・ディクショナリーは、カテゴリー、定義、具体的行動例、行動レベル、対象職種、対象職位という構成になっています。

 具体的行動例は、当該コンピテンシーの発揮例を5つ程度挙げたもので、ディクショナリーの核となる部分です。それぞれ、最後に要はどういうことかという「着眼点」をカッコ書きで記しています。行動レベルは、当該コンピテンシーにおける、最高レベルの行動から最低レベルの行動を5段階で説明したものです。対象職種は、生産職、事務職、営業職、全職種に分けています。また、対象職位は、部長、課長、係長、一般職、全職位という区分になっています。参考例として、下記に「戦略的思考」のディクショナリーを掲載しておきます。

コンピテンシー

戦略的思考

カテゴリー

マネジメント

定義

外部環境の動向を踏まえたうえで、将来のビジョンを構想し、それを実現していくための戦略シナリオの策定や課題の設定・提案を行うこと

具体的行動例

1年後、3~5年後の事業展開についてビジョンを持ち、それを念頭に置いた計画立案や課題設定を行っている。(ビジョンに基づく戦略立案)
経済情勢や業界動向、消費者動向などの外部環境を把握し、部門の戦略策定や運営に活かしている。(環境変化の把握)
短期の利害ではなく、将来を予測し、長期的な視点に立った意思決定を行っている。(長期的視点)
細部やロジックに過度にとらわれることなく、問題に対して大局的な側面からアプローチをしている。(大局的観点)
経部門の利害にとらわれず全体最適の視点から全社の利益をベースに意思決定している。(全体最適の視点)

行動レベル

Ⅴ.鋭い洞察力と先見性により、説得力あふれる戦略的思考を展開し、説得力あふれる戦略的思考を展開する。これにより会社全体の方向づけに多大な影響を与えている。
Ⅳ.戦略的観点から見識のある意思決定をする。その前提条件として、将来の構想を鋭い洞察力で描き、戦略シナリオや戦略課題を明らかにしている。
Ⅲ.説得力のある根拠をベースに将来を洞察し、管轄する部門がとるべき戦略シナリオや持つべき戦略課題を設計している。
Ⅱ.戦略的な考えは持つが、内容がアバウトで理論的根拠や説得力に乏しい。戦略シナリオや戦略課題も単純な楽観論や悲観論に陥りがちである。
Ⅰ.環境分析がなされず、ビジョンも持たない。目先の利害にとらわれ近視眼的な発想に陥っている。

対象職種

全職種

対象職位

部長クラス


 能力開発への展開

 評価の目的は社員の能力開発に結びつけ、業績を向上させることにあります。
 コンピテンシーは、それに適したツールと言えます。なぜなら、本人の具体的な行動の実践や是正なので、意識をして努力をすれば必ず改善していけるからです。能力や情意といったものに比べて、能力開発にあたって何をすればよいかが、明確にイメージできるということです。
 コンピテンシーによる能力開発の具体的手法については、こちら⇒「コンピテンシーによる能力開発」を参照ください。